虚を突く一品(ひとしな)
一気に邪魔な回復部隊を殲滅すべく動き出す勇者達であったが勇者達が動き出すと同時に颯爽と駆け出す四人!!!
「オラオラッ!皆殺しやっ!」
ビュン!ビュン!
”キンッ”「ここから先には行かせん」
回復部隊に剣を振り回し虐殺の既のところで受け止めるオウガ!勇者タカシをターゲットとして捉えた!
「なんや〜?お前ぇ」
「下衆に名乗る名などない!」
「ハァ〜?どうせ死ぬんやから名乗らんでエエで」
「ほざくなっ!」バッ!!!
周りの獣人連合に骸骨兵を任せてタカシと対峙するオウガ。
一方こちらでは
「そこどいてくれません?王子さん」
「そう言う訳には行かないのでね。悪いがココで死んでくれるかい?」
ユーゴの行く手を遮るレオン王子。
「ほな死んでもらいましょか」
「死ぬのは貴様だっ!」ダッ!!!
ユーゴとレオン王子の死闘も開始した。
そしてこちらでも
「なんや?姉ちゃん達、どいてくれへんとケガすんで」
「勇者死ねッ!」
ビュン! ”ガン”
言葉と同時にポアンの鋭い蹴りが炸裂する。
しかしタクを護る様に二体の骸骨兵の盾に遮られる。
「おとろしい姉ちゃんやな〜しゃぁない相手したるわ」
「甘く見るな!」
「ポアン!骸骨兵は私に任せて勇者に集中して〜」
「ん!」
「なんや〜もう一人居ったんかいなぁ」
勇者三人に対して、それぞれ上手く相対することになり死闘が開始した。
獣人連合の兵も大会出場者、冒険者達もオウガ.レオン.ポアン.マリーの邪魔をしないよう骸骨兵に相対する形になり応戦を繰り返す。
召喚により骸骨兵を出現させたコトで闘技場では混戦を余儀無くせざる負えない状態に成った獣人連合、勇者達をオウガ達4人が相手をするとはいえ死亡者は未だ出て居ないが被害は徐々に拡大しつつある。
それでも甚大な被害にならないよう、獣化出来る戦士達は必死に骸骨兵に喰らい付き応戦して行く。
「おとろしい姉ちゃんやと思ったけど、狼女に変身しよったでホンマおっとろし〜」ニヤニヤ
この姉ちゃんの相手はブーゴの方が良かったかもしれへんな……今更考えても しゃーない、さて…どない料理したろか。
よっしゃ!イタズラ用に持っとった、アレが役立ちそうやな。この狼姉ちゃんビックリするやろな、イヤこの闘技場に居る特に獣人が一番ビックリするやろな、アカン!想像しただけで笑いが出そうや、ついでやからタカシとブーゴにも放って渡しとこ!
勇者達についてアスラから異世界より召喚され、尚且つ強大な固有のスキルを保持していると聞かされたポアンは慎重に勇者タクの動きを観察しながら好機を伺う。
そして素早い動きで翻弄しながら勇者タクへ駆け出すポアン、タイミングを図りながら時空魔法で作られたアイテムボックスへ手を入れるタク!
「タカシ!ブーゴ!受け取れッ!!!」
「なんや!?」
アレは!
「エッ!?」
マジすかタクさん!
徐ろにアイテムボックスから取り出された物をタカシとユーゴに投げつけ渡すタク!
アタイの目の前の勇者が別の勇者達に何か判らない金属の丸い筒を投げ渡そうとしてきた!アレは武器!?
勇者タクが放り投げた物は放物線を絵描く様にタカシとユーゴの元へ飛んで行く!
そして一個はアタイ目掛けて!!!
「易々と渡すか!」
”ガシュンッ”
「こちらとて同じ!渡してなるものか!」
”グシャ”
”クシュンッ”「こんな物アタイには効かない!」
カランカラン――コロコロ――”プシュ〜〜〜〜”
既に獣化し勇者達と死闘を繰り広げていたオウガ、レオン両名、タクがタカシとユーゴに何か武器なような物を渡すと見た二人は、それを阻止しようと自慢の爪で、そのモノを切り裂く!!!
そして同じくポアンも躱すこと無く切り裂いた物体とは!?タクが、この世界に召喚される時に所持していた物……この世界では馴染みが全く無い物……そう彼方の世界では普通に入手出来る缶詰の様だ……
「あ〜あ俺知らんでぇ〜全部の缶、切り裂きよったで」
思惑通りって、こ〜ゆ〜コトやなニヤニヤ
「タクッ!えらいモン投げたなぁ」ニヤニヤ
「タクさんっ!いつかヤルヤルとは思ってましたけど、ここでやりますかぁ〜?」ニコニコ
いつかタクがヤルと思っていたタカシとユーゴは事前に用意していた鼻栓を即座に鼻に詰める。
普段からブーゴの体臭と口臭の臭さに慣れとるけど、やっぱ臭いんやろなぁ〜鼻栓しとこ。
オウガ、レオン、ポアンが缶詰を切り裂き、切り裂かれた缶から”シューシュー”と気体に近い液体の霧が勢い良く噴出する……中には缶からドロドロと腐ったような物体まで飛び散る缶もある……そしてその缶から噴出した臭いを嗅いだ闘技場に居る全ての者は、のたうち回り悶絶した!!!
「グァアアなんだこれはああああー!?」
「ギャアアアアアアア!?」
「鼻が捥げるぅウウウウウウ!?」
「グァアアくっ臭いいいいっ!?」
「ウップいっ息が出来ない!?」
「ウォェエエエエ!?」
「オエエエ!!!?」
特に嗅覚が鋭い獣人は気絶する者も居るくらい強烈な臭いのようだ。
勇者タクがアイテムボックスから取り出りだし投げた缶詰の正体とは!?
ナント!世界一臭い食べ物と称されている、ニシンの缶詰だった!!!
何故タクがこの様な物を所持していたかと言うと、イタズラ半分にユーゴに缶を開けさせ、その臭い匂いで悶絶する姿を見たく通販で入手していたからである。
しかし当のユーゴには全く効かなかった様だ。臭い食べ物大好きなユーゴには大好物であったとか……
ブーゴには効果が無かったんやけど(オエオエ言いながら”コレくせになる美味さっすわ〜”食べてる姿を思い出すやん)この闘技場の奴らには効果があんなぁ〜最高に笑ける。
もちろん戦場で暴れている骸骨兵には全く効果は無い!悶え苦しむ獣人達を襲いに掛かる骸骨兵、それを何とか阻止しようと獣人以外の冒険者、大会出場者達……しかし獣人ほどの鋭い嗅覚が無いとはいえニシンの缶詰の臭さには普通の人間でも集中力が削がれる。
「なぁ〜に〜この臭い!?臭すぎて息が出来ないじゃないの〜ウップ!」
そしてニシンの缶詰を切り裂いた三人は堪ったものでは無いようだ……ニシンの缶詰に一番近くに居る事と缶を切り裂いた爪に強烈な異臭が纏わりつき漂っているからである!
如何に獣化した三人でも片手で鼻を押さえた状態で闘うのは可なり不利、まして息を止めたまま闘う事など、普通の者で1分、鍛えぬかれた者でも3分から5分が限界だろう……
ニシンの缶詰で虚を衝かれ形成は一挙に逆転し勇者達に有利な展開に成って行った。果たして獣人連合は、ただの缶詰で風前の灯火を迎えてしまうのだろうか……
◇ ◇ ◇
『人間アスラ!そろそろ獣人の国に到達するのじゃ!』
『そろそろじゃ!』
『ワシらに労を労うのじゃ!』
「おっ!やっと到着するんだ」
……労ってるし感謝もしてますって!
『人間アスラ!どの辺りに出れば良いんじゃ?』
「ん〜そうだなぁ〜余り人の居る辺りに出るのも面倒だしなぁ……」
『何処でも良いのではないのか?』
「イヤイヤそう言う訳には行かないだろう?騒ぎになるのイヤじゃん。ちょっと待って!俺の能力で、どの辺りに出れば良いのか見てみるからさ」
そんな、行き成り地中から人が現れたらビックリされるし怪しまれるっつーの!
『フム……お主の能力とな……』
そう言えば最初に小っこいオッさんノームと出会った時は透視と千里眼を同時に使わないとノームの姿が見えなかったんだけど地竜のお姉さんのトコへ移動中、不思議な事に能力使わなくても存在がハッキリするくらい見えるように成ったんだよな……何でだろう?精霊に害意が無いと判断されて見えるようになったのか?
っと、今は出口の場所を探さないとな。
『アスラ!』
「ん?どうかした地竜のお姉さん?」
『お主は気付かぬか?彼方の方向に凶々しい邪気を感じるぞ!』
「エッ!邪気?」
『本当じゃ!地竜の言うようにアノ方向から凄い邪気を感じるのじゃ!』
『本当じゃ!この邪気は!?』
『この邪気は500年前にも感じた事がある邪気じゃ!』
『フム、ノーム達も感じるか……500年前の魔王の邪気に似ておるが……我には少し違う異質な邪気に感じうるぞ……』
「それじゃあ、その方向を見てみるな」
地竜のお姉さんが邪気な感じがした方向を透視と千里眼を使って見ることに……魔王の邪気に似ているとか何なの?
もしかしてハゲトリオの事なのか?でも最初に奴らの居るトコではノームさん邪気の事なんか言って無かったし……まさか上で暴れてるとか……
不安にかられながら地上の様子を見る……普段上空から千里眼使って見下ろすのと全然違うね、何というか見辛い!意識を集中させ凝視してみよう。
……暫く地上の様子を伺いながら違う意味で地上の様子を探索……ん?アレ……あの大きい建造物の周りに武装した兵士が大勢見える……アレはどこだ?
もっと集中して見てみよう。
アレは……闘技場か?闘技大会で盛り上がっているのか?イヤそれにしては闘技場の周りに一般客すら居ない。
闘技場の中の様子はと……「エッ!?」
何アレ?試合なんかしてない?
『どうしたのじゃアスラ!?』
「イヤそれが……地竜のお姉さんが言う方向を見てみたら、獣人達と勇者が戦っているだ……」
『勇者じゃと!?戦況の方は如何なのじゃ!!!』
「んーーマズイ状況じゃないかな……なんか一方的にヤられている感じ……どっから現れたらたのか知らないけどスケルトンの集団まで居るぞ?」
『何?スケルトンとな?』
『人間アスラ!それは召喚で呼び寄せられた集団では無いのか?』
「召喚……魔法……?」
『当時……500年前の魔王との戦いの時、殆どの召喚魔法を使える者は根絶やしにされたと聞くが、魔王軍にもスケルトンの集団を召喚出来る魔族も居たと聞くが……』
「失われた召喚魔法を使える者が現代にも……」
それってやっぱり勇者達じゃないのか?
まさか召喚魔法を使える魔族ってことは無いよな……って、闘技場に魔族らしき姿なんか見ないし、絶対あいつらの仕業だ。
『アスラ、獣人どもが不利なのは解ったが他に何が見えるのだ?』
「ちょっと待ってな」
もう一度闘技場を凝視してみる……皆んな口というか鼻を押さえて苦しんでる様に見える?他には……!?
マリーさんポアンさん…オウガ!レオン王子まで縛り付けられてボコボコじゃないか!
あの二人には勇者に近づくなって忠告したのに……経緯が分からないから言っても仕方ないか……。
しかし何故獣人達は鼻を押さえているんだ?周りをもう一度よく見てみよう。
んん?何あれ?缶詰!?何故に缶詰なんかあるんだ?勇者が持ち込んだ物か?
……あの缶詰って……もしかして……ニシンの缶詰じゃ……アレって世界一臭い食べ物じゃないの?前に一度ネットの動画で見た事あるぞ……。
なるほどな何となく理解できたぞ、突然の臭さに鼻をヤられて、そこを突かれたんだな。鼻の効く獣人には、堪ったもんじゃないんだろうな、あの缶詰って相当臭いらしいから。
『アスラ、何が見えるのだ?』
「ん〜どう説明したらいいのかな――」
一応 地竜のお姉さんとノーム達に分かり易く説明したんだけど理解出来たのかな?
『フム……なるほど、お主の言わんとするところは理解出来る。お主の世界で一番臭いのキツイ物で獣人どもは虚を突かれた訳じゃな』
「多分そうだと思うぜ。俺たち人間でも、あの缶詰の臭いは強烈だと思うしな。勇者を見ればよく分かる、奴らしっかり鼻栓してるしな」
『フム……で、お主は助けに行くのか?勇者と闘いたくはない様な事を言っておったが、どうなのじゃ?』
「さっきも話ししただろ?俺の大切な者達に危害を加えるようなら容赦はしないと。今、闘技場でヤられている者達の中に俺の知り合いが居るんでね」
『フム、そうか行くのじゃな』
「まぁーな。降りかかる火の粉を払いに行くだけさ」
『我の力は必要か?』
「地竜のお姉さんが味方に成ってくれるのは有り難いけど、流石に竜の姿で暴れられるのもね〜」
『この姿のままなら良いと言うコトかの』
「まぁ俺一人で何とか頑張ってみるさ!地竜のお姉さんが獣人達を助ける義理も無いコトだしね」
『フム、そう言われれば そうじゃのう。仇はあっても義理は無いのう』
「そう言うコト。まぁ気が向いて暴れたくなったら好きなようにすればイイさ。その代わりその姿でな、暴れた弾みで獣人達を攻撃するのはナシな」
上の皆んなには悪いけど暫く様子を見ながら準備をしようかな。
さっき見た感じだと死亡者は居ないようだし、獣王様の采配か余程の精鋭が集まって居るんだろうな。
俺も死なない準備をしてから行くか。