気の抜けた声
「…魔物の姿を見なくなりましたね」
カルマは前を歩くイルカに話しかける。
「ええ、そうですね。あの土人形の軍団が魔物を殲滅しているらしいので、その影響かと」
あれ以来、魔物の群れと戦闘になると、どこからともなく土人形の軍団が現れて、共闘するようになっていた。おかげで戦闘はかなり楽になり、疲れも大分取れたのだが、最近はその戦闘どころか、魔物の姿すら見なくなっていた。
「まぁ、近頃は歩いてるだけだから退屈ではあるけどさ、こっちの方が平和でいいよね~」
カルマの隣を歩くミリが、気の抜けた声で話しかけてくる。
「ミリは緊張感が足りないな、いつなんどき襲われるか分からないんだぞ」
そんなミリをカルマが軽く注意する。
「ここは見晴らしがいいからね、大丈夫だと思うよ」
小さく両手を広げると、軽く肩をすくめるミリ。
そんなミリの様子にため息を吐くカルマ。
「…イルカさん、近くの魔物の群れとか本部の方では把握してないんですか?」
「確認出来ている魔物の群れは近くには居ないみたいですよ。というより、もうほとんど魔物の群れは無いようですね」
「それじゃぁ、もう王都に帰れるんですか?」
イルカの言葉に反応したミリが、横からそう問いかける。
「それは分からないですが、敵も少なくなってきたようですから、近いうちには帰還出来るかも知れませんね」
小さく首を捻って視界の端にミリを捉えると、そう言って優しく微笑むイルカ。
「わーい、あと少しなら頑張ろう!」
そう言って、ミリは左手を勢いよく天に向かってつきだすと、「おー」と嬉しそうに自分で自分に気合いを入れた。
「現金なやつだなぁ」
そんなミリに苦笑しつつも、穏やかな顔をするカルマなのであった。
◆
「さてと、魔物の群れも見なくなりましたし、そろそろここでの調整も終わりですかね」
モナルカは左腕で肘を押して右腕の関節を伸ばすと、そのまま右腕で同じように左腕の関節も伸ばしながら、ティトルにそう確認する。
「はい、予想よりも魔物の数は多かったようですが、巧く調整出来たようで、ノーア荒野の魔力量は十分高まったようです。後は、世界を消滅させる者がこの世界に顕れるまでの少しの間、待機しておけばよいかと」
相変わらずの淡々とした口調で答えるティトル。
「少しの間とはどれぐらいですか?」
「そうですね……、大体20日前後と言ったところでしょうか」
「わりと余裕が在るんですね」
ティトルの言葉に、少し意外そうな顔をするモナルカ。
「世界を消滅させる者は存在そのものが強大ですから、この世界に姿を顕すだけでも結構時間が掛かるのですよ。ちなみに、顕れる過程で攻撃しても、顕れるまでは空気のような存在なので、攻撃は当たりません…一応ですが」
「なるほど。それでは、それまでの間何していましょうかね」
モナルカは掌で口を覆うように手を置くと、何事かを考えるようにそのまま遠くを見る。
「そういえば、ここはノヒンの近くに位置するんでしたね。日数を考えれば、距離的にはちょうどいいぐらいですし」
モナルカは気持ちを切り替えるように軽く手を叩くと、ノヒンに向けて歩きだす。
ティトルは慌ててその後を追うのだった。




