虹彩異色
「ちょ!そんなの聞いてねーよ!」
特別な呪いって何よ!?
〔暫しの辛抱じゃ、決して暴れるでないぞ。お前達も決してアスラを暴れさすでないぞ〕
"コクコク" 全員地竜の指示の元頷く。
「ちょ!マジでー!」
〔それとアスラよ。我の施す呪いが終わるまで決して自分を回復してはならぬ!〕
「えっ?何だそれ」
マジかよ、回復したくなるほど痛い処置かよ…
〔約束出来るな?お主が自分の回復をしてしまえば失敗に終わる……そして何も出来ず死を待つだけになる。お主の愛する者もアノ勇者に襲われるぞ?〕
「ハァー仕方ない……頑張ってみるよ」
それを言われたら我慢するしかないじゃん。
〔なぁーに、あの巨岩を潰す時に何度も体が焼け爛れ欠損した痛みに比べれば平気だろうて〕
「ぐっ!」
地竜のお姉さん見てたのか……あの時は必死だったから、でもヒーリング能力が向上してなかったら確実に死んでたからな。でも痛いもんは痛いって!
〔では始めるぞ〕
そう言って地竜のお姉さんは何やら解読出来ない呪文をブツブツ呟いた……そして、スーっと魔眼を直視してしまった眼球に手を伸ばし………
「ぐぁっ!!!」
おっ、俺の目ん玉を引きずり出したあああ!回復うんぬんじゃなく意識が飛びそうだああ……意識が朦朧とする中……俺が見たモノは……魔眼に侵され引きずり出された目ん玉を躊躇なく握り潰し……!!!地竜の……何をしてるんだ!?……やめろおおお!!!!
誰が見ても拷問にも似たその光景は目を背けたくなるほど おぞましいシーンに映っただろう。そしてアスラの呪いに侵食された眼球を取り出した地竜が次に取った行動は!?誰もが目を疑う行動、あろう事か自分自身の眼球を躊躇無く引きずり出し、その眼球をアスラに移植しているではないか!?
その光景を意識が朦朧とする中、間近で見ているアスラは激痛と闘いながら、只々抵抗する事すら出来ず、見ている事しか出来ない。眼球を取り出された激痛と新たな眼球が自分の体に馴染もうと侵食してくる激痛により、いつの間にかアスラは意識を失ってしまう。
アスラが気を失い、程なくして闘技場の外に待機して居た者達が瓦礫などに塞がれた通路を瓦礫を撤去し掻き分けながら漸く闘技場の中へ入って来れたようだ。
場内へ入り闘技場の惨状を見た者達はギョッとしたが場内へ残された獣王達を発見するや歓声を上げた。それもそうだろう闘技場へ残った者、誰一人欠ける者無く生存しているからである。
次にアスラが目覚めた時は陽が落ちはじめ、辺りが薄暗くなりかけるあたりで目が覚めたようだ。
朝方から始まった勇者とのバトルは無事にアスラが目覚めた事で、ここで漸く終結した。
アスラが目覚めるまで人払いし、アスラの横で佇む地竜。
「うぅ…ここは?」
〔漸く目覚めかアスラよ〕
「ああ…そうか…俺の呪いを解いてくれたんだな…」
アスラが地竜の顔を見るなり理解したようだ。
〔何故に、そのような顔をする?〕
「だって折角治した眼を…俺なんかの為に……」
〔フッ、借りを返したまでよ、気にするでない。勇者の強力な呪いを凌ぐには、それ相応のリスクは付きものじゃ。掛ける方にも掛けられる方にもな〕
だからって……気にするなと言われても気にするって……俺のヒーリング能力じゃ…その眼は…もう治せないじゃん……
そうアスラのヒーリングでは、地竜の眼は一生治せないので有る。如何にアスラのヒーリング能力が優れていても既に存在している部位を再生する事は出来ない。
〔気にするのなら、お主が寿命を迎える前にでも返してくれれば良い!〕
「あっ!なるほど、その手があったな。そうと決まれば傷口だけでも塞ぐか、ヒーリング!」
〔フッ、お主は、優しいの。優しさついでに、お主の眼を塞いでいたモノを我にくれるか?〕
「あーイイぜ!眼帯の予備は沢山あるからな」
目覚め落ち着きを取り戻したアスラは辺りを見回す。
「なんか最後に見た闘技場と違うんだけど?」
アスラが目にした光景は、瓦礫などが撤退され闘技場の一部が大きく破壊されたような跡があり、そこから人の出入りが可能なほど巨大な通路が存在し、行き交う人達が多数いるようだ。
アスラが意識を失い眠りについた後に獣人達が一丸となり撤去作業に取り掛かった成果であろう。因みに巨大な通路は地竜が獣王に頼まれ破壊したようだ。
そして瓦礫などが撤退された敷地に露店、屋台などが多数立ち並び食事をする者、酒を酌み交わす者、勇者との戦いに勝利し一種のお祭り騒ぎの様に盛り上がる者達が目に映った。
〔勇者との戦いに勝利し、美酒を味わっておるのだろう〕
「なるほど。宴って訳か」
戦いに勝利し酒を酌み交わす、漫画みたいだ。ふ〜ん、これはこれで中々イイね。
アスラが目覚めた事に気づいた面々がアスラと地竜の元へ押し寄せて来る。
「賢者殿!イヤ、アスラ!やっと目覚めたか!其の方と地竜殿のお陰で勝利し、一人の死亡者も無しジャ!本当に心から感謝致ス!」
「アスラく〜ん、やっと目覚めたのね〜もう宴は始まっているわよ〜一杯やるわよ〜」グビグビ
「アスラも沢山食う!」ムシャムシャ
「俺と地竜のお姉さんのお陰か分からないけど、皆んなが頑張ったからだろ?」
「ハハ、アスラ君には敵わないな」
アスラに関わりの有る者、アスラに興味が有る者達が次々と激励にやって来る。
「アシュラ、この国を!そしてリオンヌを護ってくれたコト、本当にアリガトウ!」
「アスラ先生!ありがとうございます」
「ハハ、皆んな無事ならもうイイよ。所でマリーさん、マナミは?」
「マナミちゃんね〜お腹空いたって言って寝ちゃったのよ〜。食事を与えても一切食べないし〜どうしてかな〜?」
「全然食べない!」
「お腹が空いたのに食べない?どっか調子悪いのか?」
〔アスラよ、あのモノは人では無い。恐らく魔力(魔素)などが食事などであろう〕
「魔力が食事……」
魔力が食事って、マナミは精霊みたいな存在なのか?しかしどうしよう、これからどうやって食事を与えたらイイんだろう。魔獣とかを斬りまくり魔力供給するのか?ん〜分からん!後でマナミが起きたら聞いてみよう。
「アスラ、其の方が目覚めるのを待っておったのジャ。少し良いか?気分が悪いようなら話は控えるガ?」
「あー全然大丈夫だ!地竜のお姉さんが呪いを治してくれたから、メチャクチャ調子イイぜ!で、話って何?」
「……フム、話と言うのは褒美の事ジャ。勇者を撤退に追いやり、その後もワシ達を護ってくれた褒美ジャ。地竜殿には、"そのようなモノ要らぬ"と、断られてな」
「褒美?そんなの要らないって。俺も地竜のお姉さんと一緒でパス!」
そんな金が有るなら闘技場の修理費に使えばイイじゃん。
「イヤそう言う訳にはいかんジャろ?ココへ集まって居る全ての者も納得済みジャ」
周りを見れば皆さんウンウン頷いています……いつもの事だけど報酬目当てじゃないんだけど。でも断っても皆さん納得してくれなさそう。さてと、何がイイかな?
「じゃあさー、俺は別に何も要らないからさー、今日の戦いに携わった者、全てに報酬を与えてくれる?ムリかな?」
「フハハハハ!そんな事か、アイ分かった!今日の戦いに携わった者、全てに報酬を与えようゾ!勿論場外で待機していた者達にもジャ!」
一際通る獣王の声は場内に響き渡り、それを聞いた者達がワーっと、歓声を上げ歓喜の渦に包まれた。
「しかしそれでアスラ君には何も無いのは、どうなんでしょう、父上?」
「そうジャな。アスラよ、ワシに出来るコトが有れば何でも言ってクレ」
「ん〜、じゃあさー。オウガと姫様の仲を認めてよ。闘技大会で3度優勝して来いとか、見てて もどかしいって!誰か大切な者を護る力は既に有る筈だぜ?」
「アシュラ!それは…」
「エッエッ!?アスラ先生!」
アスラの一言で戸惑うオウガと赤面するリオンヌ。
「フム、そうジャな……アスラの言うコトも最もジャ。オウガの父クウガとの約束に囚われ過ぎたようジャな。ウム、二人の仲を認めよう。レオンもそれで良いか?」
「私も異論は有りませんよ。オウガの実力は本物、しかし…無茶をする傾向がある様なので、それを止める者が必要でしょう」
「だってよオウガ。獣王様のお許しも出たぜ」
「アリガトウ、アスラ!」
「アスラ先生!ありがとうございます!」
「姫様に何か一言言ってやれよ」
「アー!……リオ!」
「ハイ、オウガ」
「オレと結婚してクレ!」
「!!!!!!……ハイ」ポツリ
エーッ!?いきなりプロポーズしちゃったよ!しかも姫様しっかり返事かえしちゃったよ、何なのコレ?
「ガハハハハ!愉快ジャ」
「全くオウガらしいフッ」
「皆の者オオ!よく聞くのジャ!ワシの娘リオンヌは、オウガと固い絆で結ばれる。これをもって2人の婚約を正式に宣言する!皆の者!祝福してクレ!」
先程より、より一層大声を上げ民衆に二人を祝福する事を宣言した獣王。それを聞いた者達は先程より更にワーっと、歓喜に包まれた。
オウガの祝福にパーティーメンバーは大喜び、リオンヌの親衛隊を務めるエーナ達も大はしゃぎしリオンヌを祝福している。
「なんか力抜けるわコレ」
「アスラよ、他に何か要り用が有れば言ってクレ」
「ハハ何も要らないって。じゃあさー地竜のお姉さんの卵を盗み出した者を徹底的に調べ上げてくれ。竜の卵なんか盗み出すとか恐らく個人的な集まりじゃ無いと思うんだ」
「そうジャな、今後二度とこの様なコトが起きない様、徹底的に調べ上げ、卵に関わる者を一人残らず捕らえてみせる」
「だってさ、地竜のお姉さんもそれでイイかな」
〔ウム、異論は無い〕
「しかし地竜のお姉さんも何度も卵盗まれるとかさー少し危機管理がなってないのと違う?」
〔それを言われてしまうと何も言い返せぬが我も産卵直後三日三晩動けぬのだ〕
「なるほどね」
そりゃそうだわな、出産には男じゃ計り知れない体力を使うだろうし、竜の生態系を熟知している奴の犯行なのか?
「アスラく〜ん、話は終わったんでしょ〜飲みましょうよ〜」グビグビ
「アスラ!いっぱい食べて体力付ける」パクパク
「そうだな折角だから飲んで食べて楽しもうか」
宴も盛り上がる中、地竜の元へオウガを始め数名の獣人達が集まる。
〔ん?何用じゃ〕
「貴女に聞きたいコトがあって来たのダ」
〔我に聞きたい事じゃと?言うてみよ〕
「オレの親父の話ダ……オレの親父は、5年前貴女がベスティアを襲って来た時に貴女の眼に致命傷を与えた獣人ダ」
「ほぅ…我に深手を負わせ、逃げる事しか出来ぬ状況へ追い込んだアノ獣人か……我もアノ時、理性を失ったとはいえ凄まじい気迫の持ち主、可なりの手練れと記憶しておる。アノ者の息子がお主か?」
「そうダ……」
「家族を殺され我に報復に来たのか?」
「イヤ違う!今の貴女の話を聞けて良かった……親父はムダ死にで無いコトがワカッタ」
今のオウガと地竜の話を後方で控えていた獣人達が地竜に詰め寄り"俺の親父は"オレの父さんは"と、当時地竜と戦った親達の話を聞きに詰め寄る。
報復に来たと思いきや、そうでない事に少し戸惑いつつ有る地竜、しかし彼等の真剣な眼差しを見た地竜はポツリと当時を振り返り語りだした。
〔えーい静まれ!お主達良く聞くのじゃ。当時、我と戦った者達は竜である我に臆する事なく立ち向かった立派な戦士達じゃ!卑劣な手を使う様な勇者とは全く違う勇敢なる戦士じゃ!手を掛けた我が言うのも変だが決してムダ死にでは無い!〕
今の地竜の話を聞き、死者を冒涜する事なく讃える彼女の言葉に涙する者が絶えない。自分の親達はムダ死にでは無く、勇敢にも愛する家族を護る為、死んで行ったのだと。
〔家族を殺され我が憎いと思うのなら、いつでも相手をしてやるぞ?〕
「イヤ、それは無い!最初に貴女の大切な子を奪ったのは、獣人ダ。お互いに愛するモノを護る為に戦ったのダ、ソレに対して報復などしては死んで行ったモノを侮辱スル行為!ココに居る全員オレと同じ意見ダ」
涙を拭いながら全員ウンウンと頷く。近くで聞き耳を立てていたアスラはコレを機にお互いの蟠りも無くなればイイのになぁ〜と、思っていた。
「ね〜アスラ君!飲んでる〜?」グビグビ
「飲んでません!」キッパリ!
「ちょっと〜私の酒が飲めないって言うの〜?」
「ハイハイ、じゃあ一杯だけだぜ」
「やった〜!」グビグビ
「アスラ!」
「ん?何かなポアンさん」グビ
「よく見たら…」
「ん?よく見たら?」
「眼の色が違う!」
「えっ?」
「アッ!ホントだ〜アスラ君、地竜さんに貰った眼の色が前の眼の色と違うね〜」ケラケラ
「マジか!」
って、そりゃそうだわな。俺の眼の色と地竜のお姉さんの眼の色は違うからね。オッドアイか…一度は憧れるオッドアイに異世界に来てなれるとは。などと心の中でニヤ付いていたら
「…マスター…」
「おっ!?マナミ、起きたのか?」
"コクコク"「…お腹…空いた…」
「そうだったな。マナミは何が食べたいのかな?」
ココは敢えて普通に聞いて見よう。
「…マスター…」
「えっ?」
俺を食べるのか?ソレはダメです!
「…マナ…」
「マナ?」
あっ、魔素のコトね。
「…手…」
マナミが小さい声で"手"と言って俺の手を握る……手を握って欲しかったのか?
「イ"ー!?」ドクン
ナッ!なんだ今の?これって契約の時に感じたヤツじゃないのか?カラダから何かを削られる感じの……?カラダのアチコチを見るがどこも欠損してない……一瞬の出来事だけど体調も悪く無い?なんなんだ?やっぱり魔力を吸われたのか?
「…マスター…」
「どうしたマナミ?」
「…お腹…いっぱい…」
「はぁ?」
待て待て!お腹いっぱいって、何?地竜のお姉さんが言ってた様にマナミの食事は魔力(魔素)なのか?でも俺って魔力ないしな……もしかして魔力が殆ど無い俺の魔力で満足してるって事は……マナミって、超低燃費!?
「マナミちゃん、もうお腹いっぱいなの〜?」
"コクコク"
「俺の有るのか無いのか分からない魔力で満足してくれるなんて、マナミはイイ子だな」
「ホントね〜」グビグビ
「マナミ、イイ子!」パクパク
「そ〜言えば〜アスラ君。君の後ろに置いてあった酒樽は何処へ行ったの〜?」
「アレ?ホントだ、どこ行ったんだろ?」
な〜んてね。ホントは影の功労者へ褒美として渡したんだ。食事はしない筈なのに酒を飲みたいって地中からせがむ小っこいオッさんが言うからね。
色々あったけど、やっと一件落着だね。獣王様の話だと今年の闘技大会も急遽中止に決定したみたいだし、この国でやり残した事も無いから明日か明後日にでも発とうかな、マナミの服も買ってあげないとだし。ヴァルトリアに帰ったらルチハとシャル、ビックリするだろうなぁ〜なんせ妹が増えるんだから……なんて言い訳しよう。
しかしオウガのヤロー、姫様に行き成りプロポーズするとか羨ましい!俺もっ……アレ?誰に?……彼女すら居ないからプロポーズより、先に彼女を作らないと!ハァ〜彼女欲しい。