容赦無い勇者
地竜のお姉さんが何やら邪気を感じると言う事で地上の様子を確認すれば、ナント!獣人達とハゲトリオが戦っているじゃないの!?
しかもアレほど勇者には関わらない様 念を押したマリーさんポアンさんまで現地で戦っている……いや既に拘束されている現状。
果して今の俺の実力が勇者に通用するのやら?まぁ通用しなくても何とか皆んなを救出したいもんだ。
さて……準備と言っても何を準備しようか……今回は魔族と間違えられないように《アッシュバーン》は、お休みにしとこう。
このまま隻眼仕様でイイか。バッグをゴソゴソと、あった!テッシュは辛うじて入っていたね。コレを丸めて鼻に詰めて、頭に巻いてるバンダナを鼻と口元を覆い隠すように巻いてと、コレで少しは臭い防止に成るかな?
他の装備はと……武器は魔剣でイイか、保険で手甲もしておこう。ブーツも安全靴に履き直して、こんなもんでイイか。
少し上の様子を伺いながら飛び出すタイミングを図るかな、上の様子を認識出来るからテレポは使えそうだし。
◇ ◇ ◇
闘技場では勇敢に勇者に立ち向かった4人の戦士……無惨にも鉄の鎖とロープの様な物で身体を拘束されていた。
「このロープ漸く役に立ったなタク!」
「そやなタカシ。使い所分からへんかったけど、こんな所で役に立つとは思わんかったわ」
「それ僕がダンジョンで見つけた【魔封じのロープ】ですやん。それに鉄の鎖作らしたのも僕やし僕の手柄っすね」
「うっさいんじゃボケ!デブは黙っとれ!最初に宝箱発見したのは俺や」
「ハイハイ分かりました」
ほんまタカシさんは直ぐに自分の手柄にしたがる……最初に宝箱発見したの僕やのに、この人には一生付いて行かれへん。
【魔封じのロープ】ダンジョンなどに稀に宝箱などから発見されるレアアイテム。対象者をロープを使い拘束することにより魔力を封じる事が出来るアイテム。
一時的にも魔力は封じられたとはいえオウガ程の筋力なら強引にロープも鉄製の鎖も力任せにブチ切る事は可能である。
だが然し鉄製の鎖を4人纏めて拘束している為、強引に切る事は敢えて控えてる様だ。仮に無理矢理に切る事に成功したとしても残りの3人、いや獣人ほど強靭な肉体の持ち主で無い人族のマリーには堪ったもんじゃ無いんだろう。
グルッと円を描く様に骸骨兵を、配置させ その中心部に勇者と捕らわれた4人が居る。骸骨兵の外側には獣人連合達が人質の様に捕らわれた4人の安否を気にしながら手も足も出せない状況、そして中心に位置し注目を集めていることで勇者達は主役の気分を味わっている様だ。
「しっかし意外としぶといやん。獣人って結構打たれ強いんやな」
「そやなタク。俺らの攻撃も骸骨兵の攻撃も結構受けてた筈やのに全然死なへんしのー」
「後ろに控えてる回復部隊がイイ仕事してますもんねタカシさん。獣人って脳筋や思ってましたけど侮れませんね」
「そやな」
「ほんでコイツら縛り上げてどないするんすかタカシさん?」
「そんなもん決まってるやろ?ブーゴ。獣人の王さんに交渉したいやろ?」
「そやでブーゴの交渉用にコイツら縛りあげてんで」
「マジすか?僕の為に人質取ってくれたんすか?タカシさんタクさん、あざっす!」
口は悪いけど結構いいトコあるんすね、一生はムリやけど今だけ付いて行きます。
「ちょっと〜何を交渉するのか分からないけど〜いい加減解きなさいよ〜」
「うっさい姉ちゃんやのー黙っとれ!」
「王に何を交渉するのか分からないが貴様ら勇者の戯言など王が聞くものか」
「そんなもん交渉してみんと分からんやろ?」
「貴様らのような下劣な輩に王は屈しないゾ!」
「下劣な輩やとぉ?それは褒め言葉かぁ?」
「タカシさん!褒め言葉っすわ。漸く僕ら勇者の実力を認めたんすわ」
「バカじゃないの〜あなたたち?ホラ、ポアンも何か言ってやんなさいよ〜」
「ムー……ムリ!臭くて死ぬ……」
「はっはー!狼姉ちゃんにはキツイわな嗅覚が人一倍強いんやから」
「ちょっと〜その変な臭いの物、この子から離しなさいよ〜」
「そりゃムリな相談やな、今から王さんと交渉して、お前らと姫さんを交換してもらうんや」
「なっ!?妹と私達を交換だとっ!」
「貴様らアアアッ!!!」
「オウガッ!落ち着け」
「グゥ」
「あなた達の目的は王女様だったの〜?」
「そやで」
「そうや、このデブがどうしても姫さん欲しい言うもんやからな。そやろ?ブーゴ」
「もちろんその通りっす!僕の肉べ、いやコレクションに決定っすわ」
「なにカッコ付けてコレクションや言うとんじゃ!サッサと片付けて次はヴァルトリアの姫さんやな」ニヤニヤ
「そうっすね。ヴァルトリアの姫さん、えらいキレイな子らしいっすからね」
「ちょっと〜!あなた達、ココを攻め落とした後にヴァルトリアも襲うの〜?」
「そうや、なんか文句あっか?」
「そんなコトしたら〜彼が黙っていないわよ〜」
「ハァ?彼やと?」
「ん、容赦しない!ウプッ臭い」
「どこの馬の骨の事言うとるか知らんけど俺ら勇者やからな誰が来ようと無敵や」
「そうそう俺ら勇者やから最強の無敵コンビや」
「ちょ!僕も入れて下さいって!」
「マリー殿、彼とは一体?」
「レオン王子、彼とは伝説の賢者のコトよ〜。絶対私達の窮地を助け出してくれるわ〜」
「ん!絶対来る!」
「ハァ?伝説の賢者やと?」
「タカシさん、アレっすわ。500年前に現れた勇者達の事じゃ無いすかね?」
「アノお伽話に出て来る奴らのコトかいな」
「500年前の勇者や賢者が現代に居るわけないやろ、アホらし寝言は寝てから言えって」
「さぁ交渉や、ブーゴ上手いこと交渉し〜や」
「任せて下さいタクさん」
グヌゥ…オウガ、レオン達までも歯が立たぬのか!?
「王様!如何致しましょう?」
「最早コレまでか……誰一人犠牲者を出さぬようコトを済まそうなどワシの考えが少々甘かったようジャ……」
こうなれば仕方ない、多少は犠牲者を出すが、この国を守る為致し方ない……
「王様!何やら勇者達が交渉を持ちかけているようですが?」
「なに!?交渉ジャと?」
「ハイ!人質と交換に……姫様を……リオンヌ様を差し出せと……」
「ヌヌヌゥ何処まで下劣な奴等ジャ!!!」
「交渉次第で この国から早々に立ち去るとも言っております!如何致しましょう」
「そのような要求など断じて受けぬ!斯くなる上は!!!」
「お父様……」
「ヌッ!リオンヌ、どうしてこのような所へ居るのジャ?」
「皆が生死を賭け戦っているのに私だけ安全な場所で隠れている訳には行きません!話は伺いました。私の身一つで皆が助かるのでしたら差し出して下さい」
「ヌウゥ断じてそれは出来ぬ!!!」
「そうですリオンヌ様!姫様を差し出すくらいなら我ら勇者と命を賭け戦います!」
「そうですとも、姫様一人が犠牲に成ることなどありません!」
そうだそうだ!そうです!そうですとも!そうですニャ!
「み、みんな……」
リオンヌ一人を犠牲にする事を敢えて拒む獣人達、そして獣王の決心も既に決まっているようだ。そう勇者と生死を賭けた戦いへと……
「なぁタカシ、あっこの貴賓席に居んの姫さんやんな?」
「そやな王さんの隣に居んな」
「じゃあ僕、姫さん貰いに行って来ます」
「ちょ待てデブ!王さんが凄い形相でコッチ歩いて来てんぞ?」
「ホンマっすね」
しかもデカイ斧抱えてますやん!
「コレ交渉決裂ちゃうんか?」
勇者の前に武装し赴く獣王、その後ろにも鬼気迫る表情をした兵士達。
「獣人の王さんストップ!」
「ムッ!?」
「僕らの要求を呑む気に成りました?」
「貴様ら下劣な輩の要求など一切呑まぬ!!!命が惜しくば早々にこの国から立ち去るのジャ!!!」
「だ、そうだブーゴ」
「どないするんやブーゴ」
「そうっすね、じゃあ しょーがないっすねコレを出しますわ」
ワシの目の前の太った勇者が手に持っておる籠の中から何やら取り出そうとしておる!?先ほどオウガやレオン達が苦しめられたアイテムなのか!?
そうなれば慎重に対処しなければ成らぬ……
ヌッ!!!アッ、アレは!?まっ、まさか!?卵……竜の卵……
アスラは、よもや卵奪還に失敗し……背後に控えておるシィーナの顔を伺えば目を見開く様に青ざめている……この下劣な輩どもも厄介ジャが、このタイミングで地竜まで現れ暴れられでもした場合……駄目ジャ!今は目の前の敵に集中しなくては……
エッエッ!!!何故勇者の手に竜の卵が!?確かにあの時アスラさんは竜の卵を見つけ精霊と卵を地竜に返すと……でも目の前の勇者の手元に有る物は紛れもなく竜の卵……まさか既にアスラさんは、この世に……
確かに卵をノームと一緒に地竜に返すとシィーナに伝えたアスラなのだがノームが作り出した偽物の卵とすり替えた事を残念な事に伝えていなかったようだ。
「さぁ どないします?獣人の王さん。コレを見ても僕らの要求をまだ呑めません?」
オホー!竜の卵を見た途端ビビってますやん!流石に獣人の王でも目の前に竜の卵があったら不用意に攻撃も出来ないっしょ。やっぱ切り札は最後まで取っとくもんっすね。
「ブーゴのクセに中々エエ場面で切り札使うやん」
「そやな、もし乱闘にでもなって卵でも割れりゃ〜竜が怒り狂ってまたこの国襲うんやろな〜俺ら3人なら余裕で竜なんか倒せるんやけどな。ハッハッハ」
「グヌゥゥゥ」
何処までも下劣な輩どもジャ!!!
「返事が、おまへんなぁ〜しゃぁ〜ない、コレならどうや?ムン」
ビュン!”ズシャッ”
「ぐぁあああああああ!!!」
目の前の勇者がレオンの足を躊躇なく斬り落としよった!!!?
「レッ、レオ兄大丈夫カッ!!!」
「ググッ!だっ大丈夫だオウガ。擦り傷だ……」
「ちょっと〜何て事するのよ〜」
「ひ、酷い!」
「ハッハー擦り傷だってよ。さぁ〜王さんよ、どうするんや?」
「グヌゥ貴様らぁあああ!!!」
「しゃぁ〜ない。もう一丁!ムン」
ビュン!”グサッ”
「グァアアアアア!!!」
「オウガッ!!!」
「レオ兄心配するなオレも擦り傷ダ。ググ……」
「ちょっと〜あなた達擦り傷じゃないでしょ〜片足が無くなっているのよ〜」
「大丈夫だマリー殿。コ、コレくらいの傷み屁でもナイ!クッ」
「大丈夫って、血がドンドン流れているのよ〜」
貴賓席で心配そうにオウガ達を見守っていたリオンヌはレオン、オウガの足を斬り落とされる光景を目の当たりにし泣き崩れていた。
「オウガ!レオン兄様!だ、誰かオウガをレオン兄様を助けて!!!」
「タカシ酷い事すんな〜」
「ホンマっすわ。目の前で見たら超エグいっすわ」
ホンマこの人容赦無い人やわ〜敵じゃ無くて良かった。
「うっさいんじゃボケ!王さんが早よ〜返事出さへんのが悪いんじゃ!ほんじゃ次は狼姉ちゃんの足でもチョン切ってやるか」
「ちょタカシさんっ!マジで切るんすか?相手は女っすよ!」
「ブー止めとけ、一旦火付いたタカシは気が治まるまで やんで」
「ちょっと〜止めなさいって〜」
「勇者!絶対殺す!殺す殺す殺す!」
アスラ君早く!!!早く早く来てぇ〜ポアンの足がっ!!!
「ハッハー!負け犬の遠吠えやな。いや負け狼か?殺せるもんなら殺してみやがれ!ムン」
言葉と同時に勇者タカシが剣を大きく振りかぶりポアンの足に狙いを定め斬り込む!!!獣王達はなす術無く呆然とその光景を見ているしか無かった……
ビュン! ”キンッ!!!”
「なっ!?」
闘技場に居る誰もが、なす術も無くポアンの足が斬り落とされたと思った瞬間!何処からか疾風の如く出現した男の剣により勇者の剣を遮った!
「おいおい、コレはやり過ぎだろ?」
「なっ!テメーどっから現れた!?」
あああぁ〜私の、いえ私達の目の前にアスラ君が現れたわ〜!!!
「何やってんタカシ。切り損ねてんで」
「コイツが急に現れたよったんや」
「そやな?どっから出て来よったんやろ?」
「まぁエエわ。俺の邪魔するなら殺すぞゴラァ!」
「おい前ハゲ!何凄んでんの?」
あのね、そんな凄んで ”殺す” とか言われても全然怖くないの、だって駄竜とか地竜のお姉さんの本物の威圧を見たらハゲトリオの威圧なんて何も感じないの。
カチンッ「あ?誰がハゲやねんッ!」
「プッ!おっとろし〜タカシに向かってハゲや言うとはエエ度胸してんなぁ〜にーちゃん」ニタニタ
「ホンマっすわ!タカシさんにハゲや言うなんて口が裂けても言えません!」ニコニコ
ププ!もっと言ってやって。
「うっさいんじゃ!ハゲは黙っとれボケッ!」
うっさい!俺はハゲや無い!少しデコが広いだけや!
「ハイハイ。で、どないするんすか?この状況と言うかこの眼帯にーちゃん。僕が相手しましょか?」
「うっさい俺が相手するんじゃボケ!ブーも早よー姫さん攫って来い!全員血祭りじゃボケ!」
ん〜コイツらハゲトリオのやり取りが漫才と言うかコントを観てるようだね。さてとハゲトリオがコントをしてる内にヤレるコトはバレないようにやっておこう。
マリーさんとポアンさんにテレパシーを使いっと、これまでの経緯を確認しながら鎖とロープをバレ無いよう切断!ロープは何やら特殊アイテムのようだけど俺の能力には全く関係無いようだ。
取り敢えず小声でレオンとオウガにも伝達してもらいながら切断された足をヤツらにバレないように止血程度にヒール!後でくっ付けてやるから我慢してくれよ。
オッ!獣王様も俺に気付いたようなので目配せをし少しずつ後退してもらおう。
さぁ俺の大切な仲間達救出作戦開始だね。