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 秀馬についていき、すずなはまた園芸の店に行った。特に用もないのに一緒にいたら怪しまれると思っていたが、何も聞いてこなかった。ちらりと横顔を見ながら、いつものようにある問題について考えていた。すずなは秀馬を大事な人だと気が付いたが、秀馬はどう感じているのだろうか。想いを伝えるよりも秀馬の心の中をはっきりとさせておくのが重要だ。透也に、マンションに入れるのは惚れた女の子だけと言われて何となく期待していたが、現実はそううまくいかない。

「おい、ぼけっとすんな」

 話しかけられてはっと我に返った。

「ああ、ごめん」

「あんまり変な顔してると余計バカだって思われるから、気を付けた方がいいぞ」

 にっと意地悪く笑ったが何も言い返さなかった。以前そのバカなのがいいところだと言っていたが、あれはどういう意味なのだろう。何度も何度も思い出してはどきどきしている。

「じゃあ帰るぞ」

 またぼうっとしていたすずなを置いて、すたすたと出口に向かって歩き出した。

「ちょっと待ってよ。もっとゆっくり歩いてよ」

 あわてて手を伸ばし指に触れた。一気に全身が熱くなり、ぱっと引っ込めた。ぴたりと足を止めて秀馬は目を丸くした。

「どうしたんだよ。顔真っ赤だぞ」

「何でもない。別に何でもないから。早く帰ろう」

 そう言うと秀馬はまた足を踏み出した。

 前は平気で手を繋いでいられたのに、なぜか触れることもできなくなっていた。少し指が当たっただけなのに炎が上がるほどに体が燃える。意識しているのに改めて気が付いた。透也に見つめられた時も血管が沸騰しそうになった。この明らかにおかしい変化を隠し通せるか不安になった。

 マンションのドアの前で秀馬が鍵を取り出し、緊張の糸がすずなをがんじがらめにした。狭い空間に二人きりで正常にいられるか。

「あ、あのさ、秀馬」

 あわててすずなは言った。ドアを開けようとしていたが秀馬は振り返った。

「本当は、あたしのこと迷惑だって思ってるんじゃないの」

 声が掠れていた。どんな答えが返ってくるか、さらに糸はきつくなる。

「迷惑ならはっきり言ってくれていいんだよ。もうこのマンションに行くのはやめるから」

「どうして今さらそんなこと考えてるんだよ」

 イラついている口調で、どくどくと鼓動が速くなる。言わなければよかったと後悔した。

「だって、彼女でもないのにおかしくない?友だちですらないんでしょ」

 逃げ出したくなった。秀馬はじっと睨む目を向けてきた。

「俺が話したこと忘れたのか。今はそうは思ってないって。確かに仲良くなる気も友人になりたい気もないけど」

 電話ではなく面と向かって言われた方がずっと感動する。周りが輝いているような気がしていた。

「嘘じゃなくて?本当に?」

 うんざりした顔で秀馬はもう一度言った。

「しつこい奴だな。どうして一度で納得できないんだよ」

「ごめん。ちょっと心配になっちゃって……」

「心配になった?」

 うん、と頷いてから話し始めた。

「やっぱりこうして一緒に過ごしてたら、もし他人にバレた時に恋人同士だって勘違いされちゃうでしょ。彼女はマンションに入れないのにあたしは中に入れるって、絶対に噂されるよ。あたしと秀馬がどういう関係なのかしっかり決めておいた方がいいって思ったの」

 ふん、と秀馬は顔を横に向けた。

「恋人同士だって思うなら、勝手に思わせておけばいいだろ。俺は噂されてもいちいち気にしねえし」

 こんな言葉が返ってくるとは思っていなかった。

「みんなに、秀馬の彼女はすずなだって見られてもいいの?」

 だが秀馬は答えなかった。答えられなかったのかもしれないと感じた。黙ったままドアを開け素早く中に入った。

 


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