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 有架の笑みに、すずながどれだけ癒されてきたか数え切れない。有架はすずなにとってかけがえのない人となっている。

 中学二年生のクラス替えで、すずなは有架と出会った。始めはタイプが違うので、仲良くなれないと思っていた。有架も全く同じ想いだったらしい。しかし、そっと話しかけてみると意外にも共通点があった。有架は大人しいがただ口下手なだけで、すずなが話題を出せば必ず答えてくれた。自分のこと、家族のことなど一つ一つ知り、距離が縮んでいくのが嬉しかった。有架は、すずなと繋がる人だったのだ。

 中学三年生になると、どんな高校生活を送るかという話をたくさんした。

「あたしは、テキトーな学校でテキトーに生きていければ充分だけど」

 すずなが言うと、すぐに有架が聞いてきた。

「それでいいの?もったいないって思わない?」

「もったいない?」

 不思議な気持ちになった。どういう意味だろうか。

「せっかくの一度きりの青春なんだよ?恋人とか欲しいって思わないの?」

 驚いて目を丸くした。有架の口から「恋人」という言葉が発せられるとは思っていなかった。

「いや……あたしは、そういうのいらないな……」

 はっきり言ってすずなは男子に興味がなかった。自分が誰かを好きになるなんてありえない。たぶん芹奈がいつまで経っても彼氏を作らないのが影響しているのだろう。

「それに恋人って面倒くさそうじゃん。彼氏に気を遣って、言われたことに一喜一憂するなんて疲れちゃうよ。有架は恋人が欲しいの?」

 そう言ってから、はっと気が付いた。

「もしかして有架、好きな人がいるの?」

 有架はもじもじしながらゆっくりと答えた。

「好きっていうか、憧れてる人なの」

「へえ……。誰?」

 軽い気持ちで聞くと有架は話し始めた。

「佐伯透也くんって知ってる?頭もいいし運動もできるし、とっても優しい性格なの」

「ふうん……すごいね……」

 すずなは完全に聞き流していた。自分には関係のない話だと思った。そんな王子様のような人が身近にいるだろうか。きっとそこそこいい感じの男子なんだろう。

「写真あるけど見る?」

 有架が携帯を出したので画面を覗いてみた。そして、佐伯透也に恋心を打ち砕かれた。確かに、有架の言う通りとても魅力的でかっこいい男子だった。こんな人が自分の恋人になったら……。無意識に想像していた。

「透也くんは、あたしたちより一つ年上で、菱本高校に通ってるんだって。だからあたしも菱本に行きたいんだ」

 そう言うとすずなの手を握ってきた。有架が言いたい言葉が既にわかっていた。

「……あたしも、菱本に行こうかな」

「うん、頑張ろう」

 嬉しそうに笑う有架を見て、またすずなは癒された。

 有架との出会いは、奇跡のようだとすずなはいつも感じている。有架とただのクラスメイトという関係だったら、透也の存在を知ることはできなかった。

 すずなは、いつもこうして大切な人と出会うことを「繋がる」と思っている。繋がるとは人を愛すること、誰かに頼ったり頼られたりすること。人間は、誰かと繋がっているから生きていけるのだと信じているのだ。

 


 校長の長い挨拶や、これからどんな学校生活を過ごしていくのかなどを聞き、無事入学式は終わった。約束した通り、すずなと有架は近くの喫茶店に入った。

「本当にあたしたち、高校生になったんだね」

 すずながしみじみと言うと、有架はゆっくりと頷いた。

「そうだね。それも、透也くんが通ってる高校に」

「だよね。すごいことだよね」

 二人でおしゃべりをしながら、楽しい時間は過ぎていった。

 ふと、有架が少し寂しそうな顔をした。すずなは目を丸くし不思議な思いになった。

「どうしたの?」

 聞いてみると、有架は優しい口調で言った。

「……お父さんとお母さんにも、志望校に入れたって伝えたかったね……」

「ああ、そのこと」

 まだすずなが二歳の時に、父と母が乗っている車が衝突事故を起こした。車はばらばらに壊れ、二人は病院に運ばれたが帰らぬ人となってしまった。相手の運転手は居眠りをしており、事故が起きる前のことは一切覚えていなかったらしい。両親は死んだのに、その運転手はちょっとした怪我で済んだ。あまりにも不幸だと誰もが哀れんだ。二歳のすずなと七歳の芹奈は叔父と叔母の家に連れて行かれ、二人はそこで大きくなった。叔父と叔母は子供がいなかったため、とても可愛がってくれた。物心がつくまで、すずなはその二人は本当の親だと思い込んでいた。芹奈に事実を聞かされた時はショックでベッドから出られなかった。涙が溢れて止まらなかった。しかしすぐに自分は一人ぼっちではないと立ち直った。たくさん可愛がってくれた叔父さんと叔母さん、いつもそばにいてくれる芹奈がいるではないかと前向きに考えるようになった。両親がいなくたって、充分幸せだと感じたのだ。人は一人では生きて行けない。でもきちんと人生を歩んでいる。つまり、自分は孤独ではないのだ。

 芹奈が高校生になり、すずなは二人暮らしをするようになった。芹奈がいてくれれば何も問題がない。誰かと繋がっていれば幸せになれる。落ち込んだりしても、みんな助けてくれる。

「大丈夫。ちゃんと伝わってるから」

 すずなは携帯を取り出し、笑顔の両親が写っている写真を見せた。

「朝、家から出る時に撮っておいたんだ。だから入学式も見ててくれたし、喜んでくれてるよ」

「そっか。よかった」

 有架は安心したように微笑んだ。

 喫茶店から出ると、もう一度学校に行き記念写真を撮った。二人で並んで撮れなかったのは残念だが、それでもすずなは満足だった。

「早く透也くんと仲良くなれたらいいよね」

 そう言ってすずなと有架は別れた。

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