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「どうして花が好きなの?育てるのが楽しいの?」
言ってからまた詮索魔だと思われたのではと冷や汗が流れてきた。もうこれ以上泣かされるのはごめんだ。だが秀馬はすぐに答えた。
「花はしゃべんないからな。俺は人と話をするのが嫌いだ。かといって動物を飼う気もない。マンションだから禁止されてるし。でも花は黙ってるし育てるのも簡単だろ」
「ふうん……。まあ綺麗だしね。いい香りもするし」
言われてみれば確かに花はずっと静かだし、しつけもエサもいらない。いつでもどこでも誰にでも育てられる。
「でもすごく面倒な時もあったり、何で俺花なんか育ててるんだろうなって不思議な気持ちにもなるから、要するにただの暇つぶしだな。特にやることがないから育ててるだけ」
じっと真っすぐ花を見つめる秀馬の横顔は、透也とそっくりだった。
「……前に、本当に自分のものにしたいなら口じゃなくて体で伝えろって言ってたよね。取り返しのつかないことしても幸せだと感じられる人が運命の相手だって。もしその運命の相手が見つからなかったら……」
「こうやって花育てて生きていくんだろうな」
すずなの言葉を続けるように秀馬は呟いた。ほんの少しだが諦めたような口調だった。
「好きな女の子、自分から見つけようって思わないの?本当に一人で寂しく死ぬよ。そんなの空しすぎるよ」
ゆっくりと秀馬はすずなの方に顔を向けた。
「だから俺は好きだって言葉が嫌いなんだよ。好きなんて、言葉が話せるなら鳥だって言えるだろ。子供でも恋をしていない人でも言える。誰にでもできることをされても全然嬉しくないね」
さすがきんきんに凍りついた冷血男の考えることは半端ない。
「お前はそんなことされて嬉しいか?嬉しくないなら、ただ告白されただけで浮かれてるような単純な奴にはなるなよ」
「だけど、本気で言ってるかもしれないじゃん……」
反抗したつもりだったが、この男には敵わなかった。
「お前は相手が本気なのかわかるのか。便利な能力持ってるんだな」
もう勝ち目がなかった。すずなは黙ることにした。
「もしかしたらまた違う人が好きになるかもしれないから、口で伝えるんだよ。逃げ道を作っておけば安全だからな。恋愛したいって言ってるのは、自分にはちゃんと恋人がいるんだって周りに自慢したいだけ。やっぱり自分のことしか考えてない。で、いらなくなったらすぐにポイ捨て。そんなんで泣くなんて死んでも嫌だね」
恐らくこの世で一番恋愛に無縁な秀馬が、ここまで深く考えているとは思わなかった。そしてその内容があまりにも常人と違っていてなぜか心の中が急激に冷えていった。
「そう……かもしれないけど、ちょっと言いすぎじゃない?別に普通に付き合ったっていいと思うけど……」
「じゃあお前はそういう付き合い方すればいいだろ。恋愛の仕方にこうしろなんて決まりはねえんだから。俺はただ自分の意見を言っただけだ」
ふと前に透也に同じようなことを言われたのを思い出した。一人で生きていけるか生きていけないかなんて本人が決める。こうしろなんて決まりはないと透也は答えた。
やはり秀馬と透也は似ている。姿だけではなく考え方も同じだ。こんなにも共通点があるのに、無関係とはどうしても思えなかった。




