サラバ!獣人の国ベスティア!
アスラが気を失い眠りについた時まで時間は遡る。
〔今しがたアスラは眠りについた。アスラが目覚めた時、アル一部の記憶が欠落しておる。その事について、お主達、暫くはアスラの欠落した記憶を掘り起こすでないぞ〕
「地竜殿、もし仮にアスラの欠落した記憶に触れた場合どうなるのジャ?」
〔混乱をきたすであろう。最悪の場合、精神面に異常をきたし自我が崩壊するやもしれぬ〕
「………」
〔目覚め、半刻もすれば精神も安定するであろうて〕
「アスラ君の欠落した……その……愛する人への想いは一生戻らないのですか?」
〔……一生戻らないであろうな。じゃが、こ奴の事、自分の力で欠落した想いを取り戻すやも知れぬ。呪いを施した我が言うのも何だが、そう願っておる〕
いやアスラの事、必ずや自分の力で記憶を取り戻すであろう。
「仮に私達以外の第三者が、失われた記憶に触れた場合は、どうなるの〜?」
〔触れたとて同じ事よ、その部分だけポッカリ穴が開いておるのだからのう。幾ら想いを言葉に乗せようとも無いものは無い!言葉以外の想いをこ奴が持って居れば話は別だがの……然るに他者ではなす術が無いのが現状よ、それが想いを寄せる愛する者でもじゃ!お主達も要らぬ事を考えず普段通り接するのがアスラに対しての思いやりであり、優しさであろう?〕
今の地竜の一言で、その場に居る全員が静かに頷くのであった。
地竜さんは、ああ言っているけど〜アスラ君の事、ユーリア様の想いを必ず、いえ絶対に取り戻すはずよ〜私はアスラ君の事を信じているわ〜。
今は無事にアスラ君の命が繋ぎ止めれた事を喜ばなくちゃ〜。
翌日
一夜明け、昨日の騒動がウソのようにベスティアは活気に満ち溢れている。これも獣王様の治世が良いからだね。多分
俺の今日の予定はと言うと、取り敢えずマナミの服などを買いに街まで出かけ購入と同時に着衣、いつまでも俺のダブダブのローブじゃ可哀想だからね。
可愛らしいワンピースとサンダル風な履き物、他数点を購入。少し気になっている事が、昨夜マナミに多分だけど魔力を吸われ、今朝朝食を食べる時に、お腹は空いてないか尋ねたら…全然お腹が空いて無いって……一度の給油で、まだまだ走れるとか凄く燃費がイイのかな?変な例えだけど。まぁ一応お腹が空いたらいつでも言ってくれとは言ったけど……色々マナミについて調べる必要があるかな……?まぁイイか。
本日の次の予定はと言うと午後に獣王様に城へ来てくれとの要望なので、取り敢えず昼食を食べた後にマナミと一緒に行くことに。ベスティアともオサラバする予定だから挨拶だけはキチンとした方が良いからね。因みにマリーさんは二日酔い!ポアンさんは昨夜食べ過ぎて起きれないとか……呑気な2人だね。
「アスラよ、良く来てくれタ!その後、体調の方はどうなのジャ?」
「昨日も話したが全然大丈夫だぜ。むしろ調子イイくらいだ!昨日の疲れも全く無いしな。で、話って何かな?」
「そう慌てるな。色々確認しておきたいコトもあるのでな」
「確認しておきたい事?」
「そうジャ、確認しておきたいコトジャ」
「で、なに?」
なんだろ?何を確認したいんだろ?
「其の方の昨日の力のコトジャ。アスラは気づいておるか分からぬが、昨日のアスラの力……誰の目から見ても、常軌を逸してオル」
「あ〜そうだったな。昨日は俺自身の時間が無いと思っていたから、人の目なんか気にする事なく力を解放してたなぁ」
まさか地竜のお姉さんに呪いを解いてもらえるなんて思ってなかったし。
「フム、失礼なコトを聞くようジャが其の方は人間か?」
「ホント失礼だな。正真正銘人間さ。但しこの世界には恐らく無いスキルを使ってただけだぜ」
「この世界には無いスキルジャと?」
「そうさ、この世界に無いスキル。獣王様には話すけど、俺はココとは違う世界、つまり異世界から来たのさ」
獣王様と二人っきりだし、話しても大丈夫そうだしな。まぁ1人獣王様の後ろにレオンが潜んで居るのは承知の上だけど。マナミも俺の膝の上で寝ちってるし!
「ナニ!?異世界ジャと?」
「獣王様を信じて話をするけど、決して他言しないでくれよな?」
「ウム。では其の方は悪しき勇者を討伐に来た真の勇者なのジャな?それならば納得出来る、アノ力、そして地竜殿を味方につける程の人格!」
フ〜ム、伝説の賢者の再来と思いきや、真の勇者だったとは……
「プッ!」
「どうしたのジャ!アスラ?」
「いや〜獣王様も地竜のお姉さんと同じような事を言うからさぁー。俺は、そんな使命を受けてこの世界に来たわけじゃないよ。全くの誤解、勇者でもなければ伝説の賢者でもないよ、この世界での使命は気ままに旅をしながら世界を見聞したいのさ」
「フ〜ム」
今のアスラの言葉、ウソを言っておる素振りすらナイ。コヤツの目を見れば分かる!
「まぁ信じてくれなくても構わないけど。話ってそれだけ?」
「フム、では本題に移ろう」
「今からが本題なのか?」
「コレをヴァルトリア王に渡してもらいたいのジャ」
獣王様から受け渡された物を見れば、何やら手紙っぽい物……
「これは?」
「感謝の書状ジャ。この度の件……娘リオンヌの治療、及び勇者との件についてを書いてオル。頼まれてくれるか?」
「あーイイぜ。明日にはベスティアを発とうと思っていたからな」
「そうか……明日には、コノ国を去ってしまうのジャな……」
「気が向いたら、また遊びに来るさ」
「フム、次に其の方が来る時までには闘技場を修復しておるでな、闘技大会の出場を期待してオル」
「イヤイヤ、俺は観戦専門だから出場は、しないぞ?闘って痛い思いをするの嫌だし」
「アレほどの闘いをして、ソレを言うか?其の方は誠、変わっておるの?ワッハッハ!」
「そうか?」
そんなに笑わなくても、痛い思いは誰だってしたくないっつーの!
その後も色々獣王様と雑談をした。隠れているレオンにいい加減出てきて一緒に話をしようぜと、言って3人で。
勇者戦において、今まで各国勇者の顔がハッキリしなかったようなので今回、カメラのような魔道具で顔がバッチリ写せたのはラッキーみたいで獣王様は凄く喜んでいた。何せ勇者が通り過ぎた国は、ほぼ壊滅状態で顔が分からなかったようだ。顔が知られないくらい虐殺するとか、ホント酷い奴等だね。
今回冒険者ギルドを通して顔と名前がハッキリしたので指名手配と言うか、勇者に対して各国各支部に注意を促せるとか。
それと俺に対しての情報をギルドに働きかけストップ掛けてくれたようだ。マナミの件も、あの場に居た者達に公言しないようにと口止めしてくれたみたい。獣王様助かります!要らん情報が飛び交ったら色んなトコへ行けなくてなるし、勇者も俺が死んでいると思っているだろうし、安心して行動出来るのはイイ!隻眼の賢者には、悪いけど今回の闘いで死んだものとしておこうかな。
次の新しいキャラを考えなくちゃ!
話は変わりオウガとリオンヌの話題に移る。
「そー言えば、オウガのヤロー!姫様にプロポーズしてたけど、いつ式を挙げさすんだ?」
「その事なんだけど……済まない」
「スマン、アスラ!ワシも嬉しさのあまり勢いで2人を受け入れてしまった!」
「はぁ?どうして2人共俺に謝るんだ?」
「イヤ、それは……」
私も弟の様に可愛がっていたオウガとリオンヌが結ばれるのは嬉しい。だけど想いを寄せる人の事を忘れたアスラ君の事を冷静に考えると……イヤ駄目だ、地竜殿も普段通り接するのが優しさと言っていた……
「何故俺に謝るのか知らないけど、ダメだぜアノ場で2人にオーケー出したんだから!」
獣王様も兄貴も彼女が居ない俺に気を使って言っているのか?俺は人の恋話は興味ないけど人の恋路に嫉妬なんかしませんよ、むしろ恋のキューピッドとして喜んでいる。リア充爆ぜろ!
「アスラ君が、ベスティアに滞在している時に式を挙げてもらおうと思ったのだけど、明日ベスティアを去ると聞いていて残念に思っただけだよ、ねー父上?」
「そうジャとも、まさか明日ベスティアを発つとは思わなかったんジャ!折角2人の仲を取り持った御仁抜きで式を挙げるなどと」
「なるほど、そーゆーコトか!そんなの気にする必要ないのに。因みにいつ頃?」
「2人の式は闘技場で行おうと思ったのジャ」
「そうなんだ。より多くの民達に2人を祝ってもらおうと思ってね」
「なるほど〜それはイイ考えじゃん。そうか取り敢えず闘技場の修復からなのか〜結構時間かかりそうだね。そこまで滞在できないし」
「もしアスラさえ良ければ2人の式に再びベスティアへ来てくれるか?」
「そりゃもちろんさ!」
「目処がつき次第ヴァルトリアへ一報を送ろう」
「ん?手紙?」
「ハハ、アスラ君、冒険者ギルド同士で通信魔道具を使い依頼も出来るんだよ」
「なるほど、その手があったんだ」
「そう言う事ジャ。その時は是非2人の式に来てクレ」
「あーイイぜ!」
この後、姫様のトコへ、お別れとお祝いの言葉を言いに行ったのだけど、嬉しい反面、俺の顔を見るなり何か悲しそうな表情をしてる……姫様だけじゃなく側に控える親衛隊達も……何だろ?俺と別れるのが悲しいのかな?別れ際みんなに頑張って下さい。とも言われたよ……何なんだろ一体?
城を出たら、すっかり陽も落ち夕飯時、オウガ達と夕飯の約束をしていたので取り敢えず宿へ帰りマリーさんとポアンさんを迎えに……ポアンさんは室内でストレッチ風な運動をしている、マリーさんと言えば……まだ二日酔いの様だ。一体昨夜どんだけ飲んだんだあー!
仕方ないので効果があるのか分からないけどヒーリングを掛ければ効果あるじゃん!飲み過ぎた酒は毒みたいなモノなんかね?掛けた俺もビックリだけど掛けられたマリーさんもビックリ!次回から二日酔いの時は、宜しくね〜とか訳の分からない事を言っている。次回から金を請求しよう
そして向かう先は何時もの食事処、店に入れば既にオウガと愉快なモブキャラ達が。失礼!仲間達がテーブルを囲み俺達を待っていてくれてる。席に着き、乾杯の音頭を取った後、ワイワイガヤガヤと食事をしながら今日までの事を振り返りながら話をした。
姫様の治療の事とか、みんなで闘技大会に向けて特訓した事とか、折角の特訓も勇者のせいで台無しだし、今度奴等に会ったらギャフンと言わせてやる!隻眼の賢者の仇をとらなくては!なんてね、もう関わりあいません。死にたくねーし。
マリーさんと言えば……全く懲りてない!オウガのパーティーメンバー達と誰が一番酒に強いか飲み比べをしてる!ポアンさんは、黙々と食事をしているし。マナミは俺の膝の上で熟睡中、お腹は空いてないとのコト。
飲んで騒いでオウガと愉快なモブキャラ達に明日ベスティアを発つ事を告げた。皆んなビックリし少し残念そうな顔をしていたけど、オウガと姫様の式には絶対来るからなと言うと、オウガが"必ず来てクレ"と握手を求められたよ。オウガ握る力が強すぎるって!その後少しの雑談をし、お開き。
まだ飲み足らないマリーさんをポアンが引きずりながら"マリー飲み過ぎ"って説教している……説教と言えば、この2人に説教しなくてはと思ったけど、もう面倒くさいしイイや!俺はスヤスヤ熟睡しているマナミを背負いながら良く寝る子だなぁと感心している。基本大人しい子なので手がかからないからイイんだけど……
宿屋へ向かう帰路で少しマナミについて思う事がある。よく良く考えたらマナミの思考は読めなかったんだよな〜どうしてだろ?地竜のお姉さんが言うようにマナミは生き物じゃないからなのかな?……流石に生き物じゃないモノの思考は読めないか……。
マナミについて調べると言っても手掛かりすら無いし、この世界に存在する魔剣シリーズとか詳しく掲載されてる【魔剣図鑑】みたいな物でも有ればイイのに。
「ね〜アスラ君、聞いてるの〜?」
「あ、ゴメン!考え事してた。で、何の話?」
「アスラ君、明日ベスティアを発つんでしょ〜?」
「そうだけど」
「私とポアンも一緒に帰るわ〜イイ?」
「あーイイぜ」
「やったあ〜!」
「アスラ一緒に帰る!」
ハハァ〜旅費と時間を浮かすつもりだな〜。まぁイイけど。
「その代わり途中で寄り道するぜ」
「どこ行くの〜?」
「地竜のお姉さんと国境付近で待ち合わせしているんだ」
「へ〜そうなの〜。ところで、さっきは何を考え事してたの〜?」
まさか記憶が蘇ったとか〜?
「マナミについてだけど……この子は何故魔剣なのかってね」
マナミちゃんの事か〜。
「そ〜よね〜不思議よね〜。魔剣と契約とか〜顕現した話って聞いた事ないものね〜」
「魔剣について詳しい人でも居るとイイんだけどね」
「ヨハン爺は?」
「あ〜じいさんか。じいさんも結構な歳だし物知りっぽいから帰ったら聞いてみようかな」
「それが良いかもね〜」
「マリーさんポアンさん、ヴァルトリアに帰ってもマナミが魔剣って事、言わないでくれよな?」
「もちろん誰にも言わないわ〜」
「ん!言わない」
翌日
まだ日も登らない朝靄が漂う中、早朝に宿を引き払い、獣国を発つ。昨日に見送りは要らないと皆さんに言っていたので見送りなし!別れにしんみりするのが余り好きではないからだ。
マリーさんは早過ぎるってブツクサ言っていたけど無視!
獣国の門を潜り抜け、人気が無い所まで暫く歩いていたら、微かに聞こえる複数の遠吠え!?
「アレは?」
「獣の遠吠えかしら〜?」
「ん、違う。別れの挨拶、ありがとうって」
ポアンさんに詳しく説明してもらったら、獣国の塀の上で沢山の獣人が、俺に感謝の印として見送りの遠吠えをしてくれてるとか……。
「ハハ……見送りは要らないって言ったのに」
サラバ!獣人の国ベスティア!
アスラは知らない。ベスティアで見かけたエルフ達が旅の吟遊詩人兼冒険者だった事を……後に新たな伝説が詠われる事を……