生産する街
「ここがノヒンですか、…王都とはまた違った賑やかさがありますね」
ノヒンの通りで、ティトルはその賑やかさに僅かに興奮したような声で感心する。
「ノヒンは工業の街ですからね。近くに鉱山やら金山やら色々な資源に、すぐそこには大きな河も在りますから、王都がノヒンなど各地で作られた物が売られる“消費する街”なら、ここノヒンは“生産する街”と言える場所ですね。因みに、ノヒンはペドゥール大陸でも三本の指に入る程の人口を有する街なんですよ」
キョロキョロと辺りを興味深そうに見つめるティトルに、モナルカはゆっくりとした口調でそう説明する。
「へぇー、そうなんですか、だから人の声以外の賑やかさもあるんですね。この世界での生産にも興味有りますね」
「さすがにそこまで見て廻る暇は、今回は無いですね」
申し訳なさそうに口元を歪めるモナルカ。
「……では、次の機会にでも案内してください」
「そうですね、では次の機会に…」
どこか寂しげな笑みを浮かべるティトルに、モナルカは穏やかな笑みを返した。…その約束が叶う日が来る事は無いと知りながら。
「しかし、そんなに経ってないはずですが、この街もなんだか懐かしく感じますね」
静かに周りに視線を巡らしたモナルカは、しみじみとそう呟いた。
「ここでは何を?」
「狂化……悪さをしていた人にお仕置きをしましたね」
「お仕置き…ですか?」
「ええ、お仕置きです」
首を傾げるティトルに、冗談めかして肩をすくめるモナルカ。
「……それで、これからどうするのですか?明日にでも戻らなければ、世界を消滅させる者が顕れるのに間に合わないかも知れませんよ」
「そうですね…」
空に視線を移すモナルカ。
「着くのが遅かったのでもう昼過ぎ…というよりもうすぐ夕方ですね。とりあえず宿を取りましょうか。といっても、ここら辺は夜は酒場ぐらいしかありませんから、一泊して戻る事になりそうですが」
残念そうに肩をすくめるモナルカ。
「酒場は酒場で楽しいですけど、旅する身としましては、ベッドで眠れる時にたっぷり眠れる方が貴重ですもんね」
少し意地の悪い笑みを浮かべるティトル。
「まぁ、それも一理ありますね」
「どこの宿を取るんですか?」
「以前お世話になった宿屋に行こうかと」
そこでモナルカは僅かにティトルから目を逸らすと、
「…空室があればいいですけど」
ぽつりとそう呟くのであった。




