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Methuselah  作者: 宮沢弘
第二部:本編
16/21

9-1

 パッチの処理は、マックスにしては随分と時間がかかった。READ.MEにパッチである旨は書いてあったものの、パッチ自体が暗号化されており、またその機能を提供する衛星群の特定も必要だったらしい。私たちに馴染がある機能は、いずれもほぼ単独の衛星で提供できる機能とのことだ。それらを組み合わせる場合には、複数の衛星が必要になることもある。とは言え、どれも単独の衛星で提供でき、また一つの衛星に複数の機能も実装されているらしい。対して、転送に関係する機能は複数の衛星が揃って機能するものだという。干渉を使ってどうのこうのとマックスは言っていた。

 ともかく、マックスに頼んだパッチの処理は終り、今、私たちは帝国のはずれに来ている。私とタックマン、ハルダーソンとジェフリー、そして教祖、いやオブライエンが。

 一旦、オブライエンの拠点に遺物の調達に行ったが、ハルダーソンとジェフリーは大喜びだった。今、二人は体中に装備を着け、肩からも凶悪そうなものを下げ、バックパックにも山のように詰め込んでいる。

 私とタックマン、そしてオブライエンは私たちに必要なもの、つまり電池と電池の燃料とリピータを持ち出し、あとは軽い武器を選んでいた。マックスの助言から、小型ながらも強力なものを選んだ。バッテリー・パックの差し替えで使えるものと、普通の――もちろん今の技術からみれば進んだものだが――銃とマガジンを。

 ただ、私もオブライエンも、そしてハルダーソンもジェフリーも、遺物の確保に頭が行っていたのが悔やまれる。食料の調達をタックマンがやってしまったのだから。あまり長居はせずに済むことを祈るしかない。

 ハセガワは、「ただ生き延びろとだけ言われている」と言い、消えて行った。親の命令はある意味絶対だ。「生き延びろ」とだけ言われたのだとしたら、ハセガワはこれからどうするのだろうか。


  ****


 薄暗い森の中を私たちはしばらく歩いていた。

「なぁ、もう少し近くに飛ぶことはできなかったのか」ハルダーソンがぼやいた。「それに、近付いてどうやるんだ?」

「そりゃ、向こうがまずこっちを見付けるだろうな」先頭にいるジェフリーが藪を払いながら答えた。「向こうの魔法でさ」

 ハルダーソンが不安気に私に振り向いた。

「まぁ、そうだな」

「そりゃ大丈夫なのか?」

 ハルダーソンが続けた。

「それを言わないでくれよ。こういうことに私は向いていないんだ」

 まったくそうだ。これまで何度そう思ったことか。こういうことには私は向いていないんだ。

「それと、こっちの魔法はあまりあてにしないでくれ」

「なぜだ? 魔法なしで小さいとはいえ拠点を落とすってのか?」

 先頭からジェフリーが訊ねた。

「マックスが言っていたんだが…… こっちの魔法が無効になるかもしれない」

「てことは、あんたらは今はただの人ってことか?」

「まだ行ってみないとわからないんだが。魔法の起動ができないかもしれないし、起動自体がキャンセルされるかもしれない。あるいは起動しても魔法そのものが無効になるかもしれない」

「オブライエンの所に最初に行った時よりまずいかもしれないのか?」

 ハルダーソンの声はまたもいくらか不安気だった。

「いや、オブライエンがいる分、あの時よりはましだと思う。マックスからの説明を一番理解しているのはオブライエンだと思う。そうだろ?」

 振り向きはしないが、後のオブライエンに訊ねた。

「おそらく、そうだと思う。マックスの説明のあとで話した感じでは」

「それが望みですね」

 一番後からタックマンがどうにか聞こえる程度の声で答えた。

「それはともかく、そろそろ見えるはずですよ、ジェフリー」

 その頃には、もう辺りは暗くなっていた。ジェフリーは腰を低くし、左手で私たちにも同じようにするように指示をした。

「ハルダーソン、バックパックから双眼鏡ってやつを出してくれ」

 ハルダーソンは、ジェフリーのバックパックを探る。

「ちゃんと燃料は入れておいたんだろうな?」

 見てはいたのだが、つい聞いてしまった。

「大丈夫」

 ジェフリーはハルダーソンから受取りながら答えた。

 それを目にあてて、目標の建物の方を見る。

「なぁ、これは魔法じゃないのか? 明るく見えるんだが」

 双眼鏡を使いながらジェフリーが訊ねた。

「魔法と言えばそうなんだが。私なんかが使う魔法とは少し違う。君たちが今持っている武器なんかの方に近いだろうな」

「ふうん。で、あっちが気付いているかどうかはわからないな。通常営業って感じだが」

 私はオブライエンに振り向いた。

「オブライエン、マックスから教わった通信を試してみてくれ」

 オブライエンはうなずき、命令を口にした。

「位置特定 -起点=私 パイプ ティー 別名=パーティー パイプ 通信 -対象=リエ・チェン -方法=干渉アレイ -アレイ・サイズ=10 -拡散周波数=20 -内容="到着,エスケープ 'パーティ' "」

 何も置きない。

「もうすぐ衛星が位置に来る」

 オブライエンがカウント・ダウンを始めた。

「今、送った」

 数秒後、またオブライエンが言った。

「建物ごとの大出力の物質攻撃を希望だそうだ」

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