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 あまりのショックに耐え切れず、その日は有架の家に泊まることにした。一人でマンションにいられる状態ではなかった。

「……有架、あたし、悪いけど転校するわ……」

 あんな冷血男と会うくらいなら、転校しても構わないと考えていた。

 すぐに有架は首を傾げた。

「どうして?頑張って入学したのに。高校も一緒に通えるねって嬉しかったのに」

「そうなんだけど、ちょっといろいろあって……、行きづらくなっちゃった……」

 有架は泣きそうな顔をした。

「いやだよ。あたし、すずちゃんがそばにいてくれなかったら何もできない。すずちゃんがいなくなるなんて絶対いや」

 すずなは有架が友だち作りが苦手なのを知っている。内気な性格のため、クラスメイトに話しかけられないと聞いていた。

「だから、あたし、すずちゃんと仲良くなれて幸せ」

 そう言った時の有架の笑顔は、今でも鮮明に思い出せる。

「それに透也くんは?離れ離れになっちゃってもいいの?」

 はっとすずなは目を見開いた。ずっと秀馬のことばかり考えていたせいで、すっかり忘れていた。あの男に携帯を壊され、もう写真を見られなくなってしまった。

「あたし、携帯床に落として割っちゃったんだ。ドジだからね……。有架からのメールも、透也くんの写真も消えちゃったよ。ごめんね」

 ははは、と小さく笑うと、有架は首を横に振った。

「そんなの関係ないよ。携帯が壊れても、あたしたちはこうして一緒にいられるでしょ?写真が消えたって、透也くんの想いは変わってないでしょ?携帯なんかなくても、あたしたちは繋がってるんだよ。だから謝らないで」

 この言葉を、秀馬に聞かせてやりたいと思った。

「人は一人じゃ生きていけないって言ったのはすずちゃんでしょ?あたしもそう思う。誰かがそばにいてくれるだけで、とっても心がほっとするの。あたしはすずちゃんがいるから、こうやって毎日学校に通えるの」

「有架……」

 両親が死んでしまっても芹奈がアメリカに行ってしまっても、有架が笑ってくれたらすずなは心の中が暖かいままでいられる。

「そうだよね。転校なんかしないよ。変なこと言ってごめんね」

 そう言うと有架はそっと抱きついてきた。

 ベッドの中で、秀馬の言葉を思い出した。どうしてそんな寂しいことをいうのか。そんなに人と関わるのが嫌いなのか。なぜ自分の話をしないんだろう。知られたくない秘密でもあるんだろうか。ちょっと近寄ろうとしただけであの態度。友だちになりたいと素直に伝えただけなのに、酷すぎるじゃないか……。

 翌日、秀馬はどんな顔でとなりに座るのかと気になっていたが、何事もなかったかのようにいつもと同じだった。そのためすずなも取り乱したりせず、落ち着いていられた。特に話すこともなく、学校生活は終了した。しかし帰りの時間になると、秀馬に手を掴まれた。

「こっちに来い」

「なに?早く帰りたいんだけど」

「昨日、俺に言ったこと覚えてるよな」

 じろりと睨まれたが負けなかった。この男に負けるなんて絶対に嫌だ。

「覚えてるよ。クズ男。最低最悪男。一人で寂しく死ねばいい。あんたなんか大っ嫌いって」

「お前……」

 すずなは胸を張って、もう一度言った。

「もしかして、一人で生きていける人は、かっこいいとか思ってるの?言っておくけど、全然そんなことないから。むしろ友だちができなくて可哀相な人って見られるよ。あんた間違えてる。人は一人で生きていけるわけがない。必ずどこかで繋がらないと、本当に一人で寂しく死んじゃうよ。誰かにどうして死んじゃったのって泣かれたくないの?」

 ふん、と秀馬は口を開いた。

「俺が死んだって誰も泣かねえよ。邪魔な奴が消えてせいせいするんじゃねえの」

「邪魔な奴?」

 わけがわからなかった。自分が邪魔だなんて思っているのか。

「どうして邪魔な奴なの?」

 聞くとさっと目をそらし呟くように答えた。

「俺はいらない人間なんだよ。誰にも必要とされていない。いてもいなくてもいい人」

 変な漫画の読みすぎだろうか……。呆れた顔ですずなは言った。

「あたしは、あんたがまだこんなに性格歪みまくってる人だって知らなかった時、仲良くなりたいってずっと考えてたけど」

「へえ……でも、お断りだけど」

「言われなくてもわかってる」

 秀馬が真っ直ぐすずなの顔を見つめてきた。何か言いたそうだったが面倒なのでその場から逃げた。

 廊下を歩いていると、有架が声をかけてきた。

「すずちゃん、今日先に帰ってもいいかな。用ができちゃって」

 すぐにすずなは頷いた。

「いいよ。気をつけてね」

「本当にごめんね」

 頭を下げてから、有架は走っていった。

「きっと脇田だって、場合によっては裏切るぞ。簡単に見捨てる奴かも知れねえな」

 いつの間にか秀馬がすぐ後ろに来ていた。前を向いたまますずなは呟いた。

「裏切る人も、見捨てる人も、あたしの周りにはいない」

「どっかの誰かにだまされて泣きを見ても知らないからな」

「別にあんたに助けてもらおうって思ってないから」

 そう言って足を踏み出そうとした瞬間、秀馬に口を押さえられた。そのままずるずると引きずられていく。

「ちょっと放してよ」

 暴れても秀馬の力が強くて身動きできない。

「今そっちに行くんじゃねえ」

「えっ、どういう意味……」

 むぐぐとまた口を塞がれてしまった。しばらくそうしていると、ぱっと手が放れた。

「痛いなあっ。何かあったの?」

 だが秀馬は答えない。相変わらず謎の人物だ。

「まあ……いいけど。そういえば今までずっとあたしの口塞いだりしてたけど、女の子の体触るのやめてよ」

「女の子?」

 驚いた目をした。腕を組んで見下すように言った。

「なーにが女の子だよ。大声で怒鳴り散らす奴が女の子なんておかしいだろ。俺はお前のこと、女だと思ってねえけど」

「はあ?女の子だって思ってない?」

 あまりの衝撃に心臓がどくどくと速くなった。目の前が暗くなっていく。

「女じゃなかったら何なの?まさか男だって思ってるの?」

「そんなわけねえだろ」

「じゃあ何だと……」

 秀馬は首を横に傾げ、うーんと考えた。

「……わかんねえ。まだお前にあてはまる言葉がこの世にない」

 やはり謎だ。きっと一生、この男の脳内を知ることは無理だと思った。

「もういいよ。あたし帰るから」

 さっと振り返ると、早足で昇降口に向かった。

 

 帰り道の間、ずっと秀馬の言っていた意味を考えた。あてはまる言葉がまだこの世にない?女でも男でもないなら、いったいすずなは何者なんだろう。昨日はバカ女と言っていた。それなのに今日は女だと思っていないとはどういうことか。果たして秀馬の目には、すずなはどう映っているのだろうか……。


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