それぞれの近況
ベスティア城
「お父様。少しお話があります」
「どうしたんジャ、リオンヌ?」
「ハイ。先日お父様から伺った話の内容のコトで……もう一度確認したく参りました」
「先日の話ジャと?」
「父上、アノ件ですよ。オウガとリオンヌの婚約の話ですよ」
「なんジャそのコトか?それがどうかしたのかリオンヌ?」
「本当にオウガとの事を許して頂けるのでしょうか?それが少し不安になりまして確認に参りました」
「民達の前でも公言した筈ジャ。リオンヌがオウガのコトを気に入らないようなら取り下げるが?」
「いえ!その様な事は全くありません!」
「リオンヌ、何か心配事でもあるのかい?私も一緒に聞いてあげるから言ってごらん?」
「……レオンお兄様……ハイ。私は以前幼少の頃、立ち聞きするつもりはなかったのですが、お父様と男性の方の話を聞いてしまったのです。私が成人を迎える時に、その男性の方と婚約をする話をです」
「ブァッハッハ!」
「エッ!?」
「父上!まだリオンヌに話してなかったのですか?」
「済まぬ!てっきりリオンヌも承知しておると思ったのジャ」
「どう言う事ですか?お父様、レオンお兄様?」
「ハハ、リオンヌ良く聞くんだよ?父上と話をしていた男性は、オウガの事だよ?」
「エッ!?エエエッ!」
「だから何も心配しなくていいんだよ」
「ワッハッハ!てっきりアスラに全て聞いておると思った!済まぬリオンヌ」
「そう言う事だよリオンヌ」
「ハ、ハイ!」
リオンヌに対し、その後どういった経緯でその様な話になったのかを当時を振り返り優しく語りかける獣王であった。
◇ ◇ ◇
彼の国 某所
「うぅ…」
「おっ!やっと目ぇ〜覚めましたねータカシさん」
「ああ…」ムク
「タカシおはよさん。そろそろ起きる頃やと思っとってん」
「目の前にタクとブーが居るっちゅーコトは上手く逃げれたみたいやな……」
「バッチリっすよタカシさん!タカシさんとタクさんのお陰っすわ」
ホンマのコト言うたら僕的には、もう少し寝てて欲しかったんですけどね〜。
!!「タクッ!どないしてんッ!そのアタマは!?あのガキにやられたんか?」
「そやねん。あの眼帯兄ちゃんに逃げる時やられてん」
「ほんでケガは、ないんか?」
「ケガは、あらへん」
「そーっすよ、聞いーてくれません?タカシさん。あの兄ちゃん、僕らが転移する寸前に缶詰放り込みよったんすわ。もー!最高に臭いっすわ!」
「そやねん!アタマから、あの缶詰ブチまけよってなぁ、髪の毛やら服やらクソーて、毎日洗っても臭いとれへんしやな〜しゃーないから髪の毛剃ってん」
クンクンまだカラダに染み付いた臭いは取れへんなぁ〜あ〜臭!
「ほんでアレか?この部屋メッチャ臭いんやな…」
クンクン…ホンマくっさぁ〜ブーの体臭とエエ勝負や。
「僕とタカシさんは、元々無いっすけどね」
「うっさいんじゃボケ!ハゲは黙っとれ!」
「イヤイヤ三人共仲良くハゲですやん」ニコニコ
ハゲトリオの完成っすわ。
「うっさいんじゃボケッ!」
「もうハゲネタはエエやん。それよりなタカシ、タカシが寝てる時 ブーと話とってんけどなダミアン攻め落とした後、三人でレベ上げ行けへんか?」
「ハァ?レベ上げ?なんでまた急にレベ上げやねん?」
なんで今更レベ上げせんとアカンねん?
「獣国で有ったよ〜なコト、また有ったらアカンやろ?ヴァルトリア攻めるんもエエけど、あっこにはジジーの賢者が居るやん。それに噂ではタカシが仕留めた眼帯兄ちゃんに匹敵する英雄イナリっちゅーぅ、訳の分からん奴まで居んねんで?今回たまたま逃げれたからエエねんけど、次なめとったら確実にやられんで?」
「そーっすよタカシさん。タカシさんは闘ってへんけど僕とタクさんが闘ったノッポの姉ちゃんの強いコト!タクさんなんかドール使わへんかったら死んでましたもんねー?」
アレはマジ!ヤバかったっすわ。僕の大事なトコもドール無かったら潰れてましたからねー。
「そやねん、アレ確実に死んどったわ。あんなキチガイじみた奴まで居るんやから俺らもっと強ぉ〜ならなアカンねんて」
「オッケー!タクがそこまで言ーんやったら、レベ上げしよか?俺も一瞬やけど眼帯兄ちゃんにヤラレてもーたからなぁ。他にどんな強敵潜んでるか分からへんしな」
「でも、もうタカシさんの魔眼で隻眼の賢者は死んだから安心ですやん」
ココは、おだてておきましょう。
「そやな、タカシが強敵1人潰したからな。やるやんタカシ!」
「おう!任せんかい!」
今回の獣国での一件で真剣にステータスアップを図る勇者達であるようだ。
◇ ◇ ◇
ヴァルトリア
カランコロン
「「いらっしゃいませ〜」」
「じゃまするのじゃ」
「あっヨハンお爺ちゃん」
「おじーちゃんだー」
ルチハとシャルが営む喫茶店へ客として訪れたヨハン、キョロキョロと辺りを見回しながらカウンター席へ腰を掛ける。
「コーシーを貰えるかのぉ」
う〜む、小僧は居ないようじゃな
「は〜い」
「ルチハ、小僧は出掛けておるかの?」
「ウン、アスラお兄ちゃんは出掛けているよ。3日前に友達の一大事って言って王都を発ったよ」
「なに!王都を発ったじゃと!?」
「ウン。はいコーシー」
「ところでルチハ、小僧の行き先なんぞ聞かされておらんか?」
「え〜とね、ゲーハー国へ行くって言ってたよ」
「なに!ゲーハー国じゃと!?」
友達の一大事……ゲーハー国と言えばバールド王子の元へ行ったのじゃな。しかし一大事とはなんじゃろ?
「おじーちゃん。アシュラにぃネー友だちの ちりぉーに行くって、ゆってたー」
「おーそうか、シャルありがとな」
ゲーハー国へ友の治療じゃと?バールド王子のハゲが再発したという噂は聞いて居らんのじゃが?これは一度城へ帰りゲーハー国へ連絡でも取ってみるかの。
「ヨハンお爺ちゃん、難しい顔してどうしたの?」
「うむ、何でも無いのじゃ。ところでルチハ、小僧が帰って来てから何ぞ変わった事はあらなんだか?」
「う〜ん?変わったコト……?いつも通りのアスラお兄ちゃんだったけど。変わったコトと言えば妹が増えたくらいだよ?」
「なに!妹じゃと?」
「あとねーアシュラにぃーの、目のいろがちがってたー」
「おー!そうかそうか」
眼の事は本人から聞いておるが、妹が増えた事は聞いておらなんだ。
「その妹は、今どこに居るのじゃ?」
「アスラお兄ちゃんと一緒に出掛けたよ」
「ふむ、そうか一緒に出掛けたのじゃな」
妹と出掛けたという事は危険な場所へは行って居ないという事じゃな、ルチハの言う通りゲーハー国へ行った事は間違いない。
「あっ!そうだ。ヨハンお爺ちゃんが来たらコレを渡して欲しいってアスラお兄ちゃんから預かっていたんだ」
「ム!小僧からワシに?」
ルチハから手紙の様な物を渡されるヨハン
「コレは?」
「獣国から預かった手紙みたい。ヨハンお爺ちゃんに渡せばいいからってアスラお兄ちゃんが言ってたよ」
「ふむ、確かに預かったのじゃ」
コレは獣国の王からの書状ではないか、ひとまず城へ帰り陛下に渡すとみようかい。
コーシーを飲み終えた後、城へ帰るヨハン。
ルチハとシャルの様子からも、何ら小僧に変わった様子もない様じゃ……少し気になるのは新たに増えた妹くらいのもの……ワシ達から見ても普段通りの小僧であったのじゃが……何故に姫様に対して "どなたか知りませんが" などと言ったのやら?
姫様の話では声の音からも一切嘘を言っている素振りさえ無かったと聞く。
一体小僧の身に何があったのじゃ?呪いの弊害なんじゃろか?取り敢えず陛下に書状を渡すのを急ごうかい。
◇ ◇ ◇
一方こちらでは――
「食料調達隊が獲物を仕留めて帰って来た様子です」
「門を開けろー!」
ゴゴゴッと頑丈な門が開き食料を調達して来た隊が門を潜り戻って来た様だ。
総勢20名の食料調達隊が仕留めた大猟の魔獣を見た門の内側に居る者達が "ワー"っと歓声を上げ、調達隊を労う。
「コレは凄い!難易度が高い魔獣が大漁じゃないですか!しかも栄養価の高い魔獣ばかり、エロイーナ様も妊婦達も大喜びしますね」
妊婦達に栄養価の高い食材を調達するべく、調達隊が成果を上げ無事に帰って来た。その事に喜び隊の隊長に声を掛けようとしたクレアに、いち早く気づいた隊長が急ぎクレアの元へ駆け寄って来る。
「クレア殿!報告が有ります」
「お疲れ様ですリンカ、それにしても凄い量ですねー。隊の皆さんもケガをしている様子もないようですし、良くこれらの魔獣を討伐したものです。ところで報告とは?」
「ハイ!実はその事で、これらの魔獣を討伐したのは私達の隊じゃ無いのです」
「エッ!?それはどう言う事なのですか?」
「ハイ、遠目で見ていたのですが、これらの魔獣を一人で倒していた人物がいました!」
「これらの魔獣を一人で!?」
これほどの難易度の高い魔獣を一人で!?アマゾネスの精鋭が集まり倒す事も不可能ではないのですが、無傷では済まないでしょう。それをこれだけの数の魔獣を一人でなんて……一体誰が?
「ハイ!アレは救世主様です」
「救世主様!?……エッ!!!アスラ殿ですか?」
「ハッキリとは言えませんが、目撃した全員が救世主様と言っていました。イエ、アレは間違いなく救世主様です!」
「リンカ、詳しく説明して下さい」
「ハイ!」
隊の隊長リンカの話では、少しでも多く、尚且つ妊婦達に少しでも栄養価の高い魔獣を狩猟し持ち帰ろうと、覇竜様の棲む山頂の麓付近に狩りに赴いたようだ。
それを聞いた時には、妊婦達の為とは言え なんて無茶なコトをと思いました。山頂付近に潜む魔獣魔物は森の中の魔獣よりも格段に強いのですから。
そして麓付近に近づいた時、魔獣が獲物を狙い唸り声を上げ戦う姿が目に入った瞬間、1人の男が魔獣と闘う姿が目撃されたようです。彼女達は瞬時に身を隠し、魔獣と闘う男をジッと観察していたのですが、1人の隊の者が『救世主様』と呟いた瞬間、その場に居る全員が救世主様と呟き始めたと言う。
「分かりました。その後アスラ殿は何方へ?」
「ハイ、倒した魔獣に見向きもせず山頂へ向かったと思われます。私達の隊では山頂の魔獣魔物に対抗できる力が有りませんので救世主様が倒した魔獣を持ち帰り報告にうかがいました」
「話は分かりました。報告ありがとうございます。リンカ達、隊は疲れを癒して下さい」
「ハイ!」
アスラ殿は山頂へ向かわれたのですね、恐らく覇竜様にお会いする為に行かれたのでしょう。この件は早急にエロイーナ様に報告しなくてはなりませんね。
アスラ殿が私達の約束を覚えていたのならば覇竜様とお会いした後に、此方へ向かって来られるはず。民達もそうですが、エロイーナ様もきっと喜ばれるでしょう。
◇ ◇ ◇
「うん、普通に迷子だ」
そらそうだよな、前回は空を飛んで移動してたんだから。これ以上歩いて向かってたら日が暮れちゃう、空を飛んでノンビリ探すかな。
「マナミ、空を飛んで移動しようか」
"コクコク"
マナミの手を握り遊覧飛行〜方角的には、こっちで合ってるはずだから、そのうち到着するだろう。
みんな元気かなぁ?今回は、ちゃんと歓迎してくれるよな?クレアさんとも約束しているし、年に一度は検診に来て欲しいって言われているから大丈夫だよね?アレから半年くらい経ってるはずだから今回は妊婦さんの検診だったりして!
それだとイナリ先生の出番だな、なんつって!