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 透也と会うのをやめろ令が出てしまい、もうあのお屋敷には行けなくなってしまった。有架には話していないが、なるべく透也の話題はふらないように気を付けた。

「それにしても、いい携帯買ったね。それってかなり高いよね」

「え……そうなの?」

 ちらりととなりを見たが、秀馬は座っていなかった。

 携帯を見つめながら、すずなは想像した。もしかすると自分が強引に壊してしまったことを悪いと思っていたのかもしれない。実をいうと罪悪感が少しはあったのかも……。そう考えると秀馬のイメージが大分変わってくる。

 さらに驚くべきことがあった。秀馬も同じ携帯を買ったというのだ。

「それっておそろいじゃん」

「違うだろ。色もカバーも別だし。だいいち俺とお前の携帯が一緒なんて気づく奴なんかいねえよ」

 確かにその通りなのだが、やはり少し恥ずかしかった。

 いつも通りの生活に戻り、すずなが帰り道を歩いていると声をかけられた。

「堀井さん」

 透也が微笑みながらやって来た。

「一人?俺も一緒に行ってもいいかな」

 すずなは喜びでいっぱいになったが、同時に秀馬の言葉も浮かんだ。

「あ……あたしと一緒にいてもつまらないと思いますけど……」

 はっきりと断るわけにはいかない。印象が最悪になってしまう。

「つまんなくないよ。むしろずっと探してたんだよ。堀井さんのこと」

 赤面して俯いた。もうそろそろ限界になると予想した。透也はすずなの思いなど全く気付かずに続けた。

「堀井さんの下の名前、すずなっていうんだね」

 ばっと顔を上げた。どこで知ったのだろうか。誰かに聞いたのか。

「これから俺、堀井さんのことすずなさんって呼んでもいい?」

 すぐにすずなは頷いた。嫌だなんて言う女子がいるわけがない。こんな王子様に名前を覚えてもらえるなんて、奇跡としかいいようがなかった。

「じゃあ改めてよろしく。すずなさん」

 手を差し出してきたので、ぎゅっと強く握りしめた。嬉しくて天国に昇りそうだが、秀馬の顔は消えない。透也はすずなと仲良くしたいと思っているのに、秀馬にはそれをやめろと言われてしまう。隠れて会うこともできそうだが、バレた時何を言ってくるかわからない。

 そのまますずなは透也と別れてしまった。残念だったが仕方がないと割り切った。また一人で歩き出すと、マンションに着く前に後ろから口を塞がれ捕まえられてしまった。もちろん犯人は秀馬だ。

「さっき、あいつと何話してた」

 どうやら見られていたらしい。すずなは動揺しないように拳を握り締めながら答えた。

「これからはすずなさんって呼んでもいいかって」

「これからってことは、また会う気なんだな」

「あたしが会おうと思ってなくても、透也くんから来ちゃうの」

 そう言ってから上目遣いで秀馬を見つめた。

「秀馬くんも、すずなって呼んでよ。あたしの名前はお前じゃない」

 きっとバカにされると思っていたが、そうではなかった。

「まあいいけど。仲良くする気はないからな。誤解すんなよ」

「わかってるよ」

 どうして繋がりたくないのか。人は一人きりでは生きていけない。秀馬だって誰かと一緒にいなくてはいけないはずだ。今までどんな日々を過ごしてきたのだろう。もっと秀馬について知りたかった。嫌がらせでも詮索でもない。

「ちょっと待って」

 歩き出そうとした秀馬の腕を捕まえた。

「また喫茶店に行こう。……今度の日曜日に」

 嫌だと返されると既にわかっていたが、秀馬は頷いた。

「限界まで帰らせないから」

 言い切るとすずなは後ろを振り返り、マンションに向かった。

 高校生になってから、毎日いろいろなことで神経を使っている。大半はあの冷血男のせいだ。また佐伯家の風呂に入り休みたいと願った。


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