親友の一大事!
王様達への報告を終え、爺さんから姫様が大事な話があると聞いた俺は、ピンッ!と、来た。恐らくバールドのハゲが再発したのだろうと……遺伝性のものだから俺のヒーリングじゃあ完治は難しいと思っていたけど、まさかこんなに早く……数年は持つと判断した俺が甘かったのかも知れない。
この世界に来て俺のヒーリング能力も格段に上がっている今なら以前行ったハゲ治療よりもマシだろう。
急いではいるが、流石に王宮の中を猛ダッシュで駆けるのは控えて少し小走りに進もう。進んでいると前方に侍女のリリさんと、見たことない綺麗な可愛らしい女の子がいる。どこかお姫様風のその女性は、恐らく貴族の娘だろうな、貴族の娘とかって気位が高そうだから、変に関わって面倒な事にならないようサッと挨拶をして躱そうかな。通路の端を歩くように、目を付けられて難癖付けられないようにと、ここは膝をついて待機した方が良いのかな?まぁ今更王様とかにも膝をついてないからイイか!
俺に気づいた彼女たちが微笑みながら俺に近寄って来るよ!ヤメテ!面倒事はゴメンだから。
「アスラ様、リリからの報告どおり帰られておられたのですね」ニコ
「は、はぁ……?」
誰だ?この子?俺の事を知っているようだけど?
「あ、あの……アスラ様?どうかなさいました?」
「あの〜どなたか知りませんが先を急ぐので失礼します」タタッ
「エッ!?ア、アスラ様ッ!?」「えっ!?」
アスラが過ぎ去るのをただ呆然と眺めるユーリアと侍女のリリ
「リリ!今のはアスラ様ですよね?」
「ハ、ハイッ!確かに間違いなくアスラ様です!」
困惑する二人を振り返る事なく、駆け出したアスラは城を後にした。
「さっきのは誰だ?」
まぁイイか、今度リリさんにでも聞こうかな。取り敢えず、このままゲーハー国へ行くわけにはいかないから、ルチハ達に事情を説明してから行くかな。
ルチハの喫茶店へ戻り、お客さんが捌けるのを確認しルチハとシャルに親友の一大事が発生した事を伝えた。二人とも快く笑顔で納得してくれたので少しホッとしたよ。マナミはカウンターの隅の席で、ちょこんと座っていたので一緒に連れて行く事に。
「お兄ちゃん、どれくらい家を空けるの?」
「そうだなぁ……治療具合にもよるけど、早くて一週、遅くとも一か月くらいには帰って来るよ」
「ウン、分かった。気をつけて行って来て」
「ゴメンな、帰って来て早々、すぐに家を空ける事になって」
「ウン大丈夫だよ。友達の一大事だもん!」
「シャルもルチハの言うことちゃんと聞いてイイ子にな。帰って来たらまた一緒に稽古しような」
「シャルねーいい子にしてるー」
「ヴォルフも二人のこと頼むな」
「ウォンウォン」
「じゃあマナミ行こうか。っと、その前に剣に戻ってくれるか?」
"コクコク"
魔剣に戻ったマナミをバックに仕舞い、さぁ出かけよう。アッ、そうだ!アレを王様に渡すの忘れてた!どうしようか…そうだ!ダメ元でルチハに聞いてみよう。
「ルチハ、ヨハン爺さんって知ってるか?」
「ウン知ってるよ、常連さんだもん。お兄ちゃんが獣国に出かけてから週に何度か私達の様子を見に来てくれてるよ。『変わりはないかい?問題はないかい?』って」ニコ
「シャルもしってるー。おじーちゃんねーいつもお菓子くれるのー」
「そうか……」
爺さん俺の留守の間、ルチハ達の様子を心配して見に来てくれていたんだな。中々イイ爺さんじゃないの。
「ヨハンお爺ちゃんがどうかしたの?」
「もし仮に俺が留守の間、爺さんが来たらコレを渡して欲しいんだ」
俺はバックの中から獣王様から預かった手紙を取り出しルチハに渡した。
「お兄ちゃんコレは?」
「獣国から預かった手紙だ。爺さんがもし来たら渡してくれればイイよ」
「ウン分かった。ヨハンお爺ちゃんが来たら渡しておくね」
「頼むな。じゃあ行ってくる!」
「「行ってらっしゃーい」」「ウォン!」
ルチハとシャルに見送られ急いで王都を出て人気が無いのを確認し、瞬間移動!ゲーハー国近くの以前マーキングした人気が無い場所へ到着し、何食わぬ顔でゲーハー国へ入国した。ゲーハー国にも時計塔があるので確認すれば時刻にして15時過ぎ、中々良い時間帯に来れたと思う。
そして移動している途中に以前屋台フェスの開催されていた広場の前を通る時………見てはいけない物を発見したんだけど……コレは見なかった事にしておこう。
何ヶ月か滞在した国なので迷う事なく城へ向かい、途中裏路地へ入りバックから魔剣を取り出しマナミに人の姿に戻ってもらい服を忘れず着せて、城へレッツゴー!でも、お腹空いたとかでキッチリ魔力(多分)は吸われましたよ。
ここでも城の警備兵に声を掛けてバールドに取り次いでもらう。普通に考えたら一国の王子に面会を求めても話を聞く前に追い返されるのが通常なんだけど、何ヶ月か医術師として滞在したのとバールドと友好的な親友なので、バールドの計らいだろうけど俺はフリーパスで城へ入れてもらえた。
マナミの事を聞かれたが、マナミは俺の妹と言ったら疑いもせず通してくれたよ。
ここでもいつものように侍女さんに案内され別室で寛いでいると――
「やぁー!我が友アスラ!久しいな」
「あー、久しぶりバールド……」
一々我が友とか言うなって!アレ?バールドの頭を確認してるんだけど……全然ハゲてない。薄くもなっていないし……エリーゼ妃の大事な話って、バールドのハゲ相談じゃあ無いのかよ。
「どうしたんだアスラ?僕の頭を見て?」
「いや何でもない。もう治療しなくても大丈夫かなぁ〜って見てたんだ」
「ありがとうアスラのお陰だよ。それよりアスラの横に居る女の子は誰なんだい?」
「あーこの子か?この子は訳ありで俺の妹になったんだよ。マナミ挨拶して」
"コクコク"「…マナミ…」"ペコ"
「ゴメンな、この子、話すの苦手なんだ」
「ああ、大丈夫だよ。マナミちゃん、僕はバールド!君のお兄さんの親友だ、よろしく!」
"コクコク"
「バールドは、この子が俺の妹になった理由とか聞かないんだな?」
「親友に対して、そんな不粋なコトはしないよ。それよりも今日は僕に会いに来たのかい?それともルナに会いに来たのかな?」
「いや、今日はエリーゼ妃が俺に大事な話があるとかでやって来たんだけど……バールドはエリーゼ妃から何か聞いてるか?」
「いや何も聞いてないけども……もう間もなくエリーゼとルナたちも、ココへ来るだろうから、その時にでも話を聞いたら良いよ」
しかし一体エリーゼ妃から大事な話って何だろう?彼女とはあまり絡みが無いんだけど?エリーゼ妃とルナ姫様が来る間、バールドと雑談していた時にルナ姫様の話題になった。
以前ワイバーン騎兵がゲーハー国を襲って来て俺が殲滅し、落ち着いてから城へ挨拶に行った時、ルナ姫様は疲れて昼寝をしてたんだけど、俺が帰った直後に起きたらしく、何故起こしてくれなかったのか凄く激怒してたんだって!でも、その後 俺がお土産に置いていったお菓子を見せた途端、凄くご満悦になったらしい!
流石お子ちゃま、チョロいね。
などと二人で雑談をしていたら、エリーゼ妃とルナ姫様が一緒に部屋へ入って来た。
「アスラ君、お久しぶりです」ペコ
「アスラー!会いたかったよー!」
「エリーゼ妃、ルナ姫様久しぶり」
おや?エリーゼ妃の口調と態度が少し変わったような?こちらの王妃様の教育だろうね。
「ねーねーアスラ、その子は誰?」
「ルナ姫様、この子は俺の妹のマナミですよ」
「…マナミ…」"ペコ"
「そ〜なの〜私ルナ!よろしくねマナミちゃん」
「アスラ君に、こんな可愛いらしい妹が居たのね〜私はエリーゼです。よろしくねマナミちゃん」
"ペコペコ"
「マナミは実の妹じゃ無いんだ。事情があって俺の妹にしている訳さ!」
マナミが妹になった訳は敢えて聞かれなかった、以前にも奴隷から解放したルチハとシャルを妹にしていることを爺さん経由でバールドもエリーゼ妃も聞いていたらしく、今回もそんなトコだろうと思われてるみたいだ。
おしゃべり爺さんだけど、俺が異世界人と知っている者達の共通の話題を共有しているのだろう。まぁ人に喋られても恥ずかしい事はしていない筈。多分
「ところでアスラ君、今日はどうしたの?マナミちゃんを紹介に来たの?」
「エッ!?エリーゼ妃から大事な話があるって爺さんから聞いたから来たんだぞ?」
「エッ?爺が?私、そんな事を言った覚えが無いのだけど……?」
「アレ?俺の勘違いか?」
「アスラ君の聞き違いじゃないの?」
「そうかな?まぁイイか!久々に皆んなの顔も見れたコトだし」
爺さんに詳しく聞けば良かったかな?あの時、バールドのピンチだと思った瞬間、慌てて駆け出してたからな。さて……ヴァルトリアまで帰って爺さんに詳しく聞くか……?それも面倒だな……
「ねーねーアスラ!また綿菓子食べさせてー」
「あっ!僕も食べたい!」
「私も食べたいわ!」
どうしようか考えてたらルナ姫様筆頭にバールド、そしてエリーゼ妃も綿菓子を食べたいとか!
「ルナ姫様の綿菓子で思い出したけど、以前ここの料理長にあるモノを頼んでいるんだ」
「「「あるモノ?」」」
「そう、あるモノさ。ちょっと料理長に会って来るから皆んなは、ここで待っててくれるか?」
ホント言うと、すっかり忘れてたな。久々に料理長に会い挨拶をし、以前依頼したものが出来ているか確認したところ、色々なモノで挑戦し数種類出来ているとか、出来栄えは食してみないと分からないらしく、俺の判断に任せるって!後で食後の感想を欲しいと言われたよ。じゃあ料理長も一緒に食べてみる?と言い、一緒にバールド達の待つ部屋へ。
「皆んなお待たせ〜」
部屋へ入るなりテーブルに以前、エルフの里で作ってもらった機材をバックから取り出す。そして料理長に準備してもらった氷を機材にセットし器を機材の下へ。ルナ姫様もバールド夫妻も何事かとジッと見てる、料理長までも!
そしてレバーをクルクル回してキラーモールの爪の刃が氷を薄くシャリシャリ削り、フワッフワの削れた氷が器を埋める。そして料理長が作ってくれた甘〜い蜜をフワッフワの上から掛ければハイ!カキ氷の完成!
「ねーねーアスラ!コレは何?」
「コレはカキ氷ですよ。ルナ姫様、一口食べて見て下さい」
コレは前回屋台フェスで綿菓子を作っている時に思いついたカキ氷、この世界にはカキ氷みたいな食べ物が無いのと思い、次の屋台フェスで披露しようと思ったんだけど…ついウッカリと言うかスッカリ忘れていたのは内緒の話。
カキ氷を軽くスプーンですくいルナ姫様の口へ"パク"っと食べました。
「冷たーい!でも甘くて美味しいー!」
ルナ姫様にスプーンを渡して、慌てず食べて下さいと言い食してもらう。慌てて食べたら頭がキーンと痛くなるのでね。その美味しそうに食べる姿を見た二人が!
「アスラ!僕にも!」
「アスラ君、私にも!」
「あいよ!」
俺が氷を削っている間、何種類かある蜜が、どんな食材でどんな味なのかを料理長にレクチャーしてもらう。そして自分好みの蜜をかければ完成です。そして料理長にも実食してもらい――
「アスラ!コレは美味い!暑い時期に最高の食べ物じゃないか!」
「全ては料理長の蜜のお陰さ!でも美味しいからって食べ過ぎには注意が必要だけどね。冷たい物を食べ過ぎると お腹をこわすからね」
「なるほどな」
「ねーねーマナミちゃんはカキ氷食べないの?」
「マナミも食べてみるか?」
食べないだろうけど一応は聞いてみた。
「…お腹いっぱい…」
「だ、そうですよルナ姫様」
「エ〜カキ氷美味しいのに〜」
料理長は新しい料理の発見と言いニコやかな笑みで俺に頭を下げて厨房へ帰って行った。容器に入った蜜は、俺にくれるとか。ん〜忘れてたけど思い出して正解だ!今度地底湖でお持ち帰りした水を凍らせてカキ氷を作ってみるかな。
ここには用事も無い事だし、そろそろ帰ろうかと思っていたら――
「ところでアスラ、城へ来る前にアレは見たかい?」
「ん?アレってアレか?屋台フェスの行われる広場の中心にある銅像の事か?」
「おっ!見たのか。良い出来だろう」
「もしや、バールドの仕業か?」
「イヤ違うよ!この国の民達がどうしても平和の象徴で作りたいって王に願い出たんだよ。陛下も快く民達の声を聞き銅像を作る資金まで出していたんだ」
「それで広場の中心にアッシュバーンの銅像かよ!ハァー恥ずかし」
「ねーねーどうしてアスラが恥ずかしいの?」
「いやルナ姫様、なんでも無いですよ!」
そうか、ルナ姫様は俺がアッシュバーンってコト知らないんだ。
「アスラ、今日はゆっくりとして行くのかい?」
「いや家に他の妹達も居るから帰るよ」
「そうか」
「えー!アスラ帰っちゃうのー?ねーねー遊んでアスラー!」
「ルナちゃん。ワガママ言っていると、お父様とお母様に怒られますよ?」
「う!分かりましたエリーゼお姉様」
エリーゼ妃とルナ姫様は、すっかり姉妹だね。……そうかっ!だからエリーゼ妃の事、姉ちゃんって思っていたんだ!違和感が解けたぜ!
「じゃあ暗くなる前に俺は帰るぜ!」
「アスラ!いつでも遊びに来てくれ!」
「アスラ君ならいつでも歓迎よ」
「ねーねーアスラ、今度来た時にマジック見せてね」
「分かりましたルナ姫様、新しいマジックを考えておきますね」
「約束だよ?」
「ハイ約束です。マナミ帰ろうか」
「マナミちゃんも、またねー!」
"コクコク"
「じゃあな!」
三人に別れの挨拶をしマナミと手を繋ぎ歩いていると、手を振りながら姉ちゃんが何か言っている。
「次に来る時はユーリアと一緒に来なさいね〜」
ん?ユーリア?ユーリアって誰だ?
引き返して聞くのも面倒な俺は頭を捻りながら、ユーリアって人の事を思い出す……でも知らない人の事を思い出そうにも記憶に無いものを思い出す事などムリ!
ゲーハー国を出て家に帰ろうかと思ったんだが、ルチハたちに1週間から1ヶ月は家を空けるかもって伝えてたのを思い出した。
「この際だから駄竜のトコとかに行こうかな?既にマーキング済みだし移動時間も掛らないし」
そうと決まれば駄竜のトコへ!確か奴の寝ぐら付近は結界が張ってある筈だから麓付近へ移動だな。(テレポ)シュン!