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 押し倒されすずながベッドに横たわると、部屋の電気が消え何も見えなくなった。怖くなったがすぐに秀馬の指が肩に触れて安心した。どくんどくんと鼓動が速くなり、これから何をされるかと緊張の糸で体中ががんじがらめになる。初めて出会った時まで記憶が遡り、映画のように物語が進んでいく。下の名前で呼べと言われ嬉しかった時、図書館で大失敗をしてしまった時、秀馬の本性が露わになり泣きながら怒鳴った時。数え切れないほど多くの時間を秀馬と過ごしてきた。たくさん睨んでケンカをしたが、そういうことがあったからここまで来れたのだ。決して忘れてはいけないたった一つの宝物だ。

 抱き合いながら掠れた声で聞いてみた。

「どんなこと考えてる?」

 しかし何も言わない。もう一度話しかけた。

「あたしは、秀馬と一緒にいた時のことを思い出してるよ」

 だが同じく反応なしだ。少し心配になった。気を失っているのか。

「ねえ、大丈夫?」

 苦しそうに息を吐く音の後に、ようやく答えが返ってきた。

「まだいい」

「えっ」

 目を見開くと、秀馬は繰り返した。

「まだいいだろ。今しなくても」

 こんなに弱弱しく頼りない声は初めてだ。すずなは支えるようにぎゅっと腕の力を強くした。

「そう……だね。じゃあやめよう」

 この男は自分の思い通りにいかないとすぐに機嫌を悪くする。また面倒なことになるのはごめんだ。のろのろと鈍い動きで起き上がると全力疾走した後のように汗が流れていた。夢なのか現実なのかぼんやりしていてすっきりできない。ぱっと周りが明るくなりどきりとした。椅子に座り改めてお互いの顔を見ると、秀馬はなぜか気分が悪そうに口を開いた。

「まだ高校二年なのにこんなことをするのは早すぎだな。子供なんかできたら大変だ」

 もしかしたら妊娠するかもしれないということをすっかり忘れていた。突然恐怖が心の中に溢れた。

「じゃあどうして押し倒したの?早すぎるってわかってたのに」

 秀馬は少し考えてからぶっきらぼうに答えた。だが質問の答えではなかった。

「今までケンカばっかりしてた奴といきなり付き合えられないし。恋愛ってもっと相手のいいところを知ってから始まるもんじゃねえか」

 大嫌いな人と突然仲良くするのは無理だ。取り返しのつかないことなんか絶対にできない。

「それにお前は磁石だし」

「磁石っていうのやめてよ。もっと違う言い方ないの?」

 怒鳴るように言うと、真剣な眼差しで聞き返した。

「例えば?」

 戸惑ったがすぐにある言葉が頭の中に浮かんだ。

「……繋がりたい人とか。ずっと一緒にいたくて、離れたくないっていう人」

 どんなに酷いことをされても秀馬のそばにいたい。秀馬と繋がっていなかったらすずなは生きていけない。

「繋がりたい人か……」

 呟きながら、ふっと小さく笑った。また少し考えてから、何かを思いついたように口を開いた。

「お前に当てはまるのは繋がりたいっていう言葉だな。俺もすずなと一緒にいた方が退屈しねえし、繋がってたいのかもな」

 その時ぽろりと涙が落ちた。願いが叶ったのだと感じた。

「何泣いてんだよ」

 秀馬がそっと指で涙を拭った。うんうんと何度も首を縦に振りながらすずなは言った。

「そうだよ。人は誰かと繋がってるから幸せになれるんだよ……」

 こんなに嬉しい気持ちになったことは初めてだ。奇跡が起きたのだ。

「やっと秀馬と繋がれた……」

 無意識に呟くとぎゅっと抱きしめられた。秀馬も同じ想いなのだと伝わった。


 

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