死の代償
死の宣告を受けたアスラ!果たして彼の運命は!?
「まぁそれが運命なら受け入れるしかないかぁ……」
あぁ〜……まだやりたい事もいっぱいあったんだけどなぁ……ユーリア、ルチハ、シャル、そしてヴォルフに何て説明しよう……うわぁ〜マスター達にも!メチャクチャ怒られるだろうな……凄く気が重い。
〔お主はどうして、そう落ち着いておる?自分の余命が宣告されたのだぞ、死が怖くないのか?〕
「いや〜この世界に来てから死と隣り合わせなのは充分理解してたからね、偶々死ぬのが早まったんだよ。一々そんなことで慌てても仕方ないし……」
それよりも残された人に何て説明するか、そっちの方が悩むよ……
〔フム……〕
「アスラ君〜!希望は捨てちゃダメよ〜」
「ん!他の手段を探す!」
「そうだな、ただ受け入れるんじゃなく最後まで足掻こうかな」
離れた場所で4人が話をしている一方、こちらでは――
「王よ!もう許しておけません!私がこの者達に引導を渡します!」
「ウム」
兵士にカラダを支えられながらも剣を抜き勇者に構え向き合うレオン。
「あ!そやそや。こんなことしててエエんか?もう時間ないで」
「ムッ時間だと?」
「そやで早よ逃げなココに居る全員死ぬで」ニヤニヤ
「また何か悪巧み企んでますねタクさん。今度は何を仕出かすんすか?」
「うっさい!おまえは黙っとれ。話がややこしくなる!」
「そんな時間稼ぎは、もうよい。レオン、殺レ!」
「ハッ!」
「ウソやと思うなら上見てみ。空の上に何が見えるかなぁ〜?」ニヤニヤ
勇者タクが呟いた一言で、その場に居る全員が空を見上げる。
「ナッ!?」
「アレは何ジャ!?」
「マジすかタクさん!こんなトコでソレ使っちゃダメでしょお!」
ザワ ザワ ザワ ザワ
ユーゴも含むその場に居る全員が上空を見上げ驚愕する。見上げた空の遥か上空に無数の何かの塊が浮遊しているではないか。
「取り敢えずココ、闘技場に照準合わせといたからな。ココに張られた結界がどれくらい保つんやろうな〜」ニヤニヤ
「貴様ぁ!!!アレは何だ!?」
「見ての通り隕石やん。目ん玉ないんか?獣人って俺らより視力エエんとちゃうんかい」
「タクさん!マジで堕とすんすか?」
「あーマジや!”舞い堕ちろ!メテオレインッ”!」
「マジすかああああああああああああああああああああああああッ!」
そや!この人もタカシさんと一緒で頭いんでるんやった!僕はまだ死にたくありませえええええーん!
勇者タクが地竜に伸されたフリをし、密かに呪文を詠唱していた。そして残り最後の呪文を唱えた瞬間!!!
今現在勇者タクが使える最強の召喚魔法【メテオレイン】である。カラダに宿る魔力を10割近く消費し召喚した隕石群を堕とす!タチが悪い事に定めたポイントに照準を合わせれるようだ。
最後の呪文を唱えた直後、それまで浮遊していた隕石がこの星の引力に引き寄せられる様に次々に落下して行く。
「少々小粒やけどな結界壊すまで、そ〜やな〜保って3分から5分が限界ちゃうか?悠長に俺らの処刑しててエエんか?因みに俺を殺しても隕石は消えへんけどな。早よ逃げな全員死ぬで」ニヤニヤ
「クッ!全員退避!!!今直ぐ闘技場から脱出しろおお───────ッ!」
レオンの叫びが場内へ響き、我先にと逃げ惑う者達……大パニックの一言に尽きる。既に勇者に構う者すら居ない状態である。
「グヌゥ」
獣王、レオンにとって全くもって苦渋の選択である。1人でも多くの者を場内から逃す事を優先せざる負えない状況であった。
「うまく行きましたねタクさん」
「そやな……ブーゴ、あと頼むわ。もうアカン魔力が殆どあらへん、意識を保つだけで精一杯や」
「了解っす!ほんでどないしてココから逃げますの?」
「心配せんでも、もう手はうっとる。俺らが観戦してた客席の足元に転移の魔方陣こさえとる、後は魔力を流し込むだけや」
「流石っす!客席っすね」
ホンマ抜け目ないっすわこの人。
そう言って力任せにロープと鎖をブチ切りタカシとタクを抱え観戦していた客席へ駆け出すユーゴ。因みに魔封じのロープは一度切断した場合、魔力封じの効果が無くなりタダのロープになるようだ、アスラが先に切っていた時点で効力は失っていた。
場内我先にと逃げ惑い大パニックに成る一方あちらでは――
「マジかよ」
「アスラ君!早く逃げないと〜!あんなモノ落ちて来たら一溜まりもないわ〜」
「アスラ早く!」
「ホント色々やってくれるぜハゲトリオ。こっちの問題も解決してないってーのに問題ばかり押し付けやがって」
〔お主は逃げないのか?〕
「俺の力を使えば安全な場所へ逃げ出すのは簡単だけどな。でも、このままココの人達を置いて逃げ出す訳にも行かないだろ?」
〔ほう、あの巨大な岩を如何にかする術は有るのだな?〕
「まさか〜そんなの有る訳ないじゃん」
〔では、どうするのだ?〕
「そんなの決まってるじゃん。何時ものように当たって砕けろ作戦じゃん!」
〔プッ!プワッハッハ!成る程、当たって砕けろじゃな。面白い、我もお主に協力しようぞ!〕
「アレ?俺なんか面白いコト言った?でも協力感謝するぜ」
「仕方ないわね〜このマリーさんも協力して上げるから感謝しなさいよ〜」
「ん!伝説の賢者様の命令なら仕方ない!」
「あのね、俺は伝説の賢者じゃないし、命令なんかしてません!ケガしたら自己責任で」
「「エエ!!」」
〔フム伝説の賢者の力、我も篤と拝見しようぞ。どのみちお主は余命3日故、勇者と対峙した時のように力を制限する必要もなかろうて〕
「それもそうだな……仕方ない。出し惜しみせずに挑んでみるか!」
あのね、人の話聞いてる?俺は伝説の賢者じゃないって……さてと挑む前にっと――
闘技場の外では待機していた兵士達が場内の異変に気づく。直後、真っ先に場内から逃げ出す事に成功した者の報告により一同騒然となる。しかし冷静な判断が出来る司令官を配備していた為、直ぐに行動へ移る。二次災害に成らない事も含め闘技場全体から一斉に距離を置き避難者のルートを確保する。
タクの放ったメテオレインは雨の様に闘技場目掛け降り注ぐ。
” ガンガン ”と闘技場へ張られた結界を破壊しようと集中豪雨の如く激しさを増す。結界が崩壊するまで時間の問題のようだ。
闘技場から辛くも脱出できた者は未だ全体の2割に満たない、残り8割の人達の中には獣王たちも含まれていた。
場内混乱の最中タカシとタクを抱え転移魔法陣が設置されている客席へ無事辿り着いたユーゴはタクの指示の元、転移魔法陣へ魔力を流し込む作業をしていた。
「タクさん、まだすか?」
「まだや、もうちょいや」
「いや、僕もう魔力が殆どありませんよ〜。せめて何か食べモンでもあれば回復するんすけど」
「しゃーないやっちゃな〜そない言う思て既に特上の肉用意しとる。目〜つぶって大口開けろ!絶対目〜開けなや」
「ちょっとどんな肉か気になりますけど美味い肉ですよね〜?」
「あ〜マジもんの特上肉や!」
目を瞑り大口を開け、どんな肉が用意されているのかワクワク気になるユーゴにアイテムボックスからタクが取り出した特上の肉をユーゴの口へ放り込む。
口の中へ放り込まれた肉をガツガツ食べだすユーゴ。
「なんや、肉は流しこまんと噛んで食べるんかい」
ムシャムシャゴックン!
「そりゃそうですやん。肉は味わって食べな勿体無いですやん。しかし今の肉って味は悪くないんすけど生肉でしたよ、しかも骨付きやったし何の肉っすかね?」
「それは秘密や」
無事生還でけたら教えたる。アノ獣人達の片足ってな。そやけど流石に今のは引くわ〜見てて戻しそうになったやん。
「そう言えばブーゴ、チンチン大丈夫なんか?」
「大丈夫っすよ。マジでヤバそうやったから咄嗟にアレ使いましたもん」
「そーかブーゴも使ったんやな」
「タクさんも使ったんすか?」
「そや、これ見てみ。首んとこポッキリや、ホンマやったら死んでるで」
「ホンマっすね。僕のも見ます?大事なトコ潰れてグッシャリですわ」
「そやな、咄嗟にコレつこ〜て正解や」
「身代わりドール様々っすね」
【身代わりドール】ダンジョンなどで手に入る超レアアイテムの一つ。一度だけ所持者の危機を身代わりしてくれるアイテム。ただし痛みまでは身代わりしてくれないので、その時に受けたダメージは直接本人に返ってくる。
”ビキビキッピシッ!パンッ!パリーンッ!”
それは恰もガラスにヒビが入り割れる瞬間の音の様に闘技場へ張られた結界バリアが終に崩壊して行く。
「タクさん、どおっすか?」
「おっ!タイミングバッチリや。ほな帰ろか」
結界が崩壊せな、転移も使えんしな。日頃の行いがエエからやな。
「了解っす」
「ベスティア獣国、ほなサイナラ」
悪しき勇者がベスティア獣国を離れる瞬間。それはやって来た
「よー。忘れ物だぜ」
自分達の頭の上から声がし見上げれば、先ほどタカシの魔眼を食らった男が上空に居た。そして転移魔法陣が起動する瞬間、その男から”忘れ物”と、投げ込まれたモノが頭の上から降り注ぐ。
そうアスラがタカシと戦闘中にも関わらず能力を使い回収した”ニシンの缶詰”である。
そして悲鳴と共に転移し消えていった。
「俺の命の代償がニシンの缶詰とは割が合わねー!」
って、言ってる場合じゃないな。急いで食い止めなきゃ!
終に結界も崩壊した。それでも止む事も無く集中豪雨の如く降り注ぐ隕石群、希望が無いまま膝をつき泣き崩れる者、逃げるのを諦めその場でへたり込む者、手を合わせ神に祈る者……
そしてただ1人希望を捨てず降り注ぐ隕石に向かい立ちはだかるアスラの姿がそこにあった。
悪しき勇者の手により皆の希望が潰え呆然と空を見つめる中、彼は人の目など気にする事なく、その場で空に舞い上がり両手を広げ叫ぶ!!!
「一時的に隕石の落下を食い止める!死にたくないヤツは隕石に攻撃し、破壊してくれエエ───────ッ!」
俺の念動がどこまで保つか勝負だッ!?
そう最後の希望、伝説の賢者の再来と呼ばれる彼が、空に舞い上がると同時に私たちに容赦なく降り注ぐ隕石を上空で静止させている!?アレは……奇跡…?
アスラが空中で隕石を静止させ、地竜、マリー、ポアンが静止した隕石へ攻撃を仕掛ける。可なりの熱量を持つ隕石に対し念動で静止させたままアスラがアクアを使い熱を軽減させ、そこへマリーの魔法、地竜、ポアンの物理攻撃を仕掛け粉々に破壊して行く。
それを傍観していた闘技場へ取り残された者達は、賢者殿に続けと隕石の破壊へと繰り出した。
「ファハハハハ!流石伝説の賢者殿ジャ!皆のモノーッワシに続けエエエエッ!!!」
「「「「「オオオ──────ッ!!!」」」」」
「フッ、最後の悪足掻き見せてやろうじゃないの!」
そう呟いたアスラはバックから魔剣マナイーターを取り出し静止させた隕石に突っ込んで行く。