見えない扉と知らないダレカ
夏のホラー2017の為に書いてみた作品です。
最近、話題の遊園地がある。
休日はもちろんのこと、平日でも開園から閉園まで多くの人でごった返しているという。
「なあ、なあ!実はさ、駅前の福引で例の遊園地のチケットが当たったんだ!
明日にでも早速行かないか?!」
明日からは夏休みで、今は体育館で終業式の真っ最中なのだが・・・
俺の幼馴染で、同じクラスの吉田裕也は一応小声で、しかし興奮は全然隠しきれていない様子で、俺に話しかけてきた。
「・・・いいけど、せめて終業式が終わるまで我慢しとけよな」
俺も話題の遊園地には興味があったし、是非行ってみたいと思っていたが、今は終業式の真っ最中。
一応学級長の肩書と生来の生真面目さで素直に喜ぶこともできず、ついお小言モードになってしまう。
「やった!ってかお前真面目過ぎだって!校長先生の長い話なんか誰もきーてねーし」
たしかに、校長先生の話は長い。
周りも無駄話している生徒が多く、俺たちが話してても目立たないくらいにはざわざわしている。
・・・先生も注意しないしな。
「まあ、とりあえず詳しい話は後で聞くから。今はちゃんと前向いとけ」
ぶーぶー言いながらも、笑顔で「明日が楽しみだな!」と言ってくる裕也。
この笑顔に、ついつい俺は甘くなってしまうのだ。
とりあえず、前を向いて一応おとなしくなった裕也を見ながらそんな事を思った。
終業式もそのあとのHRも無事に終わり、裕也の家に寄って明日の予定をいろいろ話し合った。
チケットはあるものの、開園時間より前に並んでおかないと入場制限がかかってなかなか中に入れないとか。
時間帯によって空いてるアトラクションがあるから、どう攻めていくかなど。
夜は興奮してなかなか眠れない、というお約束な感じにはなったものの、翌日は約束の時間に遅れることなく、待ち合わせ場所へと到着した。
「うわ~、すごい人だな・・」
想像はしていたが、想像以上の混雑具合に思わずつぶやいてしまう。
裕也も俺の隣で「すっげー!すっげー!」とあたりをキョロキョロと見回している。
凄い混雑具合ではあったけど、入場制限を掛けられる前に園内に入ることができた。
そのあとは、MAPとにらめっこしながら事前に計画を立てたとおりにアトラクションを制覇していく。
空も茜色に染まり、そろそろ帰ろうかというところでまだ入っていない施設があることに気づいた。
「あ、裕也。まだミラーハウスって入ってなかったな。折角だからちょっと覗いてみようか」
施設の場所も、現在位置から近いこともあり、待ち時間がそれほどなさそうなら行ってみようという事になった。
「お、いい感じに空いてるじゃん♪これなら5分も待たずに入れそうだな!」
「あ、待てよ裕也!」
ミラーハウスの入口の方へと走っていく裕也を慌てて俺は追いかける。
ミラーハウスの入口に行くと、スタッフの人から簡単な説明を受けた。
「全面が鏡となっており、走ったり暴れたりすると危険ですので、ゆっくりと足元に気を付けて進んでくださいね」
前の組の人たちがミラーハウスに入ってから数分後、俺たちの番が来た。
「では、鏡世界へいってらっしゃい」
と笑顔でスタッフに見送られて、俺たちはミラーハウスに足を踏み入れたのだった。
「おぉ~・・・、なかなか凄いな。
ミラーハウスなんて大したことないと思ってたけど、これは・・・」
「だよな!凄いよな!これ!どこを見ても俺たちがいるぜ?!」
まさに目をキラキラさせながら、はしゃぐ裕也に俺も楽しくなってくる。
「裕也、はしゃぐのもわかるけど、暴れるなって言われただろ?
落ち着けよ」
笑いながら裕也に注意してやると、裕也は「ごめんごめん」と言いながら俺のそばに戻ってきた。
ミラーハウスの中は『大きな万華鏡』のようだった。
どこからライトを当ててるのか、いろんな光が目まぐるしくくるくると回っている。
じっと見ているとちょっと酔いそうだな、と思いつつも裕也と二人でゆっくりと鏡の通路を進んでいく。
途中、上部の鏡を見すぎて、鏡の壁にぶち当たったりしたが鏡が作り出す不思議な空間の雰囲気で、痛みは気にならなかった。
しばらく通路を進んで、ふと思った。
「なあ裕也、なんかちっとも出口がないな?ここってそんなに広かったか?」
「え?そうかな?ん~、まあもうすぐ出口じゃないかな?」
裕也はたいして気にしていないようだが、このミラーハウスに入って10分ほどは経っている気がする。
今までミラーハウスなんて入ったことないし、こんなものなのかもしれないと思い、通路を進むことにした。
やっぱりおかしい。
あれから更に10分ほど経ったが、出口らしいものがない。
ミラーハウスに入ってしばらくは、足元に小さく『順路』というものが書いてあったのに、今はもうどこを見てもないのだ。
今までは幻想的で綺麗に見えていたこの鏡の空間も急に異質で恐ろしいものに思えてきた。
「なあ!裕也、やっぱりおかしいって!来た道戻ってみないか?」
前を進んでいた裕也の腕をつかんで、グイっと引っ張る。
裕也の体がこちらに向いた。そして。
「あはははははははあははははっはh、なにいってるんだよ!大丈夫に決まってるだろ!
早く行こうぜぜぜz!」
「???!!!!!!」
見慣れていたはずの裕也の笑顔は知らないダレカの笑顔になっていた。
その瞬間、俺は入っては行けないところに入ってしまっていたのだと気づいた。
目の前の裕也は笑顔で俺の腕をつかみ返し、すごい力で奥へ奥へと進んでいく。
裕也なのに裕也ではない『ダレカ』に俺は連れていかれる。
どこへ連れていかれるのか、誰なのか、裕也はどうしてしまったのか。
混乱する頭といつの間にか自分の意思で動かなくなった体。
それをどこか人ごとのように見ている自分。
夢なのか現実なのか。それすらもわからなくなってきている。
どうしてこんなことになったのか。
このまま目を閉じてしまったら、次に目覚めた時には自分の部屋のベットの上なんじゃないか。
俺の腕を引っ張っている裕也は、笑いながらどんどん進む。
裕也のはずなのに、裕也ではないダレカ。
自分の体なのに、動かないからだ。
自分の意識なのに、どんどん深く沈んでいくような感覚。
徐々に何かを考えることもできなくなってきた。
ぼんやりと霞がかる意識の中、裕也の裕也のものではない笑い声がかすかに響いてきた。
『あははあははあはっはあhっは、大丈夫大丈夫、ココニハミンナイルカラ!あはははっはああっはhh・・・』
『ね、知ってる?あの遊園地のうわさ』
『ああ、あのミラーハウスでしょ?』
『そうそう、あそこやっぱりヤバイらしいよ。
この間もあそこに入ったまま出てこない人がいたんだって!』
『やだ?!まじで?!』
『マジ!だって私のお兄ちゃんの友達が帰ってこなかったんだもん!
なんか、一緒にミラーハウスに行ったらしいんだけど、
途中ではぐれちゃったらしいんだよね。』
『あんたのお兄ちゃんは帰ってきたんだ』
『うん。お兄ちゃんは友達が先に出たんだと思って、そのまま出口に向かったんだけど、出口にはいなくてそのあともずっと待ってても出てこなかったって・・・。』
『で、明日もう一度ミラーハウスに行ってみるんだって。
私はお兄ちゃんが心配だからついていくことにしたの。』
『え?!大丈夫なの?やめた方がいいよ!!』
『大丈夫だよ~、何かいるんなら私が捕まえてくるから!
それに、最近お兄ちゃんの様子がおかしいから一人にすると心配なんだよね。
まあ、土産話楽しみにしててよね!』
その後友人とは連絡が取れなくなってしまった。
家に行ったけど、誰もいなかったのだ。
誰も、家族のだれも。
少しでも「ゾッ」としてもらえたでしょうか。
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