魔力なくても…
マナミが魔剣から人の姿に顕現して、その表情は人形の様に可愛いらしいのだけど、人の顔の表情……そう喜怒哀楽の表情がほとんど無い。
いや……今まで見た顔の表情は感情が無い人形の表情と俺の事をたまに心配する哀しそうな表情しか見た事が無かった。
人で有って魔剣に成り、生き物を辞めモノに成ったのだから仕方ない事と思っていたけど……そのマナミが人の様に涙を流し笑ってくれた。
マナミの笑顔を見れた時、俺にある決意が芽生えた。
そう、その決意とは、もともと俺には魔力が無いものと思っていた訳だし、ダハムートにも言っていたが魔力も魔法も無くても俺は不便も不自由もない。
だって魔力なくても超能力が使えるから……っと言う事で、今日から俺の魔力はマナミの食事専用としよう。
ただ単に魔力の供給をするのじゃなく、より美味しくマナミが喜んで食べれる食事にしようと決意を固めた。
◇ ◇ ◇
この樹海のような森の中で唯一魔獣が寄りつかないスポットということで、今晩はここで野宿をすることに。晩ご飯もデリバの焼き鳥を作り、マナミ用に魔力を練りながら焼き鳥に流し込む…いくら流し込もうとしても流し込めない。
途中諦めて炭酸飲料に魔力を流し込む。
「ん〜炭酸飲料には上手く流し込めるんだけどなぁ〜」
食べ物のように固形物には魔力は流し込めないのかな?イヤそんなはずは無い!武器とかに流し込む事が出来るようだから、多分俺の修練が足らないんだ。カラダを鍛えるのも大事だけど次からは魔力を練る訓練も追加だな。
そういえば魔力を練る訓練をしている時にダハムートが妙なことを言っていたなぁ〜。ケンジの力は魔法を会得しただけでは無いと。その時は俺も、そりゃあ超能力と魔法が使えれば無敵チートだろうと思ったけど、ダハムートの話をよくよく聞けば、相手の魔法を阻害というか無効にしてたと言ってだなぁ……それってアンチ・サイ?
いやいや魔法がアンチ・サイで無効にできなかった事は実証済みだし。
脳筋バカ相手に飛び級技能試験をする時、魔法をアンチ・サイで無効にしようと思い、アンチ・サイが効かなくて火傷しかけたからなぁ……ケンジは魔法で相手の魔法を無効にすることができたのかな?そう考えると辻つまが合うような?まぁイイか!もう居ない奴の事を考えても仕方ないし。
奴は奴、俺は俺だし。大体近くで見ていたダハムートがしっかり色々と観察していないのが一番悪い!考えるのはヤメだ。
今日は、ゆっくり休んで明日は朝からデリバ狩りだね。
◇ ◇ ◇
翌朝、朝食を食べた後にデリバ狩りを再開。相変わらず飲み物には、魔力を流し込めたのだけど食べ物にはムリだった。因みにコーシーに魔力を流し込みマナミに試飲してもらったのだけど、マナミはコーシーより炭酸飲料のほうが好みらしい。
もしかして!マナミの味覚はお子ちゃまのままだったりして!まぁソレはソレで構わないんだけど。
そんな事を考えながらデリバ狩りを続ける、結構相当な数を狩ってる訳なんだけど、コイツら一向に減らない。
初めは生態系のバランスが崩れるんじゃないかと心配するくらい狩ってたけど……そんな心配がないほど凄い群れ!逆に定期的に狩りをする方が良さそうだね。
つーコトで2日目にしてデリバ狩りは飽きた!良く考えたら瞬間移動をすればいつでも来れるし、そろそろアマゾーン国へ行こうかな。
もちろん徒歩でも無く飛行でも無い。いまいち場所に自信は無いけど瞬間移動で!以前クレアさんに地図上で教えてもらった場所辺りにテレポして見よう。
いきなり町中に現れてビックリされるのも困るし瞬間移動の事を根ほり聞かれるのも面倒なので以前アマゾネスに捕まった辺りがイイかな?あそこからアマゾーン国まですぐ近くだったし、ウンそうしよう。
「マナミ!今から瞬間移動で目的の場所まで飛ぶから俺の手を離さないようにな」
"コクコク"
マナミには既に俺の能力、瞬間移動の事はバレてるけど、敢えて俺の能力について聞かれないし口も固そうだから心配は無い。
もしかしたらダハムートに俺が異世界から来た事を伝えられてるかもしれない。まぁマナミはベラベラ喋るタイプの子ではないから大丈夫でしょう。
「そうだマナミ。マナミはさー俺の妹になったんだから、そのなんと言うか俺の呼び方をマスターじゃなくて、お兄ちゃんとかで呼んでくれない?それとも俺がマナミのお兄ちゃんじゃイヤか?マナミがイヤなら諦めるけど……」
"フルフル"
「そうか、良かった!」
あいかわらず仕草が可愛イイ!
「…おにいちゃん…」
ちょっと内心ドキドキしたけど、マナミが『お兄ちゃん』って呼んでくれた。ルチハやシャルからも、お兄ちゃんって呼ばれるのは嬉しいけど、マナミの声でお兄ちゃんって呼ばれるのは、なんか癒される〜
「じゃあソロソロ行きますか!」(テレポ)シュンッ!
◇ ◇ ◇
スタッ!
「無事到着!」
ウン、一応森の中だけど何となく記憶がある。ここで初めてアマゾネスに遭遇して捕まった場所だ。
よしよし、このまま此方の方向に進んで行けば巨大な砦のようなアマゾーン国へ自然と到着するはず。
しばらくマナミと手を繋ぎ獣道を歩いていたら、人の気配がする!?そして数名のヘンテコな仮面を着けた女性達が姿を現した!
おそらくだけど、地竜のお姉さんから頂いた竜眼で探知能力というか色々気配を察知しやすくなったと思う。コレもダハムートが言っていた特典の一つだろう。
もう少し魔眼が俺の身体に馴染めばハッキリと敵、味方、そして誰の気配かも分かるようになるのだろうか?そうだとイイな。
「救世主様、お待ちしておりました!」
「はぁ?」
救世主様ってなんだ?誰かと間違えてるんじゃないのか?もしやマナミが救世主様!?
「あの〜俺はアスラだけど、覚えているかな?」
「ハイ!もちろんです。救世主アスラ様の事を忘れるはずがありません!」
「はは……」
やっぱり救世主様って俺のコトじゃん。やめて!恥ずかしいから、誰がそんな呼び方を推奨したんだ?エロイか?クレアさんか?
つーか、今!『お待ちしておりました』って言わなかったか?デリバを狩ってたのを見られたとか?空を飛んで狩りをしてたし……でも、あの場所からココまでって相当距離があって離れてたと思うけど……?
「俺がココへ来ること知っていたの?」
「ハイ!5日ほど前に救世主様が覇竜様の元へ向かわれたのを目撃した者がおりました!それをクレア殿がお聞きになり、近いうちに救世主様がおみえになると仰っておりましたので、外の警備を兼ねて救世主様を発見次第案内するよう承ったしだいです」
「なるほどね」
麓へテレポして速攻 、いきなり魔獣相手に暴れ回ったトコを見られたんだね。あの時は急いでダハムートのトコへ向かってたから人の気配に気づかなかったよ、まぁ人の気配より魔獣の気配の方が強かったんだろうけど。
「救世主様、案内しますので付いて来て下さい」
「了解!」
「ところで救世主様、そちらの方は?」
「あー!この子ね、この子は俺の妹だから全然怪しくないよ。気にしないでくれるかな?」
「そ、そうですか……」
「それより、その救世主様って呼び方ヤメテくれる?」
恥ずかしいし調子狂うって!本当にヤメテ!
「ですが……」
「それと、呼び方変えてもアスラ様とかは却下だぜ?じゃないと俺、帰るぜ」
本当は帰る気なんか無いけど、さぁーどうする?
「分かりましたアスラ殿。ですが国の者は"救世主様"と、呼ぶと思いますよ?」
「了解。その時は女帝様に相談してみるよ」
「では、参りましょう!」
「あー」
とりあえずアマゾーン国へ入ったらエロイかクレアさんにでも相談してみるかな。
本来の目的をサッサと済ませてランバー国にも行かないとだし。