世界を消滅させる者
ノーア荒野の南側、長い間雨が降らなかったためか地面は干からび、細かな亀裂が走り、そこらじゅうに枯れた木や草があった。
そんな死の世界のような場所で、“それ”は形を成そうとしていた。
濃度の濃いまとわりつくような魔力は、魔力に敏感なものならあまりの濃さに体調を崩してしまうかも知れない程だった。
そんな濃い魔力が滞留する空間で、“それ”は形を造っていく。正確には造るというより、別次元に存在していた身体をこちらの世界に顕すと言った方が正しいだろうか。
“それ”は魔力を使って別次元に存在している身体を、この世界に呼び出していく。
意識、と呼べば良いのか、人で言う脳にあたる場所が朧気ながらも出現する。その後には沢山の目や耳を、残りの身体は並行して少しずつ呼び寄せているようだった。
『………』
“それ”は出現させた沢山の目や耳を使って今の世界を観察していた。先程から“それ”が顕れる予定の場所を囲むように、人が並んでこちらを攻撃している様も。
『無駄な事を…』
“それ”はその様子をつまらなそうに一瞬だけ確認すると、すぐに興味を無くした。
まだ身体を完全にこちらの世界に転移させるには時間が掛かると判断した“それ”は、改めて世界を観察しなおす。
『以前よりも人が殖えている。技術も随分進歩したようだ。これは早急に滅さなければならないな。世界に進歩は…いや、そもそもこの世界そのものが不要なモノ。その不要なモノを消し去るのが我の存在理由』
“それ”は静かに思い出していた、自分が創られた意味を、自分を創りだした親を。
そして、とうとう“それ”の身体が世界に顕れた。ただ世界を消滅させる為だけの存在が…。
世界に顕れた“それ”は、やっと世界に固定された。それと同時に、“それ”を囲んでいた者達の攻撃が届くようになった。
『………』
届くといっても、実際に“それ”の守りを突破して、ダメージを与えている攻撃は皆無であったが。
『…変わらぬな』
幾度も世界を消滅させ、世界を消滅させる者など幾つもの異名で呼ばれるようになった“それ”は、その度に足掻く人間を見てきた。だが、自分達が住む世界が消えるのだから抗うのは当たり前なのかも知れない、例えそれが無意味な事だったとしても。
世界を消滅させる者は、周りを気にする事なく動きだす。
しかし、いくら効いてないとはいえ、目の前で弾ける雷光や踊る炎などは、周りを飛ぶ羽虫のようで、世界を消滅させる者はついと動きを止めた。
それはつまり、周りの人間に世界を消滅させる者が興味を持ってしまったという事を意味していた。
世界を消滅させる者は手始めに、正面の一団に攻撃をする事に決めた。
世界を消滅させる者の目の前に小さな光球が現れる。その光球は次第に大きくなり、直径が大人の身長程になった時、その光球から正面の一団に向けて光線が放たれる。
『人もまた、成長してる…という事か…』
世界を消滅させる者は僅かに驚嘆する。正面の一団は、咄嗟にその光線を何十もの防御魔法を重ねる事で防御力を高め、その光線を防ごうとした。
結果は、正面の一団の光線が通った場所に居た人達の消滅と、その場所の地面が深く抉り取られる事になった。
その結果に、世界を消滅させる者は改めて人の成長を見た気がした。前の世界まででは、人間がいくら防ごうと努力しても、地面まで消滅していただろう。だから、地面を抉るだけの威力にまで防がれた事に、素直に感心したのだった。
『それでも無意味な事だ。途上でどれ程の努力を重ねようとも、最終的な結末に変化は生じないのだからな』
世界を消滅させる者は、そのまま次の目標に標準を定める。
◆
それは悪夢だった。
ノーア荒野の南側に、朧気な魔力体が確認出来たのが少し前、委員会が率いるギルド大連合は、各ギルドをその魔力体を包囲するように配置すると、そのまま魔力体に向けて一斉に攻撃を開始した。
だけど、剣で斬ろうが槍で突こうがただただ攻撃が通り抜けるだけの攻撃が続いていた。
やがて、味方に当たる事も厭わず弓を射たり、魔法で攻撃する者も現れたが、結果は変わらなかった。
そのまま攻撃をしていると、朧気だった魔力体がはっきりとしたのか、攻撃が当たるようになった。
その魔力体は、ほぼ球状の身体に大量の大きな目玉がくっついていて、前面と思われる側の側面上部には、小さな耳のようなモノと、前面下部には手のようなモノが付いて、手の上辺りには口らしき大きな切れ込みが在るという、酷く醜い容貌をしていた。
そんな異様な見た目に息を呑むも、手を休める事なく攻撃は続いていた。
(攻撃は当たっているけど、届いてない?)
カルマは手応えの無さに眉をしかめる。
そして、カルマがそんな事を考えていた時にそれは起こった。
最初、ただの光球だと思った。そういう魔法が在るのは知っていたから。
しかし、豆粒ぐらいの光球が膨らんでいき、大人の身長ぐらいの大きさになった時、その光球から光線が放たれた。
事前にルーさんから防御の仕方を幾通りか指導されていたからだろう、その光線を受けた場所に居た人達は慌てずに魔法の防壁を何十にも重ねて受けとめた。
しかし、それでは足りなかったようで、光線はその防壁を易々と破ると、その場に居た沢山の人達を一気に消し去った。
その惨状に、全ての人間が息を呑む。
そして、理解した…いや、最初から理解はしていたのだろう、ただそれを受け入れられなかっただけで。それは勝てないという事、どう足掻いても目の前のこの化け物にはかすり傷のひとつもつけられないという事実を…。
それを受け入れてしまった人達は、我先にとこの場から逃げ出していた。そんな逃げ出す人達を見てカルマは、
(どこへ行こうというのだろうか、自分達人間に逃げ場などないだろうに)
そう口の中で呟いていた。
逃げなかった人間は、腰を抜かしてその場にへたりこんだ者か、あれを見てなお戦意を維持出来ている勇者か、だった。
カルマは血が出る程に唇を噛んで恐怖に抗う。痛々しいまでに強く握られた拳が、内なる葛藤を表しているようであった。
そんな中、目の前の化け物が静かに口を開くと、あらゆるものがその口の中に吸い込まれていく。
「くっ!」
カルマはその場で踏ん張るが、身体が浮遊するのを感じ、慌てて手に持っていた剣を地面に突き刺した。
周りのもの、逃げ出した者やへたりこんだ者が吸い込まれていく。
枯れ木や草、地面まで吸われているのを見て、カルマはつい自分が剣を突き立てている地面に目を落とす。
「ここは今のところ大丈夫そうだな」
カルマは小さく息を吐くと、すぐに目の前の化け物へと目線を向ける。
色々なモノが吸い込まれていく口は洞穴のように暗く、吸い込まれたモノがどうなるかは、外側から見ただけでは分からなかった。
やがて、開いた時同様に化け物は静かに口を閉じると、無数に在る目が生き残りへと目線を向ける。
「…クソッ!」
ただそれだけで、心臓を掴まれたような感覚に襲われ、恐怖を誤魔化すように悪態をつくカルマは、それでも呼吸が浅くなっていた。
「どうすれば…」
カルマは化け物を警戒しつつも、周囲へと意識を向ける。
沢山居た各ギルドの人達は、今ではその四割程度しか生き残っていなかった。
「さすがに委員会の人達は全員無事ですか」
その僅かな生き残りの中に、委員会の九人を確認したカルマは、小さく安堵の息を吐く。
そんな中、化け物はギョロギョロと目玉を動かしたかと思うと、沢山の目玉が、最も生き残りが居るカルマ達『夜天光』や『宝相華』の方へと向けられる。
「ッ!」
ただでさえ見られただけで息が止まりそうになったのに、沢山の目玉がこちらを向く光景は、生きた心地がしなかった。
化け物は、カルマ達の方へと目線を向けた後、また光球をカルマ達に向けて作りだした。
「まずい…」
恐怖で頭の回転が鈍くなっていたカルマは、その光球を見てやっと、何故化け物がこちらを見たのかを理解した。
「防御体制をとれ!」
背後から聞こえてきたオグンの声に、カルマはハッとして慌てて防御魔法の準備をする。
化け物とカルマ達の間に大量の防壁が出現する。それは先程破られたモノよりも強力なものであった。
そんな間にも光球は膨らみ、こちらも前回よりも一回り大きな光球が出来上がる。
そして、それはカルマ達に向けて放たれた。
「ッッッ!!!」
カルマ達は必死に防壁へと魔力を注ぎ込む。
光線は次々とその渾身の防壁を突破していくが、防御魔法もあと数枚というところで光線は消え、なんとか防ぎきる事に成功した。
「はぁ、はぁ、はぁ」
防ぎきった安堵感と、魔力を使いすぎた疲労感に息を荒げるカルマ達が化け物に目を向けると、喜ぶ暇もなく絶望に包まれる事になった。
何故なら、新たな光球が既に準備されていて、今にもその光球から光線が放たれようとしていたからであった。
「…あれは、防ぎきれない」
先程の防壁に魔力を使いすぎたカルマ達は、満足に防壁を張り直す事も逃げ出す事も出来ないまま、悔しそうにその光球を睨み付ける事しか出来なかった。
「―――――」
化け物が光線を放ち、カルマ達の人生が終わろうとしたその時、カルマの目は、視界の端から飛び込んでくる人影を捉える。
その人影はカルマ達の前に立つと、光線へ向けて手を突き出して目の前に防壁を作り出すと、そのまま光線を一人で受け止めてしまった。
信じられない光景だった。
あれほど沢山の人が力を合わせてやっと防いだ光線を、たった一人で防いでいるその姿にもだが、それ以上に、その奥で化け物を殴り飛ばしているモナルカの姿が目に映ったからであった。
「………」
その光景に、誰もが言葉を失っていた。
「大丈夫ですか?大丈夫なら早くこの場から退避してください」
化け物の光線を防いだ女性は振り返ると、淡々とした口調でそう告げる。
「…女神様」
その女性の姿に、誰かがそう呟いたのが聞こえた。
確かにこの世のものとは思えない程のその美貌に加え、先程窮地を救ってもらったばかりだ、そう感じても仕方がない事だとカルマも心の中で同意した。
「ティトル殿…その…」
カルマがそう納得していた時、『宝相華』のギルドの方から、咄嗟に言い訳をするような困ったような口調の言葉が聞こえてくる。
「ルーさん、早く退避の指示を出してください。このままだとまた攻撃されてしまいますよ」
ティトルと呼ばれた女性は、感情の無い視線をルーさんに向けると、そう淡々と告げる。
「え、ええ、分かっています、今すぐに」
ルーさんは生き残った各ギルドのメンバーを見回すと、最初に集まった場所まで退避するよう指示を出す。
その指示を受け、各ギルドは近いギルド同士一度集まり、そのままいくつかの塊となって移動を開始した。
「それではティトル殿、御武運を…」
ルーさんはそう言うと、女性に軽く頭を下げる。
カルマ達は女性に礼を言う暇もなく、慌ただしく撤退を開始した。
「やっと離れていきましたか」
ティトルは粛々と離れていくギルドの人達を見て、小さく息を吐く。
「しかし、手酷くやられたようですが、存外健闘してたようで」
ティトルは改めて周囲の惨状と、遠く離れていくギルドの人達を見比べて、多少驚いたようにそう呟いた。
「それにしても、こちらは相変わらず驚かしてくれますね」
ティトルは世界を消滅させる者と戦うモナルカへと視線を向けると、楽しそうに小さく笑った。
「ちゃんと離れましたね」
モナルカは世界を消滅させる者の相手をしながら、視界の端でギルドの人達が離れていくのを確認すると、
「顕現せよ!踊る剣×2」
両手に二振りの剣を顕現させる。
モナルカはそのまま剣を軽く放るように手離すと、剣はそれぞれ勝手に動き出す。
「さて、出し惜しみも何ですし、更に新たな剣を追加しますよっと」
そう言うと、モナルカは右手に一振りの美しい長剣を顕現させる。
「これこそ真なる魔剣。私の最高傑作です、存分に御堪能あれ」
そう言って誰かを案内するかのように水平に手を差し出すと、それを合図に踊る剣が左右に分かれ、そのまま三方から突撃するモナルカ。
『ああああああああああああ』
そんなモナルカに向けて、世界を消滅させる者は咆哮する。
そして、目玉をギョロギョロと動かすと、左右から迫り来る踊る剣目掛けて、小さかった世界を消滅させる者の手が急に伸びて迎撃を開始した。
『ああああああああ』
モナルカに向けては、舌を伸ばして迎撃しようとする世界を消滅させる者は、一緒に光球も出現させる。
モナルカは勢い良く真っ直ぐに伸びてくるその舌を右に避けると、そのまま横を通り過ぎていく舌の側面目掛けて剣を振り下ろす。
『あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛』
世界を消滅させる者は悲鳴のような呻き声をあげると、途中で先端を切り離された舌を一気に引き戻す。
それと同時に、モナルカに向けてまるで地上に落ちた太陽のように眩しい光を放つ光球から、特大の光線を照射した。
モナルカはその光線へと向けて、何発かの魔力の塊を続けざまにぶつけると、威力が弱まった残りの光線を剣で受けとめてみせる。すると、剣に当たった光線は威力を弱めるどころか、そのまま魔力を剣に吸収されてしまった。
「魔力、ごちそうさまです」
モナルカはそのまま軽く一振りすると、剣を構え直す。
「さて、両翼は…」
視線を左右に向けるモナルカ。
左翼では、踊る剣と世界を消滅させる者の手が攻防を繰り返していた。
世界を消滅させる者の手自体が魔力で出来ているのだろう、踊る剣の攻撃を掌で平然と受け止めると、そのまま横へと放り投げるように払い飛ばす。
そして、払い飛ばされた踊る剣が体勢を崩したところへ、世界を消滅させる者の手が握った拳が、おもいっきり打ち込まれる。
それを、一瞬早く体勢を立て直した踊る剣がギリギリのところで横に避けると、振り上げるような格好になった踊る剣は、伸びきった腕目掛けてそのまま刃を振り下ろす。
切り落とすまでには至らなかったが、手を引っ込めさせる事には成功していた。
反対側では、踊る剣と世界を消滅させる者の手とが激突していた。
拳を握り、振り下ろされたそれを、踊る剣は真正面から迎え撃ち、まるでつばぜり合いのようなにらみ合いになっていた。
力が込もってぷるぷると震える両者は、そのまましばらく膠着状態に陥るが、両者は互いに相手を押し出して、その反動で後方へと飛び退き、一旦距離を取る。
そのまましばらくにらみ合いをした後、世界を消滅させる者がもう片方の手も一度引っ込めた事で、一応の決着が着いたかたちになった。
『…人間の…クセに…やるな…』
世界を消滅させる者は多少の驚きが混ざった低い声を発する。
「おや、貴方は喋れるのですか」
モナルカがその事に驚きの声を出すと、
『…我は…神が創りし存在…この程度…出来て…然るべき…であろう』
世界を消滅させる者が何を当たり前の事をと言わんばかりの声音で返答を寄越す。
「ならば、最初から会話をすれば良かったですのに」
『…この世界の…言葉には…まだ慣れぬ…それに…話してどうなる…』
「あぁ、だからへんな間が空いてるのですね。この世界には、話せば分かる!という言葉が在りましてね……いえ、本当にそうは思ってはいませんが、しかし、話す事で得られるモノもあるでしょう。それに、私は最後の戦いの前に、互いに手札を見せあって、事実を確認するのも必要だと思いますよ」
『…不要…この世界の…全てが不要…故に…真実も…不要…なり…』
「なるほど、分かりやすいですね。…ならば、私も貴方が敵であるという事実以外は不要としますかね」
そう言うと、モナルカは改めて長剣を構え直す。
「さて、それでは仕切り直しといきましょうか」
モナルカが軽く手を上げると、先程と同じように踊る剣が左右に分かれる。
『…無意味』
世界を消滅させる者はそう呟くと、口を大きく開けて周囲のモノを吸い込み始める。
「なるほど、あれが話に聞く吸収ですか」
モナルカは自分と踊る剣の周りに防壁を張って空間を切り取ると、
「そんなにお腹が空いているなら、どうぞ、お腹いっぱい召し上がれっ!」
モナルカが手を上空に伸ばすと、中空に大量の武器が顕れる。そして、それはモナルカが下ろした手を合図に、世界を消滅させる者の口の中へと勢い良く入っていく。
『ぐああああ』
世界を消滅させる者は苦しそうな声を出すと、吸い込む事を強制的に止められる。
「やはり、魔力が無い唯の武器には、その吸収は効かないようですね」
『…な…何故だ…魔力は…全てのモノに…あるはず…』
「もうお忘れですか?この剣は魔力を吸収出来るのですよ。…まぁ、貴方の吸収とは少し違いますけど」
『ぐぐぐ…人間の…クセに…』
世界を消滅させる者は悔しそうに呻くと、突然上部に新たな口が表れ、そこから何本もの舌が上空へと伸びて、そのままどこか遠くへと伸びていく。
「…?」
モナルカは声を潜めて警戒する。
『ククククク』
世界を消滅させる者が不意に押し殺したような笑い声を出すと、
『…さて…仕切り直しといこうか…』
世界を消滅させる者が先程のモナルカと同じような事を言った時、どこか遠くへと伸びていた何本もの舌が戻ってきた。その先には、沢山の人達が捕らえられていた。
舌はそのまま口腔内へと戻り、口が閉じられる。
「なるほど、そう来ましたか…」
その光景を見たモナルカは状況を理解すると、世界を消滅させる者に呆れたようにこう話しかける。
「近場で魔力補給出来ないからと、わざわざ遠くまで食指を動かすとは…いや、この場合触手ですかね?…まぁ、どちらでもいいですが。いやはや、節操の無い方ですね」
『…何とでも…言うがよい…これで…人間…お前を倒せる…のだから』
「甘く見られたものですね」
冷めたような声でぽつりと呟くと、モナルカは防壁を解いて、今度は世界を消滅させる者へと単身突撃する。
『…愚かな』
それを世界を消滅させる者は、周囲に大量に展開した光球から光線を発射させる事で迎撃する。
モナルカはその光線の雨を受ける事なくギリギリのところで避けながら、世界を消滅させる者へと突撃を続ける。
世界を消滅させる者はそのまま光線でモナルカを追い、迎撃の為に伸ばした両手でもって挟撃しようとしてくる。
モナルカはその両手も避けようと上へと少し逸れるが、その瞬間を見逃さなかった世界を消滅させる者は、両手の軌道を上へと修正する。
そして、世界を消滅させる者はその勢いのまま両手でもってモナルカに襲いかかる。
「くっ!」
予想外の軌道に虚を突かれたモナルカは、そのまま世界を消滅させる者に捕まってしまった。
『…さよならだ…人間』
世界を消滅させる者はそう呟くと、両手に力を込めモナルカを握り潰してしまう。
『ハハ…ハハハハハ…所詮人間…よ』
愉快そうに笑う世界を消滅させる者。
しかし次の瞬間、世界を消滅させる者の笑いは断末魔へと変わった。
「生死はしっかりと確認しませんとね」
モナルカは下から深々と突き刺した剣で、世界を消滅させる者をおもいっきり切り上げると、静かにそう忠告した。
『…た…確かに…握り潰した…はず』
苦しそうに声を出す世界を消滅させる者に、モナルカは剣を振り上げて答える。
「ええ、握り潰してましたね、…私の分身をっ」
『ぐふっ』
モナルカが振り下ろした剣が世界を消滅させる者の左手を切り落とす。
『…まだ――』
世界を消滅させる者が何かを言おうとしたその時、立て続けに左右から踊る剣が突き刺さる。
「蜃気楼と幻術の合わせ技のようなものに、氷魔法も追加しましたから、一応の手応えはありましたでしょう?」
モナルカは世界を消滅させる者から少しだけ離れると、続けて周囲に展開した大量の武器を、世界を消滅させる者へと向けて一斉に突き刺していく。
『ぐぁ…そんな…くっ…バカな…我が…人間などに』
「これで終わりにしましょう」
そう告げると、モナルカが突き出した掌の先に光球が生まれ、みるみる内に膨れ上がると、
「貴方の得意な技でしたよね、これ」
その特大の光球から、世界を消滅させる者を呑み込む程の光線を発射させる。
『あり…えぬ』
その光線を浴びた世界を消滅させる者は、跡形もなく消え去ったのだった。




