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山村 洋介[後編]

「違和感を感じる事はない?」

斎藤さんは不適に笑うと立ち上がった。

「いえ…とくには…」

「そう…」

斎藤さんは短くそう呟くとお茶を注いで席に戻っきた。

「どうぞ」

「ありがとうございます」

俺は礼を言って斎藤さんからお茶を受け取った。

「"居たか?"も"何の?"も分からなくてどうやって語り継ぐのかしら?」

「それは何かに記して有ったのではないですか?」

「それなら居た事は分かるわ。そう言うのが無いから居たか分からないのよ」

「………」

ゆっくりとしかし確実にねっとりとした空気が食堂の中を満たし始めた。

「忘却を司る神様なら自身の存在を忘れさせたかも知れない。でも、それならば、今もなぜ語り継がれているのかしら?」

「それは全ての人間から記憶を消せなかったからじゃないんですか?」

「ありえないわね。それなら忘却の神として語り継がれてる」

「………」

あぁ…そうか…

このまとわりつく気持ち悪い空気はこの人が出してるんだ…

「神住森についてはこれくらいかしら?もっと詳しく聞きたいなら宮里さんに聞きなさい。次はこちらを見てくれる?」

畳まれた紙を取り出し、見せてきた。

その紙には三人の顔写真と名前が載せてある。

「右から順に強盗殺人。通り魔殺人。豪邸爆破大量殺人の被害者よ」

「そうなんですか?」

「嘘を言ってどうするの?」

「そうですね…でもそれがどうしたんですか?」

「もし…もしもよ?この人達がこの場所、遊杏島に来ていたならどう思う?」

「偶然だと思います」

「ならここを訪れ、宮里さんに関わった人達がほとんど、死んでいると聞いたらどう思う?」

そこまで調べてあるとは…やはりこの人は危険だ。

ゆくゆくはアルカナの最深部の情報まで調べあげるだろう。

それに…この人も解っている。

解って聞いているんだ。

澄村 大和では無くアルカナの一員に話してるんだ。

「どう思うと聞かされたら後ろにいる宮里さんが怖いですかね?」

「えっ!…えっといつから居たの?」

「その紙を取り出した辺りですよ♪」

仕方ないな…今回の任務は俺には分が悪すぎた。

「えっと…ね。宮里さん…」

「良いですよ♪斎藤様がそう思っていても、私はお客様の思考の自由は奪いませんので♪」

俺ではなくマジシャンやハーミットが来るべきだったんだ。

「宮里さん。そんな他人行儀にならないでよ」

「いえ、私は遊杏館の女将ですからお客様にご無礼が無いように」「もぅ。分かったから!私が悪かったから許してよ」

「何をお分かりになられたか分かりませんが私が許す事は何も起きてませんよ♪」

そぅ。俺では…ハイエロファント部隊、隊長では力不足なのだ。

「それに私も大変みたいですからね?斎藤様。ここの管理と島から離れた本土の犯罪までしなくてはいけませんから♪」

「たまたま事件が重なってるだけかも知れないじゃない!」

「斎藤様の口振りですとそうは聞こえませんでしたけど?」

「いつまで拗ねてるのよ。お子ちゃま…」

「斎藤様はよほど早く本土に戻りたいみたいですね?」

「おあいにくさま。料金は払ってるんだから三泊四日三食付きのコースはもらいます」

「うふふ♪規約にきちんと態度の悪い方は帰って頂きますと書いてありますよ♪」

「私がいつ態度が悪くなった?」

「今さっきです」

うむ。任務は失敗したとは言えこんな中に長時間居たくはないな。

仕方ないか…

「まぁまぁ二人とも落ち着いて下さい。宮里さんも許してあげてください。記者と言うのは関連性を調べるのも仕事なんですから」

睨み合っていた目が一瞬にして俺に向いた。

「そうですか…澄村様もそう思ってらしたのですね?」

「あんた。記者、馬鹿にしてるの?」

ハイエロファントはもともと監視や偵察などを得意とする場所でありこう言うのは得意ではない。

「とりあえず、二人共落ち着いて下さい。

宮里さん。別に言わせたいなら言わせれば良いじゃないですか?

どこか違う旅館が妬みで流した噂でしょうから。

それにここが素晴らしいのは訪れた僕達は分かっていますから。

斎藤さん。僕は記者と言うのはそう思われても、真実を求める仕事だと思います。

貴女が今までそうしてきたように」

俺はなるべく穏やかな物腰で二人に言った。

言いたいことが伝わっているかは分からない。

ただ悪化するにしても俺が標的になって終わりだろう。

「……そうですね。私は大人なので我慢します」

しばらくの思案の後、宮里さんは満面の笑みを浮かべた。

「何よ…これじゃ、まるで私、一人悪者みたいじゃない」

バツが悪そうにする斎藤さんを俺と宮里さんはただ、黙って見つめた。

「もぅ。私、とっくに謝ってるはずだけど?」

ぶっきらぼうだけど明らかに先程とは違い怒りの棘が消えていた。

「さて…それでは宮里さん。夕飯の準備まで神住森について話してくれませんか?」

「う〜ん。良いですよ」

宮里さんは斎藤さんの隣に座るとゆったりと昔話を聞かせるように話し始めた。

「昔、神住森には神様が住んでいました。

名前の由来はそこからきています。

神様達は地上種…つまり地を這う全ての存在と戦いました。

発端は…すみません。そこは語り継がれてないんです。

でもその戦争の後、神様達は皆、天界に帰ってしまいました。

その時に神様達は自分の住んでいた土地にそれぞれ神罰を置いていきました。

神住森の神様は地上種と言う汚れが入った時、そのモノに関わった全てに与える神罰と言われています。

今は有翼種…つまり鳥類だけが神住森に立ち入る事を許されています。

だから立ち入らないで下さいね斎藤さん。澄村さん」

頭がぐらつく…まるで、この世界が隔離されたような感覚が食堂を占めていた。

『やばい…』

それが俺の脳裏をよぎった。

何がやばいのか?

どれがやばいのか?

誰がやばいのか?

それらは分からない。

ただ、長年のアルカナ生活が告げていた。

やばい…と。

「さて。それでは夕飯にしますね♪」

俺は宮里さんが立ち上がると同時にお茶を飲み干した。

「どうしたの?澄村くん」

その行動に斎藤さんが疑問を浮かべながらお茶を啜った。

「いえ…その…やり残してる事があるのを思い出しまして夕飯までに終わらそうと…」

言葉が上手く繋がらなかった。

明らかな動揺が俺の動きを制限していた。

「ふ〜ん。なら出来たら呼びに行こうか?」

「いえ、そんなに時間は掛からないので…」

俺はそう言い残すとぎこちない足取りで部屋に戻った。



俺は部屋に戻ると直ぐにカバンを開けようとした。

しかしカバンを見て俺は思わず、軽い舌打ちをした。

荒らされているわけでも、何かが無くなっているわけでもない。

見落としてしまうほど小さな違いだが見落としてはならない小さな違いがあったのだ。

ファスナーの位置が違うのだ。

俺はいつも完全には閉めず1目盛り分開けるのだ。

確かに今回も開けた。

しかし今は完全に閉じている。

だれかが俺の部屋に入りカバンを開け、開けてないように偽装した。

俺はカバンから小型記録機を取り出すとこれまでの経緯と自分が知り得た事を記録した。

俺は記録を終えた小型記録機をビニール袋に包み床下に埋めた。

俺が無事に帰還できれば持って帰る必要がないからだ。

埋め終わるとトイレに行き手を十分に洗って食堂に向かった。



「あら?早いのね?」

「えぇ…」

食堂に入ると斎藤さんが俺に言葉を投げ掛けてきた。

見渡すとそこにはもう全員が席に座り待っていた。

「皆さん、お待たせしました」

そして料理もタイミング良く運ばれてきた。

「えっと。皆さん、良いですか?」

俺は料理が並び終わると同時に声を出した。

「澄村さん。改まってなんですかな?」

「その…家から連絡があったみたいで戻らないと行けないんです」

「ほぅほぅ。それは妙な話ですな。ここは連絡が取れない場所なんですがね」

「いえ、船に乗っている間に在りまして、早く戻るようにとただ、それだけが留守番に入ってたんです」

「留守番ですか………澄村さん。こちらも疲れました。いい加減、正体を現したらどうですか?」

「正体?何を言ってるんですか?」

「澄村さん。いえ、澄村 大和を名乗る誰かさん。澄村さんとこの財政を確認してから来るべきでしたね?

今頃あそこは、私の部下によって破産宣告まで持ち込んでいるはずですからな」

杉山 智春…やり手?…いやコイツはとんだ狸だ。

コイツは最初に会った時にもう気付いていたんだ。

「やはりバレてましたか…僕は…いや、俺は探偵事務所、所長の山村 洋介だ」

俺は地声を元に戻して宣言をした。

勇太がぴくりと反応をしたがすぐに、そうだったのか!と言う反応をして道化になってくれた。

名前はバレても構わないが。さすがにアルカナからと言うのはバレる訳にはいかない。

もしバレたなら俺が生きた証がこの世界からアルカナの名の下に消えるからだ。

生きた証を無くすには色々なモノに出逢い過ぎた。

だからバレる訳にはいかない。

「うふふ。そういう事にしましょうか?山村 洋介さん」

さすが、あの斎藤 美菜。

俺の期待とは裏腹に真実に近い…いやもしかしたら真実を知っているのかもしれない。

「そう言う事にしといてくれ。十六番目の演奏者、斎藤 美菜さん」

アルカナで創られた彼女の二つ名を使い、こちらもそれなりの情報はあると知らせた。

しかしそれは同時にこちらがアルカナの者であると公言しているようなモノだが、気にする事はないだろう。

もはや宮里さん以外の周知であるからだ。

だが口に出してない以上、口止めをすれば良いだけの話だ。

暗黙での口止め、それを破らせないための行動による監視、相手が少人数でないと、とても出来ない芸当だ。

「???…とにかく皆様、夕食にしませんか?」

何も分かっていない宮里さんの提案で夕食が始まった。



夕食を終えて俺は部屋に戻ると備えを始めた。

俺がアルカナであるとバレた以上、身の危険は考慮しなければならないからだ。

とは言っても俺には戦う事など出来ない。

だから逃げる回るための装備が自然と準備される。

「山村、俺だ」

準備を進めると控え目なノックと勇太の声が聞こえた。

俺は勇太を招き入れるとテーブルを挟んで向かい合った。

最初に切り出したのは勇太だった。

「なぜ。お前がここにいる」

「それよりお前まだ来てなかったんだな?」

「茶化すな」

「茶化してなんかいない。今のお前に話せる事が無いだけだ」

そう。アルカナを抜けた勇太に話せる事はない。

更にアルカナを抜けた勇太に助けを求める事は出来ない。

「チッ…そうかよ…」

勇太は毒付くと立ち上がり出て行こうとした。

「勇太、『当たり前を疑問に思え、考えるのを止めるな、思考を止めれば、真実は見えてこない』俺からお前に最後のヒントだ」

俺が知っていても、もう仕方ない。

ならば勇太が知って真実に近づく方が良いに決まっている。

「………」

俺の言葉を聞いて勇太は出ていった。




今は深夜三時、他の連中は寝ているはずだ。

俺は腕時計から視線を入り口に向けた。

隠密の訓練を受けており夜目は常人よりも良い方だ。だからモノを見るのに俺には月明かりも蛍光塗料も必要なかった。

俺は俺の布団で寝ている。丸めた毛布を見つめた。

睡魔はある。だが俺は寝れない。

眠れば殺されても文句が言えないからだ。

そう言う位置に俺は今、立っている。

結局、俺が準備できた事は出入り口の補強とダミーだけだった。

後は護身用のナイフ…

生きれる気がしなかった。

なぜなら、斎藤 美菜は己が招いた火種とは言えそれを自力で防いでおり、杉山 智春はSPを不要とする人間だからだ。

俺は軽く自分のピンチに溜め息を吐きながら腕時計を見た。

時間は…三時十五分

アレから十五分しか経っていない…いや、十五分も経っている。

俺が物思いに十五分も使っているはずがない。

体感時間と実時間の誤差。

それの意味する可能性は三つ。

一つは緊張による誤差。

一つは唐突な睡眠。

一つは何かしらの攻撃を受けての誤差。

先の二つなら問題はない。

だが最後の一つならやばい…

俺は慌てて立ち上がった。

立ち上がった…はずだった。

少なくとも意識は立ち上がる事に向けていた。

しかし体はそれを無視してその場を動かなかった。

痺れ薬系のガスを部屋に入れられたのかもしれない。

俺は奥歯に埋めてある痺れ薬の解毒剤を噛み潰した。

これが効かなければ諦めるしかない。

しかし運良く薬は効き俺は動かしにくい体を這わせながら窓に近づいた。

窓に這い寄ると開けるために手を掛けた。

まずはこのガスを抜かないといけないからだ。

「う……そ……だろ?」

しかし窓は外から固定され、叩き割ることも出来ないように窓、事態を強化されていた。

『仕方ないか…』

俺は再び痺れ始めた体を動かし首を切った。



「ん〜気持ち良い〜。あれ?先客いたんだ?お〜い。君達、名前は?」

「ん?なんでお前に教えないといけないんだ?」

「良いじゃん。別に名前聞いても。コレから一緒の場所に泊まるんだし」

「そうですよ。一ノ瀬さん、あっ僕は澄村 大和です」

「大和くん。やっさしぃ〜。私は小田原 優菜(おだわらゆうな)、優菜って呼んで」

「分かりました。優菜さん」

「っで、君は?」

「チッ…一ノ瀬 勇太」

「よろしくね。勇太くんに大和くん」

少女が船上に現れ、役者は揃った。

一ノ瀬 勇太。

山村 洋介。

そして小田原 優菜による、怪事件の解体ショーの幕が今開ける。

「楽しみだね♪遊杏島」


宮里「やっと更新です♪」

宮里「いきなり現れた。泥酔馬鹿娘のせいで更新が遅くなったけど更新です」

真夏「うふふ♪燃えたい?」

宮里「山田さん。相手してあげてください」

山田「バウッ!!」

真夏「うわっ止めて。助けて」

宮里「秋田犬は由緒正しき、闘犬の末裔だから気を付けて下さいね♪」

宮里「さてさてこれからもいっぱい更新しますのでよろしくお願いします♪」

作者「次で終わりだけどね」

宮里「えっ?」

真夏「あはは。ざまぁ〜みろ☆」宮里「考え直す気は?」

作者「ある」

真夏「えぇ〜」

宮里「良かった。それでは作者さんが考え直すことを祈ってます」

作者「全作品、不定期で本当に申し訳ない」

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