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 広い図書館の中は、冷蔵庫のように冷え切っていた。秀馬と並んでドアを開けると、これからどうしようかと考えた。あたしも本を借りに行くとつい口から出てしまったが、あのまま別れるのは絶対に嫌だった。秀馬は読書が好きなようで、学校にいる時も本を読んでいる。どんな本なのか知らないが、たぶんすずなには難解すぎる内容だと思われた。

 そして、すずなは本など全く読まない人間だった。読むとしても携帯でだ。紙の本はほとんど見ない。いったいどんな本を借りようか迷っていた。

 しかしすぐにいいことを思いついた。

「何の本借りに来たの?」

 上目遣いで聞いてみると、秀馬は英語のタイトルを口にした。

「えっ?今なんて言ったの?」

 すずなが驚いて目を見開くと、秀馬は首を横に振った。

「一人で探せるから。お前は自分が借りたい本見に行けよ」

「いやいや!そういうわけにはいかないよ!」

 突然口を塞がれた。じろりと顔を見つめてくる。

「図書館で大声出すな」

 ごめんというように頷くと、すぐに手は放れた。

「いつもいつも秀馬くんにいろいろやってもらってるのに、何も返さないなんてできないよ。だから、あたしも探すの手伝うよ」

 だって人は誰かに頼ったり頼られたりしながら生きていくんだから……。また芹奈の言葉が心に浮かんだ。

「もう一回タイトル教えて」

 そう言うと、秀馬は今度は少しゆっくりタイトルを言った。

 本棚のそばにいると、余計秀馬の身長が高いのを感じる。

「秀馬くんっていいよね。あたしも背が高く生まれたかったなあ」

 独り言のように言うと、秀馬が反応した。

「そうか?女は背が高い方より低い方が可愛いってよく聞くけど」

 ぱっと目の前が輝いた。秀馬の口から可愛いという言葉が発せられるとは夢にも思っていなかった。

「秀馬くんは、背が低い女の子って可愛いって思うの?」

 どきどきしながら聞くと、秀馬は首を傾げた。

「さあ?世の中の男がそう思ってるだけで、俺はそういうの考えたことねえから」

 可愛いというのは秀馬の思いではなかったと知り、こっそりため息をついた。

 目的の本を見つけ、すずなは秀馬の方を見た。秀馬はこちらに気が付いていない。見つけたと口で言うより、実際に手渡した方が好印象だ。それに秀馬のために何かしたいという気持ちもある。

 しかし手を伸ばしても届かない。仕方なく脚立を使うことにした。もう少しというところで脚立がぐらりと揺れ、声をあげる前にそのまま倒れてしまった。

 目の前が暗くなり何が起きたのか考えたくなかったが、誰かに支えられている気がした。ゆっくりと顔を上げると、秀馬に抱きかかえられていた。

「あ、あの……」

 あわてて起き上がりびくびくしながら震える声を出した。秀馬はすずなの手を掴むとドアに向かって歩き始めた。

 図書館から出ると、体を壁に押し付けられた。よくいう壁ドンみたいな格好だ。しかし今はそんなときめきなどなく、不安な気持ちでいっぱいだった。

「ご……ごめん……」

 何とかそう呟くと、秀馬は無言で後ろを振り返った。もうついて来るなと言われているようだった。

「ごめん……。本当にごめん……」

 もう一度言ったが、そのまま歩いて行ってしまった。

 どうしよう……という想いですずなはその場に立ち尽くしていた。余計なことをされて、秀馬が不機嫌になったのは確実だった。嫌われるなんて考えたくない。

 どうしていつも空回りなのだろう。なぜ仲良くできない。ただ近寄りたいだけなのに……。答えが出ないまま、暑い夏はすぐに終わってしまった。 


 


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