上書き
死に対して自覚があるのか無いのか、呑気に買い物とか言うあたりがアスラらしいと言えばアスラらしいのだが……
「そうじゃないでしょ〜」
「アスラ、バカ!」
「エッ?」
「君ね〜自覚ないの〜?」
「時間がない!」
「あー、それかぁ……今更ジタバタしても仕方ないだろ?」
別に忘れてた訳じゃないけど、考えても仕方ないしな……それにしても、あの隕石の熱量に対して背中に背負ってるリュック全然焦げてないし穴すら空いてない……今更だけどスゲー!
「賢者殿!本当に申し訳ナイ!」
「アスラ君済まない!私達の力が足らないばかりに、君の命を犠牲にしてしまって……」
再度頭を下げる獣王とレオン王子、そしてこの場に残った者達。
「残された時間で生き残る術を探してみるさ、だからもう気にしなくてイイよ。それよりさー獣王様、被害状況がイマイチ分からないけど、何とか勇者を追い払う事が出来たんだからもっと喜ぼうぜ。他にケガ人とかも居るようなら俺が治してやるからさ」
なんと器の大きい男なのジャ!正しく噂通りの男、伝説の賢者の再来は……イヤ!この者こそ真の勇者で有るべきジャ!この男決して死なせてはならぬ。
「それとさー獣王様。俺は伝説の賢者とかじゃ無いからさー"賢者殿"って呼ぶのヤメテくれないかな、最初みたいに名前で呼んでくれる?」
賢者殿とか呼ばれたら調子狂うって!
「ウム……承知した。アスラ」
ウ〜ム、益々死なせてはならぬ。アレだけの力を見せ驕り高ぶるコトすら無く普通に接しろとは!
「レオン!疲れているところ済まないが今すぐ城から解呪に長けた者を至急ココへ連れて参レ!」
「ハッ!」
〔待て!先程も、そこの女子に言ったが魔眼による呪いは如何に優れた術者と言えど解呪はムリじゃ〕
「ナッ!?」
なんジャと!?魔眼による呪いは解呪不可能ジャと……ではアスラは………
今の地竜の一言で、その場に居る者たちは一斉ににシーンとなる。
力及ばずとも皆一丸となりアスラ、地竜の助力も有り勇者を蹴散らす事に成功し喜びを分かち合いたいものの、一番の功労者アスラの寿命を削って得た勝利に喜びを表へ出す、そんな恥知らずな者は居ない。
しかし死を宣告されたアスラの呪いを解く術すらない……そして自然と視線は1人の女性へ、人の姿に変化した地竜へ注がれていた。もしかしたら人よりも長く生き叡智に長けた竜ならばと……
「地竜殿、不躾なコトを聞くが許してほしい。貴女ならばアスラに掛けられた呪いを解くコトが出来ぬだろうか」
〔……〕
静かに目を閉じ考え込む地竜。
「そうね〜そうよね〜地竜さん、お願いします〜。アスラ君に掛けられた〜魔眼の呪いを解いて下さい〜」
〔……〕
「みんな、もうイイって。地竜のお姉さんも困っているだろ?」
目の前の竜、人語を話し、人の姿に変化できる程の力が有ると言う事は、恐らくエンシェントドラゴン(古代竜)人智を超えた竜ならばアスラ君に掛けられた呪いを解く術を知っているかも知れない。
なんか俺のせいで皆さんお通夜みたいな顔になってる……自分の事だけどなんか悪い事したなぁ……さてどうしたもんかな、実際俺って本当に死ぬのか?などと一人で考えていたら……
〔アスラ、お主に一つ確認したい事がある〕
「何かな地竜のお姉さん?」
〔お主の力で呪いを解く事は可能か?もしくは死期を遅らす事など出来ぬか?〕
「それは呪いに対して抗う術があるかどうかって事だよな?」
〔ウム〕
「残念な事に今の俺の力じゃ呪いを解く事も呪い自体を遅延さす事もムリさ」
〔フム……正直言って我でも魔眼による呪いを解呪する事は出来ぬ……〕
ザワ ザワ
目の前の竜ならばアスラの呪いを解く事が出来ると思っていた者達が落胆する。
「そっか!地竜のお姉さんでもムリかー!悔しいけど仕方ないな」
一瞬期待したんだけどなぁ〜仕方ない、他の手を探すかー。もしかしたら駄竜なら解けるかも!最悪死ぬ前に一回は会っておかないとだし。
〔魔眼の呪いを解く事は出来ぬが、今お主に掛かっておる呪いを別モノには出来る……〕
ザワ ザワ
「えっ?えっ?どう言う事?呪いを別モノって?」
地竜のお姉さんが何を言っているのか全く理解が出来ん!
〔今、お主に掛かっておる呪いを更に強力な呪いで覆うのだ〕
ザワ ザワ
「なるほど、つまり……呪いの上書きって事かな?」
〔ウム、その通りだ。理解が早いの〕
ちょ!それって可なりヤバくね?更に強力な呪いってマジでヤバいって!それとも呪い同士をぶつけて相殺さすのか?いや上書きって言ってたよな……
「仮に上書きに成功したとしてさー、俺は死なないの?」
〔ウム、死は免れる〕
「それって、痛いとか苦しいとかないの?」
〔安心せい、我の施す呪いには肉体的苦痛は一切無い〕
ホッ「肉体的な痛みが無いなら掛けられても大丈夫かな?」
イヤちょっと待てよ。肉体的な痛みは無いけど精神的な痛みが有るとか能力が使えなくなるとか弊害があるのと違うの!?死ぬのも嫌だけど、能力が使えなくなるとか……ちょっと嫌だなぁ聞いてみよう。
「地竜のお姉さん、その強力な呪いで今有る俺の力が制限されるとか使え無くなるとかは無いの?」
〔心配せずともその様な事は一切無い〕
ホッ「それは無いんだぁ。因みに精神的な痛みは、どうかな?」
〔………それも、無い〕
「えっ!?マジで」
地竜のお姉さんの言う強力な呪いって一体どんな呪いなんだよー痛みが無い呪いって何よ!でも返事を返すのに少し間があったような?ん〜聞くのは怖いけど残された時間も無い事だし聞いてみようかな……
「え〜っと地竜のお姉さん。一体どんな呪いなのかな?説明してもらえたら嬉しいのだけど」
〔フム、気になるか……ならば教えてやろう。お主の大切な者を失うのじゃ〕
「えっ?たいせつなもの?それって人の事?」
「フム、そうじゃ。お主が想う最愛の者を失うのじゃ」
「えっ?俺が想う最愛の者……」
それって……誰に当てはまるんだ?俺の親か?イヤ元の世界までそんな呪いが影響する訳無いだろうし……この世界に来て最愛の人って……ユーリアだろうな多分。ルチハやシャルは妹として大切だけど……ちょ!待てよ、最愛の者を失うって事はユーリアに危害が加えられるって事か?俺が生き残る為に代わりに命を奪うとか!?
「それって俺の最愛の人の命を奪うって事じゃないよな?もしそうなら俺は、このままでイイ!」
〔心配せずとも良い。お主の最愛の者には一切危害は及ばぬ!〕
ホッ「それならイイんだけど、でも一体どんな呪いなんだ?俺の頭じゃ全く理解出来ん!もっと詳しく説明して」
思考を読んでもイイけど、バレたら怖いしな。
〔フム、仕方の無い男じゃ。詳しく説明やるか……その前にここに居る全ての者も心して聞くが良い!〕
地竜のお姉さんは一拍置いて全員に語り出した。本来俺に掛ける呪いは、ここベスティア獣国に掛ける予定の呪いだと。
そして今、目の前に居る人の姿をした女性が5年前にベスティアを襲った地竜だと気づいたようだ。ん〜ヤバイね、騒然とした後に緊張が走ったよ。
最初皆んなの前で竜の姿に戻った時に5年前に対峙した竜と似ているけど、オウガの親父が与えた傷が無かったので勘違い(実際勘違いじゃなかったんだけど)したらしく……まぁ俺がお姉さんの目ん玉治しちゃったのが原因だけど、実際その時は大ピンチだったし、自分達を身を挺して護ってくれるから別の竜だと思ったみたいだね。
その後俺自らが必死に皆さんを説得と言うか何というか!一触即発の危機を乗り越える為にね。今回の地竜のお姉さんと接触するまでの経緯を順を追って話したよ。
まず勇者が何の目的の為にベスティアに居るのか調べる為に、そして勇者の後をつけ、その時に勇者達と一緒に居合わせて居る獣人が5年前に起きた惨事の犯人だと突き止めた事を話した。
事が事だけに皆さん真剣に聞いている……
今回も前回同様竜の卵を奪い、それを利用して金儲けをしようとしていた事も、そして金儲けに繋がらなくなった卵を勇者に譲った事も(何故卵が必要無くなったのかは話さない)ここまでの経緯はシィーナさんに伝えていたので、シィーナさん経由で一部の者は一応真相は知っていたようだけどね、でもまさかねー5年前に襲った竜が自分達を護ってくれるとは、誰も思わんだろうし。
そして話は続く、闇商人のアジトで竜の卵を発見した俺はアル者(ノームの事は敢えて伏せる)の案内で地竜の元へ行き取り返した卵を地竜のお姉さんに返す。
その時に色々事情を説明し、地竜のお姉さんが納得したかは分からないけど一応納得してもらったと言う事で、そしていざ帰ろうと思った矢先にまさか勇者と獣人達が闘技場で戦闘していると思わなかったんだよね。そして何故か地竜のお姉さんも同行する事もね。そして話は終了し現在に至る。
まぁお互いに恨み辛みは有るようだけど、事の真相を聞いて皆さんシーンと、しちゃったよ。
地竜のお姉さんの立場からしたら、自分の子を取り返す為に暴れ、獣人からしたら、狂った竜を愛する者達を護る為に戦う……お互いに間違った行動をしている訳では無いからね。
真相を聞いて皆さん複雑な表情に、なっちゃったよ。誰だって自分の子を攫われたら奪い返すのが当然だからね。
「地竜殿……罪人とは言え我が国の民、貴女にした罪は全てワシに有る。済まぬ許してほしい」
自分の国の民が仕出かした罪に王自らが頭を下げちゃったよ!でも悪い事をしっかり認め頭を下げるって、獣王様は真の王様なんだな。
〔もう良い。我もあの時、理性を失い罪も無い者に手を掛けておる……〕
「この件に関しては、ワシが責任を持って未だ真相を知らぬ者に理解を求めたいと思う。本当に済まぬ事をシタ」
〔もう良い〕
お互いに理解し合えたかは分からないけど取り敢えず5年前の遺恨が無くなる事を願うだけだ。
そして本題に移る。
「で、その5年前に受けた仕打ちでベスティアの国の人達を呪い殺そうとした訳なのかな?」
〔いや、呪い殺そうとまでは思っておらぬ。我の苦しみを愛する我が子を奪われた苦しみを呪いという形にして味合わせてやろうとしたまでよ〕
「んー、イマイチ俺には理解出来ないなぁ?どんな呪いなの?」
〔愛する者達を全て忘れる呪いじゃ!この呪いは単純に死ぬ事より辛いと思うてな〕
ザワ ザワ
「それは怖い呪いだな……一歩間違えたら国の機能が停止して国自体が崩壊しそうだし」
今の話を聞いて皆さん引いちゃったよ。
〔心配せずとも そのようなバカな事はせぬ、安心致せ〕
皆さんホッとした後、安堵した顔つきになってる。そんな呪い、誰も掛かりたくないもんね、ん?待てよ、その呪いを俺が掛かるのか?
「もしかして、その呪いを俺が掛かるのか?」
〔そうだが〕
「えーマジでー!そんな強力な呪いじゃなく、もっとソフトな軽い呪いを掛けてくれよ」
マジでヤバイって!そんな国全体に掛けるような呪いを俺一人が掛かるなんて痛みが無いとか言ってるけどマジで死ぬって!
〔……アスラよ、お主……何か勘違いをして居らぬか?誰かを呪い殺すという強力な呪いは、それなりに己に代償が返って来ると言うモノじゃ、まして魔眼の様な強力な呪い、それに対抗し圧倒出来る程の呪いでなければならぬ。誰でもが解呪出来る様な呪いを掛ければ、更に今掛かっている呪いを増長さすようなモノじゃ!我の言葉が理解出来るか?〕
「あ、あースマン」
怒られちゃったよ。それじゃ勇者は自分の寿命とか削って俺に呪いを掛けたのか?まぁアレだけ狂ったヤツなら自分の寿命くらい掛けるかもね。
〔では早速お主に呪いを掛けるとしよう〕
「ちょっと待って!まだ心の準備が出来てないって!それに地竜のお姉さんの呪いは本当に勇者の呪いを圧倒出来るのか?」
「フム問題無い。呪いとは積年の恨みを晴らすモノ、あの日我の子を奪われてから今日まで怨み続けたものよ、更に懲りずに我の子を奪い怨みは増すばかり、その思いを呪いに乗せる、如何に魔眼の呪いとて我の呪いが圧倒する筈じゃ!」
「そ、そう」
うわぁ〜今のお姉さんの話ぶりを聞くと、なんか引くわ〜。
「アスラ君、絶対生きるのよ〜」
「アスラ死ぬのダメ!勇者はユーリア様も狙ってる」
「エッ?どう言う事?」
「勇者の真の目的」
「あっ!そう言えば奴ら、ハーレムがどうのとか言ってたな……それでユーリアまで狙っているのか……それを聞いたら絶対死ねない!クソッ絶対生きてやる!地竜のお姉さん、今すぐ呪いを掛けてくれ!」
〔フム、それでは準備をするでな少し待っておれ〕
準備を始めるとか言って獣王様に何か話をしている、なんの準備なんだろ?
「…マスター…」
「あっと、マナミ。わるいけど少しの間、大人しくしててくれよな」
"コクコク"「…マスター…死んじゃうの?…」
「大丈夫、大丈夫、死なないから」
ん〜可愛い声、萌えって感じがするね。いつまでも裸じゃ可哀想だからバックから替えのローブを着させておこう。マナミについても色々と調べたいし、取り敢えずこの件が終わってからだな。
「マナミちゃんは〜私が見てて上げるから〜安心して呪いに掛かりなさいね〜」
「ん!ちゃんと見てる」
安心して呪いに掛かるって、おかしいよね?
〔アスラよ、準備は出来たぞ。早速始める〕
「あー……」
地竜のお姉さんの呼び声で振り返れば、レオン王子、オウガ、そしてオウガの愉快な仲間達が俺を出迎えて待機している。いっ、一体何が始まるんだ?そして言われるがままに仰向けに寝かされ、身体中を押さえつけられ完全ロックされました!?
「これは一体?」
〔済まぬなアスラ。本来の呪い自体には痛みによる苦痛は無いが、今回お主に施す特別な呪いには可なりの肉体的苦痛を伴うのでな〕
「エエ!?」
「アスラ君済まない」
「アシュラ踏ん張れ」
「あんちゃん動いちゃダメですぜ」
「アシュラ!耐えろよ」
「アシュラ、頑張れよ」
「アシュラ!生きろ」
「アシュラ、死ぬなよ」
「アシュラ!諦めるなよ」
そんなの聞いてねーよ!誰かー助けてーここにも詐欺師がいますー!
哀れアスラ!
だがアスラは呪いによる重大性に気づいていない。愛する者を忘れると言う事実に……
いや気づいていても気づかない振りをしているのだろうか……