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歓声と終焉

 ノーア荒野から少し離れた場所で、ワァァァァと、大きな歓声が沸き起こる。

 世界を消滅させる者との戦闘の途中で撤退した各ギルドの人間がここに集まっていた。

 集まった人達の前方上空にある大きなスクリーンのようなものに、ノーア荒野の様子が映し出されていた。

 遠目の鏡と呼ばれる魔法を使って、ノーア荒野から避難した各ギルドの面々は、ノーア荒野での世界を消滅させる者とモナルカの戦闘の様子を観ていたのだった。

「凄い、凄いよモナルカ君!」

 ミリはカルマの手を取ると、興奮して熱に浮かされたかのように、先程から似たような事ばかりをカルマに向かって言っていた。

「そ、そうだね」

 対するカルマは、ミリのそのあまりの興奮っぷりに、引きつった笑みを浮かべながも同意の言葉を口にする。

 元々、最初は一緒に喜んでいたのだが、いつまでも興奮して似たような事を繰り返し言うミリに、さすがに疲れてきていた。

「なるほど、あれが噂のモナルカ君…ね。確かに凄いね」

 映像を観ていたカールは、モナルカの強さに感嘆の言葉を漏らす。

「『私が倒す』ですか、本当にモナルカさん一人で倒してしまうなんて…」

 ルーがどこか遠い声で呟いた。

「なるほど、やはり要らぬ心配だったようだね」

 オグンは少し前に自分がモナルカに大型について心配した事を思い出して少し自嘲気味な笑いを溢した。

 口々に勝利を喜ぶギルドの人達、これで死んでいった者逹も報われると、涙を流した者も居た。

 実際に戦ったからだろうか、その勝利を喜び合う姿はまるで狂乱の場のようであった。







「お疲れ様ですモナルカ様、さすがですね」

 ティトルは地上に降りてきたモナルカを穏やかな笑みで出迎える。

「…割りと被害は出ましたがね。最後の光線は斜めに撃ったので空へと逃げたと思いますけど…」

 世界を消滅させる者に吸収された人達を思い出したのか、どこか重い口調になるモナルカ。

 その足取りはふらふらしていて、そのままモナルカは全身から力が抜けて目の前に居たティトルに向かって倒れ込む。

「………お疲れ様でした、モナルカ様」

 ティトルはそのモナルカを優しく抱き止めると、心の底から労るような優しい声でそう言葉を紡いだ。

「……どうやら、始まったみたいですね」

 モナルカは全身に力が入らない自分の身体を見下ろすと、状況を悟り、静かにそう言葉を発する。

「はい、そのようです」

 ティトルはとても優しい口調で答えるが、その声にはごくごく微量に、余程敏感でなければ気づかない程僅かに、悲しそうな響きが混じっていた。

「私が消えたら、この世界から魔力も消えるのですよね?」

「…はい、もう少し詳しく言えば『創造』の神が創ったモノから、ですが」

「私が消えたら、人々から私の記憶が無くなるのですよね?」

「…はい、魔力を失った全てのモノの記憶から、モナルカ様の存在が抹消されます」

「私が消えたら、……私は消えるのですよね」

「…はい、そう遠くない未来に……」

「やはりそうですか、通りで身体に力が入らないと思いました」

「………」

 静かに微笑むモナルカの様子に、ティトルは僅かに唇を噛むが、それでも最後まで笑顔で見送ろうと、必死に笑顔の維持に努める。

「魔力が消えたら魔力に頼りきりだった人々は混乱するでしょうね。それがこの国の寿命を延ばすか縮めるかは分かりませんが、どちらにせよ、人間は新たな道を歩むでしょうね」

「そうですね。この世界の人々は魔力を無くした経験が無いですから、大変な混乱が起きるでしょう。動力を魔力に依存しているモノも多いようですから」

「…まぁ正直、そんな事はこれから消える私には関係の無い話ですがね」

 ふふと、おかしそうに笑うモナルカ。そんなモナルカの顔を初めて見たティトルは、終わりが近づいている事を改めて意識して、胸が締め付けられるように苦しくなる。

「……はぁ、そろそろですね。やっと、やっと私も休めるようです。……さすがに少し疲れました、そろそろ休ませてもらいますね」

「……はい」

 モナルカを見下ろすティトルを虚ろな目で眺めていたモナルカは、目蓋を少しずつ閉じる。ティトルの笑顔はもう崩れはじめていた。

「あぁ、そうだ。私の持ってるこの剣はティトルさんに譲りますね。先程の戦いで使いすぎてしまいましたから、もう私が持っている唯一の剣ですが、私が造った最高の剣ですので…きっと気に入って頂けるかと…思いま……す……ょ」

 そう言い終わると、モナルカの目蓋が完全に閉じられる。

「はい、ありがとうございます。大事に使わせていただきますね。……わたしは…わたしは『維持』の神から創られた存在です。だから、世界中の人々が貴方の事を忘れても、わたしは未来永劫決して貴方の事は忘れません。ですから、何も気にせずゆっくりお休みください、モナルカ様」

 ティトルはついに笑顔を維持することが出来なくなり、笑顔は崩れてしまったものの、声が震えてしまいそうになるのだけは懸命に堪えて、寝る前に子どもに絵本を読み聞かせる母親のような、穏やかな響きのある声で、モナルカにそう囁きかけた。

 それを聞いたモナルカは、消える瞬間に嬉しそうに、それでいて安らかに笑った…気がした。


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