帰国
その日の夜 英雄イナリが野外広場から立ち去った後もランバー国の彼方此方の酒場では、英雄イナリの話題で大いに賑わったようだ。
そしてここでも――
「親父!」
「アルフ、偽イナリ退治ご苦労じゃったの」
「いや退治したのは本物のイナリで!って、そうじゃ無い!あいつは一体何者何だ!?」
「フォッホッホ!イナリ殿はイナリ殿では無いか?何を今更言っておるのじゃ?」
「そうじゃねー!あいつの回復魔法は尋常じゃない!間近で見たがアレは人が成せるモノじゃないぞ!?」
「アルフ!」
「何だ親父?」
「お主がこの国、ランバー国そして民達を大切に思う気持ちがあるのなら、決してイナリ殿をこの地へ留めようなどと思うで無いぞ、もしそんな事をしようものなら、彼はイナリ殿は一生ランバー国へは近づかなくなるでの」
「はん!そんな事する訳無い!あいつは俺にとって良きライバルであり良き友だかなら!」ニヤ
「ふむ、それで良い。アルフ今日の出来事を詳しく話してくれぬか?勿論”英雄イナリ”の話じゃ」
「あーいいぞ!そう言えば親父と二人だけで話をするのも久々だな」
「そうじゃの、偶には一緒に酒でも飲むかの?」
「そうだな頂こう、なぁ親父 隻眼の賢者っていう奴イナリより強いと思うか?」
「はぁ〜また強い奴と対戦したくなったのか…懲りんな…」
夜中まで親子の会話はイナリの話題で盛り上がったそうな。
◇ ◇ ◇
翌日
「ふぁ〜よく寝た」
昨日は色々あったけど中々良い休日だったな〜一番驚いたのは俺の癒しの能力 向上してるんじゃねーの?いや〜一気に50人も治療出来るとは流石にビックリだね。
「さて今日の予定は…」
確か朝からゴッツが工房に来いって昨夜連絡あったな、他の装備でも仕上がったのかな?そうだと嬉しいね。
運ばれて来た朝食を食べ終えゴッツの元へ向かう途中 兵士や侍女さん達がニコニコ話しながら盛り上がってるね、昨日の話題かな?そうだろうね騎士さん達からも凄い勢いでコッチへ向かって来て”昨日はお疲れ様でした”と、声を掛けらる位だから。
噂が広まるの速いね少し自重しなくちゃ。今更だけど…
「おーいゴッツ来たぞー!」
「おうイナリ待ってたぞ!」
「おはよー英雄殿待ってましたよ!」
「おはようイナリさん、待ってたよ」
「ガッツにモッヅおはよう!ガッツ 英雄殿は、やめてくれ!」
「アハハ!昨日の噂は聞いたよ、英雄殿」
「おうワシも聞いたぞ!派手にやらかしたらしいな!ったく」
「オレも見たかったな〜」
「まっ冗談は、それくらいでブーツ出来たよ!」
「おっ!出来たか」
「注文通り爪先部分にミスリルを仕込んでおきました!踵部分まで素材が足りなかったから踵は鉄ですけどね」
「それで上出来さ!」
「イナリさん、腕用のガードはもう少し待って、アノ竜の鱗中々加工し難くて後2日程掛かるよ」
「ワシの方も後2.3日で出来そうだ!最高なモノに仕上げてやるからな!ったく」
「おう、あんたら親子の腕は信用してるからな」
「任せとけ!鉄製のトンファー各種作っているから持って行きやがれ!ったく」
「おっ!サンキュ」
そうそう別にトンファーも頼んでいたんだ、若干長さの違うモノと先端部分が尖っているモノとかね、用途に合わせて使い分けれるように。
「ところでイナリさん、オレはブーツを仕上げたから手が空くけど何か他に作って欲しい武器とか防具があるなら言ってくれ」
「ん〜そうだな〜」
武器…防具ね…何がいいかな…?アレなんかイイかも!
「おっ!その顔は何か思いついたな!ったく」
「取り敢えず武器!子供用のメリケンサックと手裏剣いや、ブーメランを作ってくれ!」
「ちょ!メリケンサックは解るけどしゅりけん、ブーメランって何?」
「おいおい、また聞いた事が無い武器だな!ったく」
作ってくれる担当はガッツだが、3人に詳しく手裏剣とブーメランを説明した。子供用のメリケンサックはシャル用に!サイズが合わないかもだけど取り敢えずね!
「へ〜中々面白そうな武器だな、全部作らしてくれ!いいだろイナリさん?」
「別に構わないけど、いいのか?」
「大丈夫!任せてくれ!それにしても子供用のメリケンサックって、イナリさん子供いるのか?」
「いる訳無いだろ!妹のだよ、妹!じゃあ頼むな」
鍛冶工房を後にし訓練場へ向かった、アルフは朝早くから自分の担当する砦へ行ったようだ、他の弟達はまだ帰って来ていない、今日はノンビリ一人で鍛錬に励もう 武器が増えた事もありカラダに馴染むよう鍛錬しまくりだな。
次の日も黙々とトレーニングを開始しヘトヘトになるまでトレーニングのしまくり!ホントヘトヘト。
翌日も一人でトレーニングしようと思ったんだけどバカ兄弟達が居ないのを確認し、一人でブラブラ散歩する事に決めた!誰にも邪魔されず散歩する方が気が楽だからね。
城を出る時 門番に軽く挨拶をし、夕方には帰って来ると言付けをし城を出た!そして城を出てから猛ダッシュで人気が無い裏路地へ入り仮面を外す、狐面以外の面をしてイナリと気付かれてトラブルに巻き込まれるのも面倒だからね。
久々に素顔になり向かった先はブラッドの妹ポーラの様子を伺いに、多分完治して大丈夫だろうと思うけど、様子だけ見ておこう。
ブラッドの家の近くまで来たけど訪問はしない、変に気を使わすのもね 遠くで様子を見るだけで良いな「おっ!」丁度ポーラが玄関先の花壇に水をやってる、ウン問題なさそうだ。
ポーラが家の中に居てたら千里眼と透視を使って覗きをしないとダメだったから俺的にも問題が無い!ホント良かったよ、普通に考えたら俺の能力って一歩間違えたら犯罪だからね。
気になった用事も済み街を散歩していて、やはり ”英雄イナリ” の噂とか耳にする…仮面外してて良かった。
散歩をしながら次に向かった先はアルフお勧めの店!アルフから大体の場所を聞いていたから迷う事なく着いたよ。
喫茶店風の店に入れば、ちょっとアレだね庶民が気軽に入れそうな店じゃない感じ、貴族までとは言わないけど、ソコソコ稼ぎが有る者が利用する様な店だね造りもシャレてるし。
席に座り飲み物とケーキを注文して待っていると、目当てのケーキが来ました!…ケーキと言ってもコレ?ホットケーキ?パンケーキ?まぁどっちでもいいや。
添えられてるシロップのような蜂蜜のようなモノをかけ食べる。パクリ
「ウン、確かに美味い!」
美味いけどホットケーキだよねコレ?まぁ普通に美味いからいいか。
パクパク食べながら周りを見ればカップルが多いじゃないの!ですよねー野郎一人で来るような店じゃないし、俺もヴァルトリアに帰ったらユーリアと一緒にこんな店に行こう。
パンケーキで思い出したけどアレが食べたくなったなぁ 料理下手でもアレなら作れそうだ、今度作ってみよう。
いやルチハに任せよう。
ホットケーキ風なモノを食べ終え紅茶を飲みながら考える…俺って駄竜に攫われてから どれ位経ったんだろう?さっぱり判らん…一番しくったのがスマホをバックに入れっぱなしにしていた事だ、バックの中って時間が停止してるんだよな…気付くのが遅過ぎたよ。
やってしまった事は仕方がないな、余りあっちの世界のモノに依存しないようにしないとダメだし。
さてと紅茶も飲んだし またブラブラ散歩でも開始しよう、この国の滞在も後2.3日でおさらばだからね。
その後もブラブラ夕方近くまで散歩し城に帰り その日は終了!街をブラついている時に購入した酒を届けに鍛冶工房にチラッと様子を見に行ってみたら、ゴッツ親子が丁度作業が終わり寛いでいた。
「おつかれさ〜ん!」
「おっ!イナリじゃねーか!丁度良かった、全部仕上がったぞ!ったく」
「マジか!」
「イナリさん作り終えましたよ!」
「オレも久しぶりに頑張ったぜ!」
「おー!ありがとう!コレ口に合うか判らんけど差し入れな飲んでくれ!」
「「「おおおおおおお!!!」」」
「イナリ!酒じゃねーか!頑張った甲斐があったぜ!ったく」
「イナリさん!ありがとう!ひゃー酒だ酒だ!」
「イナリさん!コレ全部いいのか?」
「あーイイぜ!ドワーフは2、3本じゃ足らないだろうからな!コレ全部だ!」
バックに30本は詰め込んだモノを一気に出したったぜ!全部飲みやがれ!
「うひゃー酒だ!ありがとうイナリさん!酒だー!ガンガン飲むぞ!」
「ゴッツ、ガッツ、モッヅ!本当にありがとうな!装備も出来た事だし 俺 明日には、この国去ろうと思っているんだ、だから本当に感謝する」
「バカヤロー感謝してるのはワシらの方だ!ったく」
「そうだぜ、今まで知らなかった武器防具を教えてくれたんだから!」
「そうそう、未知の武器防具を作るのは楽しいからね、ありがとうイナリさん」
「また何か新しい武器があったら教えてくれよ!いつでも待ってるからな!ったく」
「あー!」
その後軽く雑談した後 鍛冶工房を後にし与えられた部屋に戻る途中都合の良い事にバカ王子達が居るじゃないの!帰ってたんだ!明日発つ事を告げよう。
「おーい!今帰って来たのか?砦は大丈夫だったか?」
「おっ!イナリじゃねーか!そうだぜ合流して今帰って来たとこだ!全員の砦は問題無いさ!」
「聞いたぜ英雄イナリ!」
「俺も聞いたぞ!クソーもう1日ずらして砦に行けば良かったぜ!悔し〜」
「だよな〜俺も英雄伝説間近で見たかったよ〜」
「アルフ!お前が言ったのか?」
英雄伝説とか止めて!マジハズいから。
「アハハ俺じゃねーよ!各砦まで噂が流れたんだよ」
「噂って流れるの速いな、怖い怖い」
「イナリは、どこか出掛けてたのか?」
「あー少し街を散歩して、ついさっき帰って来たんだ」
「また伝説を作りに行ったのか!?」
「作らねーって!それより大事な話があるんだけど今からいいか?」
「「「「大事な話?」」」」
「俺明日にでも、この国発つな」
「何!?」
「イナリ武器と防具は?」
「さっきゴッツ親子から全て受け取った」
「ちょっと待て!イナリ、今から一緒に親父の所へ行こう」
「そうだな王様にも伝えないとな」
アルフ達に連れられ王様の部屋まで行く事に普通俺みたいな者は、王様の部屋なんかに気軽に入れないのだけど王子達と一緒という事で普通に入れました!どれだけ俺の事信用してるんだ!そして王様に明日ランバー国を発つ事を告げた。
「ふむ、そうか明日発たれるのだな」
「あー急で済まない」
「大丈夫じゃ、装備が出来次第ランバー国を去る事は聞いておったからの」
「王様!色々世話になったな、俺みたいな奴に良くしてくれて本当にありがとう」
「何を言う感謝しておるのは、余達の方じゃよ」
「そうだぜイナリ!俺も久々に民達のあんな笑顔を見れたんだ、感謝しているのは俺達の方さ」
「「「ウンウン」」」
「そうじゃ!今夜が最後じゃ イナリ殿一緒に食事などどうじゃ?」
「エッ!いや俺 食事のマナーとか知らないから!」
「気にする事無いさ!俺もマナーが悪いって毎回怒られてるからさ」
「そうだな兄貴は口もマナーも悪いからな」
「カルロス!お前だけには言われたくない!」
「ヒデーな兄貴は!」
「アハハ!俺ら全員口もマナーも悪いからな」
「そうそう」
半ば強引に夕食の席に誘われてしまった!一緒に食事をしたく無い理由はマナー以外にも有るのだけど食卓に付いて食事を始める時にその心配は、無かった。
そうその心配とは王妃様に会いたく無かったんだよね、スカムの事で恨まれてるかも知れないと思っていたから…唯食事をしながら会話中 誰が言った判らなかったけど、王妃様はスカムを出産した直後に亡くなったと…。
俺も場の空気を読んでそれ以上突っ込んで聞かなかったけど、スカムは母親の愛情が無いまま育ったから捻くれたのか?イヤイヤそれは違うな、そいつの性質だよな環境のせいにしちゃダメだよな。
そうそう会話をしていて、偽イナリの話題になり奴等サーギ一団は、近隣の町や村などで英雄イナリに成りすまし治療後不当な金額を取っていたとか…ヒデー奴だな、何処ぞの元宮廷魔導師だったようだが悪党まで堕ちるとは…処分は恐らく犯罪奴隷になるとか。
これ以上被害が広がる前に俺に出会した事で被害も治まったとかで王様から お礼言われちゃったよ、トラブルに巻き込まれただけなんだけどね。
食事も終わり自室に戻り就寝タイム!明日こそはヴァルトリアに帰るぞ〜おやすみ〜。
◇ ◇ ◇
翌日
朝食後この城に来た時、王様と会いバカ王子達と勝負した謁見の間に来ている。
謁見の間には国の重鎮達も集まり別れの挨拶だ、見知った顔 クレイグさんとランズさんも居る。
「イナリ殿、ヴァルトリアから この地まで遠いが偶には遊びに来てくれ!余達はイナリ殿を歓迎して迎えるでの」
「そうだな、偶に寄らせてもらうよ」
「イナリ!次に会う時また勝負しようぜ!それまでもっと強くなってるからな!」
「俺もだ!次は一対一で勝負してくれ」
「イナリ、元気でな!お前に教わったトンファー完璧にマスターするからな、その時勝負しようぜ」
「俺も勝負したいけど、一緒に街をブラついて英雄伝説作ろうぜ!」
作りません!そんな伝説要りません!
「イナリ殿!気をつけて帰られよ我ら宮廷医術師、もっと精進しイナリ殿に追いつきますよ」
「クレイグさん、余り無理をしないようにな」
「イナリ殿、私は貴方に出会えて良かった!貴方のこれからの活躍期待していますよ」
「ランズさん期待しなくていいって」
「イナリ殿、忘れ物は無いかの?」
「あー!王様から貰った大量な お菓子も持ったし忘れ物は無いさ、それよりあんなに沢山の お菓子貰って良かったのか?」
「フッホッホお主のバックがマジックバックと聞いての大量に用意させたのじゃ!遠慮なく持って行かれよ」
「じゃあ遠慮なく。あっ!そうそう忘れ物で思い出したけど、隻眼の賢者って知っているか?」
「うむ噂は聞いておる、イナリ殿と並ぶ凄腕らしいの、ランズから吟遊詩人の詩を聞かされたからの」
「はい!英雄イナリのライバルと吟遊詩人達の詩でも話題になってますからね」
「もし仮に隻眼の賢者がこの国に現れたら警戒して欲しい」
ザワ ザワ ザワ
「イナリ!どう言う事だ?奴とは因縁でも有るのか?それとも噂通りの奴じゃ無いとか?」
隻眼の賢者とも手合わせしたいからな。
「仮に現れても、そいつは偽物だからな、また偽イナリの様な事になりかねないしさ」
「イナリ殿、詳しく聞かせて下さい!仮に現れても偽物って…一体?」
「ハハ簡単な事さ!ここに居る者だけには伝えておく!俺がその隻眼の賢者だからさ!」
《《《《エエエエッ!!!》》》》
「じゃあ そう言う事だ!またな」
(テレポ)シュン!
《《《《エエエエッ!!!》》》》
「き、消えた…親父!今のは?」
「恐らく転移魔法じゃ…しかし今の世 個人で使える者がおるとはの」
「奴は一体何者何だ?」
「アルフ王子、彼は何者でもありませんよ彼は隻眼の賢者であり私達にとっては英雄イナリ殿です」
「ああ正しくその通りだな」
イナリが立ち去った後も英雄イナリの話題が尽きなかったとか…
◇ ◇ ◇
始まりの森(仮称)
スタッ!
「はい、始まりの森到着!」
あ〜良かった!瞬間移動出来たよ〜内心ドキドキしてたからね。
一気に王都近くまで飛ぼうと思ったけど少しビビってしまったからな、取り敢えず森を出て再度確認してからまた飛ぶかな違う森に到着してたらシャレにならんしね。
暫く歩き森を抜け辺りを見渡せば「ウン合ってる」正しくそこは、初めてこの世界に来て盗賊と闘いアルンさん達と出会った場所。
「あ〜良かった!ここまで来ればもう安心!一気に王都付近まで飛ぼう!ん?」
急に辺りが薄暗くなり空を見上げれば…
「え……?アレってワイバーン……か?」
しかも一体二体じゃ無い……かなりの数のワイバーンが……向かう先は王都……
「マジかよ……ワイバーンの群れがヴァルトリアを襲いに?」