呆気ない幕切れ
勇者タカシとの闘いの最中、被害状況を確認する為、全方位に千里眼を発動していたアスラは突如地竜が出現した事も、その後に勇者2人と対峙している事も手に取るように分かっていた。
千里眼を常に発動する事によりタカシの剣筋も既の所で躱すコトにも一躍かっていた。
俺が助言するまでもなかったな、地竜のお姉さんナイスタイミングで出てくるし、まさかホントに加勢に来てくれると思ってなかったよ。でも獣人達にアドバイスしてくれてホント助かります。
しかしこの狂った勇者を何とかしないと被害が拡がるだけだな……勇者が罪も無いヤツを襲うなっつーの!
「なんなんやコイツ?」
一体何モンなんやコイツは?今まで闘ったヤツより強いんは認めたる。認めたるけど何なんや?切り殺した!って思うたヤツを一瞬でなんもせんと生きかえらしよる?あの姉ちゃんが言ーとったようにホンマに伝説の賢者なんか?
そやかて何で伝説の賢者が俺らの前におるんや?俺らを倒し来たんか?んなモン納得いかんわクソボケッ!
「俺らの邪魔するヤツァーなんべんでもブチ殺したるッ!!!」
実際アスラが行った行動は死者の蘇生ではない。確かに絶命寸前の重傷者には違いがないのだが、タカシや傍から見る者には死者蘇生のように映ったのかも知れない。
「くッ!」
それにしても前ハゲさっきより更に強く成ってるッ!?アノ変な剣を手にしてから妙に様子もオカシイし、マジでヤバイかも。
お互いに致命傷こそ無いまま鍔迫り合いが続き切り傷ばかりが増えていく。アスラはこまめにヒールで回復するものの流れ出た血までは帰ってこない。タカシの返り血は勿論、アスラの返り血を魔剣ブラッディーソードが浴びる度に狂気が更に増し振るう剣にも威力が上がっていく。
そして厄介な事に狂気が増し狂っているものと思われるがタカシは至って冷静なようだ。今も手に持つ魔剣に魔力を流し得意の火属性魔法で炎を纏った魔剣をアスラに向け斬り込んでいる。
「オラオラッ!さっきまでの威勢はどないしたんや!」
身体強化に続き狂気まで増したタカシは徐々にアスラを圧倒していく。
「くッ!」
アチッ!剣に炎まで纏わせやがって!熱いって。バンダナ少し焦げたじゃん…
こちらの手の内を曝け出したく無いアスラであったが、そうは言ってられない状況のようだ。出し惜しみしていては殺られると判断したアスラは自らの能力解放を試みようとした。その時!?
プギャああああああああああああああああああああああああぁぁぁ…………
断末魔の叫びに近い悲鳴がアスラとタカシの耳に届く。アスラは地竜が勇者2人を相手にしているのは知っていたので別段慌てる素振りがない、だがタカシの方はそうはいかないようだ。
「なんやとッ!?」
タクとブーが殺られたんか!?なんやアノでかい姉ちゃんは!?アノ姉ちゃんに2人殺られたんか?
一瞬アスラから目を離してしまうタカシ。ユーゴの悲鳴らしき声の方向へ振り向けば無惨にも白目を剥いて横たわるタクとアワを吹いてピクピク倒れているユーゴの姿があった。その事実を見たタカシは可なりの勢いで動揺してしまう。
しかしその動揺した隙を見逃さないアスラは好機と見て勝負を仕掛ける。
タカシの持つ剣に目掛けてではなく、手首ごと斬り飛ばそうとマナイーターを振るう。一瞬目は離すものの その隙を突いて来ることはタカシには充分判かっていたようだ。咄嗟にカラダの向きを変えアスラを返り討ちに仕留めようとカウンター越しにブラッディーソードをアスラのクビ目掛け突き出そうとした瞬間!
” ボッ ”
一筋縄では行かない事はアスラにも充分理解した上でマナイーターの鋭い斬り込みは囮として誘いタカシの鋭い突きを躱しながらお返しと言わんばかりにタカシの頭部にパイロキネシスを見舞う!
「なっ!?」
突然メラメラと頭部(頭髪)が、燃え上がる。突如燃え上がる頭を庇いがら転げ回り火を消すタカシ。必死に転げ回りながら何とか火を消す事に成功し辛うじて火傷は免れたようだが頭部の火を消すことに必死に成り、先ほどまで手にしていた剣を手放していることに気付くタカシ。
「おいッテメェェ!俺の剣をどこへやりやがったぁッ!!!?」
「さぁ?」
「何トボケとんねんボケッ!パクリやがったなッ!」
「さぁ〜何のコトやら」
飽くまでシラをきるアスラだがタカシが火を消す事に必死に成り一時的に剣を手放した瞬間を見逃さないアスラは瞬時に剣を回収しバックへ仕舞い込んだようだ。
そして血塗れの呪われし魔剣【ブラッディーソード】は、この時を境に日の目を見る事が無くなったとか……
先ほど狂いつつも冷静な判断をしていたタカシであったが愛剣ブラッディーソードを奪われ冷静な判断を失う。本来剣などに執着しないタカシなのだがゲームの様な世界へ召喚され好き勝手出来るこの世界へどっぷりハマり依存した結果なのだろう。ましてや仲間のタクとユーゴがヤられ自分の思い通りにならない苛立ちに冷静な判断を欠いてしまう。
そして怒りに任せアスラに渾身の一撃を拳に込め、殴りかかっていく。
「おっと!」”ガンッ” ザザーッ!
咄嗟に剣の腹で防御するアスラ!勢い余り足を滑らすように後退する。
元々体格も良く柔道の有段者に加え普段から殴り合いの喧嘩慣れをしているタカシにとって、剣など無くとも拳で充分だとイキリ立つ。
「いてこますぞクソガキィッ!」
それに応える様に剣を地に刺し素手で掛かって来いと言わんばかりに挑発気味なジェスチャーをとるアスラ。
「シバくぞテメェエエッ!ナメとんかッ!あぁん!」
アスラにナメられたと勘違いするタカシは完全にキレモードだ。しかしいざ素手での闘いの中、驚愕する。
どう見ても歳下のガキ、それに加え自分よりヒョロこい体格、殴る蹴るを繰り返すも殆どが躱され凌がれる、オマケに柔道技(タカシの使う柔道技は正規の柔道技では無く汚い反則紛いの投げ技、絞め技の様だ)を使えば全て返し技まで使う始末。
なッなんやコイツ!?コレやとまるで総合格闘技やないかッ!?
「どないなっとんやッ!?」
超身体強化で強化しているにも関わらず一切アスラにダメージを与えれない自分に苛立ちを隠せないタカシ。噛み付いてでも掴み上げて絞め殺そうとアスラを捕らえた瞬間!
瞬時にバックにつかれアスラがタカシの腹ごしに両手をロックしタカシを抱え上げていく。
「なッテメェエエッ!なにするつもりやッ!?」
一瞬タカシの脳裏にプロレス技のジャーマンスープレックスが頭を過る!
しかしこの異世界でプロレス技など使った者など見た事も聞いた事も無いタカシは、ただ単に苦し紛れにバックを取ったと判断してしまう。
そしてタカシを抱えながらアスラが一言呟いた。
「おいハゲ、身体強化切れているぞ」
「なッ!?」
アスラが呟くと同時に綺麗な弧を描く様にブリッジを決めた!!!
ズドォォンッ!
後頭部を強打しタカシはマットへ、いや石畳の闘技場へ沈んだ。生身の人間とはいえ、この世界に来てレベルも上がり身体能力自体向上していることもあり当たりどころが悪かったが失神しただけのようだ。
アスラとの斬り合いで殆どの魔力を魔剣マナイーターに喰われ、挙げ句の果てに愛剣ブラッディーソードを奪われタクとユーゴもヤられ、動揺と冷静な判断を欠いた事によりタカシ自身知らぬ間に超身体強化が切れている事に気づかぬ大誤算……哀れ勇者タカシ。
勇者に対して散々梃子摺った獣人連合、突如姿を現したアスラ、続けて謎の女性として地竜が現れ、勇者と対峙したかと思いきや瞬く間に3人の勇者を倒してしまった。
なんとも呆気ない幕切れである。