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「すずなー、遅刻しちゃうよー」

 姉の芹奈せりなの声が聞こえ、堀井ほりいすずなは目を開けた。

「なあに?呼んだ?」

 寝ぼけながらそう言うと、芹奈が呆れた顔を向けた。

「なあに?じゃないでしょ。今日学校でしょ。入学式」

 はっとすずなは起き上がった。時計を見て、あわててベッドから出た。

「そうだった!入学式だった!」

「なにやってんのよ。もう高校生なのに」

「待って待って!今すぐ着替えるから!」

 そう言いながらハンガーに掛けてある新しい制服を急いで着た。バッグを掴み、また時計を見る。

 ふう、と息を吐いてから、芹奈は呟いた。

「お姉ちゃん、向こうに行っても大丈夫かな……。一人でやっていける?」

「いけるいける!一人暮らしなんて簡単だよ!」

 芹奈の言う向こうというのはアメリカのことだ。既に成人している芹奈の初めての仕事場はアメリカなのだ。そのため、ずっと芹奈と二人暮らししていたすずなは独りになってしまう。

 しかしすずなは一人暮らしに憧れていたし、いつまでも姉に頼りきりではいけないと思った。

「朝ご飯……は、食べられないね。早く行かないと式に間に合わないよね」

 芹奈も時計を見ながら言った。さらにすずなの方に目をむけ、腕を組んだ。

「夜更かししてるからだよ。早く寝なさいってあんなに言ったのに。何してたの?」

 じっと見つめられ、すずなはしどろもどろになった。

「えっと……有架ゆうかと、透也とうやくんのことで電話してて……」

 芹奈はもう一度息を吐くと、全くという顔をした。

「透也くんね。すずな、大好きなんだもんね」

 すずなは大きく頷いた。

「そう!めっちゃかっこいいんだから!お姉ちゃんも見たら惚れるよ!」

「はいはい、わかった」

 いつものように軽く流されてしまい、少し残念な気持ちになった。

 玄関に向かい歩き出したが、廊下の途中であることに気が付いた。振り返り大急ぎで自分の部屋に入る。

「すずな、早く……」

「ごめん。ちょっと待って」

 あわててドアから出て、芹奈のもとに戻った。

「どうしたの?」

 聞かれたが、「ちょっとね」と言って答えなかった。

 マンションの扉を開き外に出ると、すずなは入学式、芹奈は空港に向かい歩いた。


 この春からすずなが通う学校は菱本ひしもと高校という。ごく普通の高校だが、ある人物が通っていることで女子にとっては憧れの学校になっている。その人物が、すずなが惚れている佐伯さえき透也だ。優しい目で爽やかな笑顔は、女子の心を鷲掴みにする。頭もよく運動もでき、スタイルも抜群でとにかく目立つ。非の打ち所がない、完璧な人間と言ってもいいくらいだ。そんな彼が通う高校に合格できたなんて、すずなにとっては天国に昇るような想いだ。

「透也くんにかまけて、勉強しないのはだめだからね」

 合格発表の後に芹奈に言われた。もちろん、とすずなは大きく頷いたが、恐らくその約束を守ることはできないだろう。誰にも見られていないのに、真面目に学校生活を送るなんてつまらない。だいたい、勉強なんて人生においてほとんど必要ないじゃないか。たった一度きりの青春を無駄にはできない、とすずなは考えていた。

 学校に着くと、脇田わきた有架が声をかけてきた。

「すずちゃん、おはよう」

 いつもと同じ可愛い声だ。すずなは有架の綺麗な瞳や女の子らしい笑顔が羨ましかった。別にすずながあまりにも不細工なわけではない。きちんとメイクもしているし、洋服だってお金をかけている。芹奈は高校生の時に毎日男子から想いを寄せられたと言っていた。有架からも「すずちゃんはいつもおしゃれ」とよく言われる。

 だが人間は、自分と他人を比べるのが当たり前になっていて、さらにほとんどの人が自分の方が劣っていると考えてしまう。本当に自分に満足している人はあまりいないものだ。

「遅かったね。もう来ないんじゃないかって心配してたんだよ」

「うん、寝坊しちゃって……。目覚ましかけとけばよかった」

「お姉さん、今日からアメリカなんでしょ?すずちゃん、一人で大変だね」

 大丈夫だよ、と言った直後に、お腹がぐううと鳴った。

「朝ご飯食べる時間なかったんだ」

 あはは、とすずなが笑うと、すぐに有架が言った。

「じゃあ、入学式が終わったら、どこかでお茶しようよ」

「あ、いいね。そうしよう」

 そう言うと有架はにっこりと微笑んだ。

 

 

 

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