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 すずなの植えた花が咲いたと言われ、放課後に秀馬のマンションに寄った。

「おおっ、すごい綺麗。あたしって天才」

 そう言うと秀馬がむっとした表情をした。

「水やったのも肥料入れたのも俺だろ。お前は種蒔いただけだ」

 無視をしてすずなは花びらを撫でるように触った。

「花を育てたのって初めてだったから、何だか嬉しいな。またお花植えようかな」

「その時は自分の家で育てろよ。俺に全部丸投げするなよ」

 手伝ってくれると思っていたが、残念ながら秀馬には伝わらなかったようだ。

「意地悪だな。……でもさあ、お花ってすぐに枯れちゃうんだよね。もったいないよねえ」

 独り言のつもりだったが秀馬は答えた。

「いつまでも綺麗に咲いてるのもあるけどな」

 ふとすずなの頭の中にある疑問が浮かんだ。

「ねえ、あたしはいつまでここに来ていいの?」

 聞いてはいけないことだった。しまったと口を塞いだが遅かった。

「いつまでマンションに来てもいいかって?」

「うん。だっていつかは離れなきゃいけないでしょ、あたしたち」

 胸がずきずきと痛んだ。動揺を隠しながら秀馬の顔を真っ直ぐに見た。

「どうして離れるんだよ」

「秀馬に運命の女の子が現れたらお別れでしょ。愛し合ってる二人の邪魔したくないし、あたしだって運命の男の子に秀馬と会ってるって知られたらまずいしね」

 気持ちを紛らわせるために次々と言葉が出てくる。だんだん声が弱弱しくなっていくが黙っていると気が狂いそうになる。必死なすずなを見て秀馬はあっさりと答えた。

「そんなの関係ねえだろ。お互いに友人ですらないって決めてるんだし」

「いや、やっぱりけじめを付けておいた方がいいよ。変な噂でもたてられたら面倒だし。いつまでここに来ていいのかはっきりと答えてよ」

「お前はどうしたいんだ」

 じっと顔を見つめられどきりとした。無意識に下を向いていた。自問自答してみたが黒いもやに隠れてわからない。

「俺は別にいちいち決める必要はないと思ってる。お前が好きな時に来ればいい」

「……でも、もし彼女と二人きりの時にあたしがいたら迷惑でしょ。相手の女の子にも失礼じゃない」

 とりあえず思いついた言葉を言うと、秀馬は少し笑顔になった。

「心配しなくても、俺はこのマンションに彼女を連れてくる気はねえよ。泊まらせたり飯作ってもらったりもしない」

 予想していなかった。驚いてすずなはすぐに聞いた。

「どうして?付き合ってるのに」

「付き合ってるからってお互いの家にあがるのはおかしくねえか。家っていうのは学校とは違って自分だけのくつろげる場所だよな。例え恋人であっても普段の暮らしは教えたくないって人間は必ずいるだろ」

 すずなの胸に暖かい光が射し込んできた。秀馬に特別扱いされていると確信した。本性を知っているのも下の名前で呼べと言われたのもすずなだけだ。今まで気づかなかったがこんなにも秀馬はすずなに本当の自分を見せていたのだ。そしてそれは透也も同じだ。

「どうしてあたしにはマンションに泊まらせてくれたの?大っ嫌いなのに変じゃない」

 どんな答えが返ってくるかどきどきしていると、少し考えてから秀馬は口を開いた。

「いつも一緒にいてわざわざ気遣ったりしなくてもいいからだ。睨んでも怒鳴っても全然落ち込まないし、何しても平気だしな」

「ちょっと、それは勘違いだよ。あんたがいないところで泣いてるんだよ。何度も落ち込んで傷つきまくってるんだから……」

 バカにするようににやりと笑いすずなを見下ろした。

「泣きたくないなら俺のそばにいなきゃいいのに。何かお前って磁石みたいだよな。俺がどれだけ離れようとしても、くっ付いてくるもんな」

 女の子に磁石は酷すぎる。むっとしてすぐに言い返した。

「もっといい例え方ないの?いくらなんでも磁石はないよ」

 だが心の中に開いていた穴が消えていた。代わりに希望の光が輝いている。

「うっせえな。もうそろそろ帰った方がいいんじゃねえか」

 時計を見上げると五時を少し過ぎていた。慌ててバッグを掴むと玄関に向かった。

 いつもはそのまま外に出るのだが、秀馬がそっと手を掴んできた。

「なに?どうしたの?」

 上目遣いで聞くと秀馬は黙ったまま俯いた。答えたくても答えられないという感じだ。

「……お邪魔しました」

 気になったがすぐに振り返りドアを開けた。

 


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