一縷の希望
アスラがポアン救出に向かう少し前
別に正義のヒーローのようにカッコ良く登場するつもりは無いけど、一応はタイミングを見計らいながら出て行こう。
ハゲトリオと闘うのは……正直、気がのらない。だけどこのまま見過ごす訳にもいかないんだよな。問題はスケルトンの数、厄介だねいったい何体いるんだ?獣人達も相当手こずっていたような感じだけど……核の事を知らないのかな?まぁイイや。
ふ〜む、最初は俺一人で闘おうと思ったけど……この際だから小っこいオッさんノームの力も借りようかなダメ元で聞いてみよう。
「ノームさん、少しだけ俺に協力と言うか力を貸してくれないかな?」
『それは構わんぞ人間アスラ!』
『力を貸すのは構わんがワシらは戦えんぞ!』
『そうじゃワシらは非力じゃ!』
「武器を持って戦ってくれとかじゃないんだ。穴を掘って欲しいだけさ」
『穴じゃと?』
『穴掘りは得意じゃ!』
『落とし穴でも掘って欲しいのか?』
「オッ!勘がイイね!そのとおり落とし穴を掘って欲しいんだ。スケルトンのカラダだけがスッポリ入る位の穴だけど掘れるかな?」
『大丈夫じゃ!問題無い!』
『じゃが落とすだけじゃ倒せんぞ?』
『そうじゃ倒せんぞ!』
「倒すのは上に居る奴らの仕事さ!頭さえ出てたら核を潰せる」
『ほぅお主はスケルトンの対処法を知っている様だな。ヤツらは核を破壊しない限り何度でも再生しよるからな』
「前にも一度ダンジョンで闘った事がある、経験済みさ。さてとノームさんに穴を掘ってもらうのはイイんだけど、スケルトンの位置を確認してもらわないとな」
俺は透視で位置を把握できるけど小っこいオッさんノーム達にそんな能力無いだろうし、どう説明するかな……ん〜
『人間アスラ!問題ないぞ!』
「エッ!?」どゆコト?
『あんな邪悪な気配じゃ!』
『手に取るように分かるぞ!安心せい』
「そうなんだ」
邪悪な気配が感知できるとかイイなぁ〜俺も修行してレベルが上がれば感知できるようになるのかな?
早速小っこいオッさんノーム達が作業にかかりだしたね。スケルトンの事は小っこいオッさんノーム達に任せてと上の様子はと……「おや?」
『どうかしたのかアスラよ』
「いや〜上の様子を見たら勇者の一人がノームさんが作ってくれた偽物の卵を取り出して何かしようとしているんだ」
「偽物の卵とな?」
「そー言えば地竜のお姉さんには言ってなかったな、実は───────」
地竜のお姉さんに卵を取り返すにあたってノームに本物そっくりの偽物の卵を作ってもらい交換した事を話た。
『フムフム、なるほどのう。それで勇者どもは、偽の卵で何をしようとしておるのだ?』
「声までは聞こえないからハッキリしたことは分からないけど多分……竜の卵を使って獣人達を脅してるんじゃないかな?手を出ささないようにする為に。獣人達も流石に地竜のお姉さんの実力と言うか脅威は5年前に戦って知っているはずだから勇者との騒動で卵を割るような事はできないと……」
『フム本物であれ偽物であれ我を利用しようとしておるのだな』
「そう言う事みたいだね。って!おいおい彼奴ら何やってんだ!?」
『今度は、どうしたのだ?』
「彼奴ら俺の知り合いの足を剣で斬り飛ばしたんだ……」
『戦いなのだから仕方あるまい?』
「イヤそれが既に拘束して無抵抗な状態でだ……」
『フム……卵を囮に、無抵抗なモノに危害を加える……勇者らしからぬ輩どもじゃな』
「あー……」
ヤバいって!オウガの足まで斬り落としやがった!!!
まさかマリーさんやポアンさんにまで危害を加えようとしているんじゃないだろうな!
「チッ眺めてる場合じゃないな、地竜のお姉さん!わりーっ先に行く!(テレポ)」
シュン!
『ほぅ一瞬にして消えてしまうとはの……』
どれ我も久方振りに上の空気でも吸いに参ろうか。
◇ ◇ ◇
間に合え────────── ッ!
ビュン! ”キンッ!!!”
間一髪間に合った!ホッ
「おいおい、コレはやり過ぎだろ?」
成す術も無く呆然と立ち尽くす獣王の眼前に!?
有ろうことか、獣人の王たるワシが竜の卵で狼狽え!息子レオン、そして今は亡き親友の息子オウガに加えられた残虐なる仕打ちに平静さを失い、目の前の娘すら助け出せない醜態!ジャがそんなワシを救ってくれた一縷の希望が今まさに現れた!!!
アスラよ!生きて居ったのジャな。竜の卵が勇者の手に有る瞬間!奪還に失敗し、奴等の手によりこの世を去ったと思ったではないか!
其の方が噂に聞く伝説の賢者の再来ならばワシに力を貸してクレ!イヤこの国を悪しき勇者どもから救い出してクレッ!!!
アッ!アスラさんッ!!!生きていたのですね……そうですね貴方がそう易々と勇者に負けるハズは無いですね。竜の卵が勇者の手に有る事は、何らかの事情がある事なのですね。ですが本当に又お会いすることが出来、嬉しく感じます。どうか我々獣人の国をリオンヌ様を勇者の魔の手からお護り下さい!!!
あの者は一体何者なのだ? ザワ
誰だアノ隻眼は……? ザワ
疾風の如く現れたヤツは? ザワ
アレあのカオは? ザワ
眼帯してるけど……あん・ちゃん……?
情けない事に勇者の術中に嵌り片足をもぎ取られ、更にオウガの足までも、そして勇者の魔の手は戦士とは言え女性のポアン・グレイスにまで及んだ。だがその直後!私達の背後から頬を撫でるように風が舞った!その瞬間!!!彼が現れた!ポアン、マリー殿の顔を見れば直ぐに理解出来たよ……彼が……君たちが言う伝説の賢者なのだね。アスラ君
アシュラ!必ず来てくれると思っていたゾ!油断したとは言え、お前に稽古を付けてもらったコトがムダになってしまったスマナイ。
ダガ、この足でどこまで闘えるか分からないガ、最後の力を振り絞りコノ国をリオンヌを護り抜くゾ!
あああぁ〜私の、いえ私達の目の前にアスラ君が現れたわ〜。
君の事だから必ず私達の窮地に現れると信じてたわ〜。
アスラ!必ず来てくれると信じてた!
そして貴賓席で泣き崩れオウガとレオンの安否を心配していたリオンヌは…
「エッ?エッ!!!アッ、アレはアスラ先生!?どうしてアスラ先生がこのような戦場へ!?」
「リオンヌ様、もう安心ですニャ」
「エッ?」
「アスラ殿が助けに来てくれたニャ!もう安心ですニャ」
「エッ?どういう事?」
確かにアスラ先生が来て頂けたならば、戦場で傷付いた者達を回復してくれる……
「リオンヌ様には報告しても問題ニャいので お話しますが、彼は恐らく伝説の賢者の再来ニャ」
「エッ?伝説の賢者様……再来?」
伝説の賢者様と言ったら500年前に当時の勇者様と共に魔王と闘った方……
「ですので、もう安心ニャ」
「エーナ!それは本当の事なのですか?アスラ先生本人に確認したのですか?」
「いえ本人には確認してニャいです。ですが兼ねてからの噂、ヴァルトリアに潜入している諜報からの情報を纏めると間違いなく伝説の賢者そのものニャ!」
姫様の病気を治療できる医術師を探す為、ヴァルトリアへ訪れた時にミーケから良い情報を貰ったニャ、どんなに傷付いた者、病に苦しむ者をも癒せる者が居ると、ミーケは興奮しながら話、最後に伝説の賢者様の再来と言っていたニャ。
最初はニャにをバカなコトを言っているのと思っていたのは事実ニャ、でも調べれば調べるほど間違いニャいニャ。
「分かりました。今はアスラ先生を信じて戦いの行く末を見守りましょう」
「そうですニャ」
マリーさんに事の経緯を確認したところ……成り行きと言うか、その場のノリ……ノリで勇者討伐に参加しないでくれよ。どうせ討伐報酬に目が眩んだんだろ。ったく!取り敢えず状況がこれ以上悪化しないよう指示をしてと……頼むから無茶な行動だけは控えてくれよ。
獣王様も俺の目配せ通りジリジリと後退してくれている。いいぞバレないようハゲトリオから離れてくれよ。
生き残る事に成功したら、後でマリーさんとポアンさんに説教だな。さてと勇者の一人が俺に喚きながら何か言っているから相手をしてやるか。
「オイッ!お前かぁ?さっきそこの姉ちゃんがホザいてた伝説の賢者って言ーのは?」
「はぁ?なにそれ?」
「なんや、やっぱガセかいな。じゃあ何モンやぁ?」
「何モンって言われても普通の人だけどな」
「はぁ?お前舐めてんか?」
「タカシさん、コイツあれじゃないっすか?眼帯してるし、姉ちゃん達が伝説の賢者って言ってるって事は、例の隻眼の賢者やないっすか?」
「あ〜タカシ、俺も聞いたコトあんでぇ。巷で有名なヤツやん、前にも話したやろ?」
「なんやアレかいな。ちょっと盗賊退治して持て囃されてるっつ〜ヤツのコトかいな。しょ〜もなぁ〜それで伝説の賢者になれるなら世話ないわ。ガハハ笑ってまうわ」ゲラゲラ
マリーさん!なにコイツらに余計なコト言ってんだ!面倒なコトになる前に俺の名前を出さないように言っておこう。
「さぁーどうする、俺と一戦するか?それとも、このまま大人しく帰ってくれるか?」
「アホかっ!なんで雑魚相手に大人しゅ〜帰らなあかんねん。ここで死にさらせボケッ!」
ですよねー、大人しく帰ってくれる訳ないよね。
「仕方ない、相手するか」
遂に勇者との戦闘が始まってしまった。アスラにとって初めての勇者との対戦、お互いの情報が無いまま死闘が開始した。いやアスラは対峙するのは初だが、ある程度のステータスを読み取っていたが果たして有利な展開になるのだろうか?
序盤タカシは魔法もスキルも使わず剣のみで押して行く。
しかし最初こそ余裕で倒せると思っていた勇者タカシは焦りだす。そうアスラのように情報を集め日々努力をする事自体を怠っていたからである。勇者タカシに限った事ではない、タクもユーゴもである。
自分達は選ばれた勇者として召喚され、召喚された当初から努力する事すら無く手に入れたチートスキルを身に付け ”俺ら最強” と過信し慢心していたのだ。
アスラのように日々努力をし鍛錬していたならば、この世界で最強の称号を手にしていたのかもしれない。イヤけして経験値稼ぎを全くしていない訳では無い、倒すモンスター、迷宮などが彼等の当初から持つチート能力よりも低すぎた、詰まりレベルに合っていなかったようだ。
自分達は選ばれた勇者と言う事で慢心していた事は事実であり、今正にアスラに押し返されているのも事実である。
仮に3人同時にアスラを襲った場合、どういう結末に成っていたやら……
なんやぁ?このガキのこの強さは!?今まで闘ったヤツらより強いやないかッ!
焦るタカシ、そして自己のスキルを発動する。
剣で打ち合ってるけど結構やるな、勇者の称号は伊達じゃないね!だけど剣技に関してはアルフほどじゃない。イヤまだコイツ、スキルを全然使っていない。油断したらダメだ!!!
「=超身体強化=じゃクソボケッ!!!」
スキル【超身体強化】を発動する勇者タカシ!発動と同時に身体が一回り大きくなり一気に身体能力が3倍に膨れ上がって行く。
己の魔力を身体全体に纏い所持している装備にすら魔力を纏う。そしてアスラの首を掻き切ろうと執拗に首を狙っていく。
何かヤツから歪んだオーラの様なモノが見えた途端、身体能力が上がってる!?しかも執拗に首を狙い出した!ボイスチェンジャーマフラーは守らなくては!!!
剣と剣の打ち合い、いや斬り合いは激しさを増しているが互いに未だ致命傷には至っていない、周りで観ている者達は壮絶な斬り合いに、ただ傍観するしか無いようだ。ヘタに立ち入ろうモノなら2人の斬り合いに巻き込まれ斬り刻まれるのは想像できるであろう。
なんだ……アノ打ち合いは……ザワ
ヘタに手出しできねー……ザワ
アノ勇者のアノ速さ……力も半端ねー…ザワ
イヤそれに怯むコトなく応戦している彼も凄いぞ……ザワ
「タクさんタクさん、タカシさんエライ手こずってません?僕の気のせいっすかねー?サッサとアレ使えば勝負着くんじゃないっす?」
「アッホやの〜アレ使〜たら一週間目が覚めへんねんぞ、それに寿命も消費すんねんぞ?」
「寿命消費言〜たかてたかが2.3日ですやん」
「ほんまアッホやの〜タカシはアホやから人を斬り殺すんが好っきやねん趣味や!ブーコも知ってるやろ?タカシが魔法使うトコ滅多に見ぃ〜へんやろ?」
タカシが今のブーコの発言聞いたら、そ〜と〜キレるやろな、それにブーコは知らんやろ〜けど使えば使うほど倍に膨れ上がって寿命が加速しよるからな。
「そう言われればそうっすね」
タカシさんって精神壊れてますもんね。人を斬り殺すんが趣味って完全に頭いんでますもんね。
勇者タカシ!仲間のタク、そしてユーゴに散々な言われようである。
「なんでやあっクソボケッ!!!」
このガキッ!俺の攻撃全部躱しよるッ!?なんなんや一体!?
俺は勇者やどッ!「クソガキャアアッ!」
クッ!コイツ徐々にスピードと威力が増してきてる!躱すのが精一杯だッ!
この魔剣で応戦してなければ殺られているところだ!
そうアスラが武器として魔剣マナイーターを選択したのは間違っていないようである。
魔力操作を常日頃から怠っているタカシは単に魔力を放出しているにすぎない。見る者からしたら魔力がダダ漏れ状態なのだ。
体内の魔力を無駄無く練り上げ上手く操作し【超身体強化】を発動したならば身体能力5倍に跳ね上がっていただろう。
そして漏れ出る魔力は、マナイーター又の名を【魔力喰い】にとって恰好の餌食なのであった。
「クソガキャアアアッ!!!」
勇者タカシの渾身の斬撃が躱し損ねたアスラに振り下ろされた!!!
「ヤバッ!」
斬られると瞬時に直感したアスラは咄嗟に腕で斬撃を受ける!
ガギィンッ!!!
「なッ!?」
なんやコイツゥーッ!!!
アスラを腕ごと斬り取ったと思ったタカシは驚きと同時に後退する。
ヤバッ!一瞬斬られたと思ったよ。駄竜の手甲してて良かったホッ!でも衝撃は防げれないから痛いって!(ヒール)
なんや?コイツの装備は?メチャかてーぞ?チッ、今ので刃が欠けてもーたやないかいッ!
「タカシ!コレ使えッ」
「おっ!サンキュータック〜」
勇者タクがタカシにアイテムボックスから取り出し ”使え” と投げ渡した武器は迷宮で手に入れた戦利品超レアアイテムの魔剣【ブラッディーソード】釁られた魔剣……呪われし魔剣である。
刀剣に血糊が付く度に、使用者の狂気を更に呪いにより増幅させる恐ろしい武器である。正しく勇者タカシに持ってこいの武器であった。
「タクさん大丈夫っすか?アレ渡して……」
「しゃ〜ないやろ、このままやとタカシ殺られんで?」
「イヤあれキショいんすよ戦後の惨状見たら吐き気出るんすわ」
「タカシが殺られるよりマシやろ?」
「まぁそりゃそうっすけど……」
「さぁ〜俺らもソロソロ動こうやないか?」
「了解っす!サッサと姫さん攫ってきますわ」
遂に勇者タク、ユーゴも行動を開始する。
この後どう言った惨劇が始まるのだろうか……