環状
《恋画》
将来の夢、というものを誰しも抱いたことはあるだろう。
それが現実的であれ、非現実的であれ、それに向かって努力するにしろ、しないにしろ、それが夢であることに変わりは無い。
それを実現できる者はほんの一握りであって、だからこそ"夢"なのかもしれない。
努力した者が得るというわけではないし、幸でも不幸でも皆行き着く先は同じ"死"である。
皆ひっそりと妥協という名の宿命から目をそらし社会の歯車である大企業の歯車である中小企業の歯車の一つとなって次第に錆び行き、いつ消えたかわからない線香のようにひっそりと人生の幕を閉じる。
誰かの夢を誰かが嫌々やっているような皮肉を焼いて焦げたようなクソッタレなこの世界に気怠さを感じながら、私もそんな一人であることを思い出す。
私は鷹田 秀夫という。歳は27でタカオというペンネームで漫画家をしている。
正直この仕事に自信はあっても愛着は雀の涙程もない。
先ほどのようなことを日々日常的に悶々と感じている私は文章であれ、写真であれ、音楽であれ、はたまた漫画でさえも「結局皆頭から消えるのだから」と"伝える"ということに無駄を感じられて仕方が無かった。
「誰かの夢を嫌々やっている」という罪悪感と
「このまま静かに死んでゆく」というほぼ確実な固定概念が元であることはわかっていた。
この山も谷も無い環状的な生活を一変させる出来事があった。
その原因はあまりにも極めてありきたりな"恋"だった。
✳︎
歳にして21に遡る。
中学高校の授業中をほぼ丸々落書きをして過ごした私に勉学の神は愛想を尽かして共通一次試験で4割を切る成績をプレゼントしてくれた。
やりたいことが無かった私はツラツラと漫画を描いていたのだが、それを友達が無断でネットにアップしたところあまりにも簡単に人気が出てデビューを果たした。
正直両親が他界して、食うことに困り果てていた私は安堵したが、
「残らないものを伝えるという無駄」が脳にぴったりとくっついて嫌だった。
加えてやれ締め切りだの、やれ増量版だと期日に追われる日常を送っていた。
とある夏の日没後、夏の日没というのは相当夜も深まる時間で、外に出れば街灯とコンビニ、あるいはパチンコ屋やスーパーなど節電を五月蝿く言われるご時世に真っ向から背いた反社会的な灯りのみが残される時間一人机に向かって"良いことを言う主人公"を描いていた。
きっと私は自分の中に居ない"社会的に理想的な人物像"に憧れてここに映しているのだろう。
だからこそキャラクター人気投票でも万人の理想の塊であるこの主人公"ワタル"が上位に上がるのだろう。しかしワタルのような人間は実在せず、それがフィクションであるということは何やら主人公の放つ黒い影や、真っ白で大きな口を開けた敵が証明していた。
「ここで立ち向かう気力も起きない大きな敵を出そうか。形は五角形でペンタゴンと名付けよう」一人であれこれシナリオを考えてこねくり回しながらコーヒーを口に運んだ。
このペンタゴンという敵は人生の苦難を一塊にしたような敵だ。
避けることは許されず、規模の大きさに圧倒される。
…今実に私はペンタゴンと対峙しているような気分だった。
✳︎