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依頼

「はぁー、ここが王都ですか…」

 高く聳える城門を仰ぎ見ながら、驚いたような声を出すティトル。

「城壁も城門も凄い高いですね、まるで崖ですよ。ここまで壮観な見た目の都市は初めてです」

 はぁー、ほぉーと関心しっぱなしのティトルの様子がなんだか妙におかしくて、くすりと笑ってしまうモナルカ。

「?、何か面白いものでもあったのですか?」

 珍しいモナルカのその反応に好奇心を刺激されたのか、覗き込むようにしてモナルカを見つめるティトル。

「…いえ、特にはなにも。それよりも、早く中に入りましょうか」

 誤魔化すように、歩く速度を上げるモナルカ。

「あっ、待ってくださいよ」

 ティトルはその後に慌ててついて行き、そのまま王都に入っていった。


「アーヘルも人が多いと思いましたが、王都は更に人が沢山居ますね」

 大通りと平行するように大通りの一本隣を通る通りを歩きながら、ティトルは興味深げに辺りを見回す。

「ここは普通の通りですから、隣の大通りに出れば、ここより更に人が多いですよ」

 ティトルの隣を歩くモナルカは、少し疲れたようにそう呟く。

「先程から元気がないですね」

 ティトルはモナルカに顔を向けると、不思議そうにそう訊いてくる。

「人混みは苦手なんです」

 そう言って苦笑すると、肩をすくめるモナルカ。

「アーヘルではわりと平気そうでしたけれど?」

「アーヘルは特別ですから。…それでも、人混みに長時間は居たくはないですけど」

「そうなのですね。今のわたしにはよく分かりませんが、人混みがモナルカ様の数少ない弱点だということは理解しました」

 そう言って、うん、うんと真面目な顔で何度も頷くティトルに、思わず小さく笑ってしまうモナルカ。

「む?また笑ってますが、疲れている割には今日は機嫌が良いという事でしょうか?ん~…王都に知り合いでもいらっしゃるのですか?」

 不思議そうな顔で訊いてくるティトル。

「知り合い、ですか。兄が王都に居ますが、別にそれで機嫌が良い訳ではありませんし、そもそも別段機嫌が良いという訳でもないのですが…」

 困ったように頭をかくモナルカ。

「では、先程笑ったのには何か理由が?」

 そう言って首をかしげるティトルに、どう答えたものかと考えるモナルカ。さすがに、ティトルの真面目な顔が、何故だか妙におかしく感じられたから。とは言えなかった。

「そうですね、ティトルさんが人を学ぼうとする姿が微笑ましかったものですから」

 そう言うと、モナルカは本心を隠すかのような穏やかな笑みを浮かべる。

「そうでしたか。わたしも王都の雰囲気に当てられてか、少し浮かれていたのかも知れませんね」

 ティトルは少し居心地悪そうに苦笑いを浮かべた。

「良いのではないですか?初めての王都、学べるものは沢山あるでしょうし。それに、学べる時に学んでおいた方が、後々後悔しなくて済みますよ」

 そう言ってモナルカはティトルの手を取ると、そのまま脇道を通って、大通りに出る。

「ここが王都の大通りです。つまりは、ペドゥール大陸一の大通りですよ」

 モナルカのその言葉通り、大河の様に広い道幅には、水の代わりに大量の人が往き来していて、両脇には様々な店や施設が建ち並び、少し先の広場には、沢山の芸人の姿も確認することが出来た。

「……アーヘルの大通りが寂しく感じますね」

 その圧倒的なまでの喧騒に、ティトルは唖然として呟く。

「人通りが多いので、はぐれないよう気をつけてくださいね」

 その先程までとは比べ物にならない程の人混みに、モナルカはすでに多少減なりしているも、ティトルの手を引いて歩き出す。

「…すいません、変に気を使わせてしまったみたいで」

 モナルカの意図に気付いたティトルは、繋がれた手に視線を落としながら、申し訳なさそうに言葉を紡ぐ。

「……さぁ、なんのことやら。私はただ、大陸一の通りとやらを見てみたかっただけですよ。一人で来た時には、大通りは避けてましたから」

「ふふふ、…やはり貴方は面白い方ですね」

「喜んでいただけたなら何よりです」

 先程までとは打って変わって楽しそうなティトルに、小さく安堵の息を吐くモナルカ。

「それで、これからどちらに?」

「『夜天光』というギルドへ行きます。そこのギルドマスターのオグンさんなら、何かしらの情報を持っているでしょうから」

「教えてくださいますかね?」

「魔物の移動の有無ぐらいは教えてくれるでしょう」

 モナルカとティトルがそんな話していると、『夜天光』のギルドハウスが見えてくる。

「あれが『夜天光』のギルドハウスです」

 モナルカは、先にある一軒の大きな建物を指差す。

「大きなギルドハウスですね」

「『夜天光』はギルドメンバーの多いギルドですから、あそこだけではなく、他にも色々な建物を所有しているらしいですよ」

 『夜天光』のギルドハウスに到着した二人は、ライテに出迎えられた。

「いらっしゃいませ、ようこそ『夜天光』のギルドハウスへ。

 お久しぶりですね、モナルカさま。本日はどういったご用件でしょうか?」

 丁寧にお辞儀をすると、にこやかに応じるライテ。

「オグンさんにお会いしたいのですが、いらっしゃいますか?」

「申し訳ございません。現在オグン様はギルド本部の方に居まして、言伝てが有れば伺いますが?」

「そうですか。……では、今日はこの辺で失礼します」

 ライテに頭を下げると、ギルドハウスを後にするモナルカとティトル。

「どうしますか?」

「ふぅ、…ギルド本部に行っても、ギルド関係者でもない私では、どうせ門前払いされて会えないでしょうから、街を散策して、少し情報収集でもしてみますか」

 モナルカは息をひとつ吐き出すと、どこかしらへと歩き出す。ティトルはその後に続いた。







「分かりました、ではその通りに」

 ギルド本部の一室でルーは通信機器の接続を切る。

「……想定より苦戦していますね」

 あの会議の後、委員会のメンバーは大量の情報が集まり、また各ギルドと連携する為にギルド本部に留まり、ギルド本部から自分達のギルドをはじめとした、関係のあるギルドへと指示を出していた。

 ルーは手元の新しい報告書に目を通すと、疲れたようにため息を吐いた。

「部屋に籠っていても仕方ないわ。直近の会議や報告の予定までは大分時間があるし、少し外の空気でも吸いに行こうかしら」

 ルーはサッと身だしなみを整えると、部屋を出る。

「おや、お出掛けで?」

 部屋を出ると、ちょうど近くを通りかかったカールが話しかけてくる。

「ええ、少し外の空気でも吸おうかと思いまして」

 そう言って軽く会釈をして、その場を後にしようとするルーに、

「そうでしたか、ずっと部屋に籠っていても息が詰まるだけですからね。…私もご一緒してもよろしいでしょうか?」

 大人らしい余裕のある優雅な微笑みを浮かべるカール。

「そんな、一緒など、本当に少し外に出るだけですから」

 やんわりと断るルー。

(正直、この人は苦手なのよね)

 なおも食い下がってくるカールに、ルーは心の中でどうしたものかと考える。

「申し訳ありません。少し一人になりたいので」

 そう言ってルーは頭を下げると、なおも何か言おうとしていたカールを残して、早足でその場を後にする。

 ギルド本部の外に出ると、ルーは小さく息を吐き出す。

「外に出るだけでこんなに疲れるとは思いませんでした」

 ルーは先程の出来事を忘れようとするかのように軽く頭を振ると、気を取り直して王都を散策する。

 外の空気を吸うと言っても、他に何か目的があった訳ではなかったので、とりあえずギルド本部から離れるように歩いていた。

「はぁ、しかし本当に王都はどこも賑やかですね」

 ルーは自身のギルドがあるニャーニュの街を思い出す。

(多分、ニャーニュの大通りでやっと王都の裏通りぐらいの人通りですね)

 そんな事を思い出して、改めて王都の賑やかさを思い知るルー。

 裏道や脇道を通りながら王都を散策するルーだったが、その美貌のせいだろうか、度々見知らぬ男に呼び止められていた。

(これだから男という生き物は…。はぁ、しかし、ここまで声をかけられると面倒ですね。私は静かに散策したいのですが…)

 そんな思いは虚しく、また声をかけられたルーは、部屋に籠っていてた方がマシだったかも知れないと思い至り、ギルド本部へと戻る事にした。


「あら?」

ギルド本部が小さく見えてきた頃、裏通りでルーは見覚えのある少年を見つける。

「あれはモナルカさんと…、隣の綺麗な女性は誰かしら?」

 邪魔したら悪いかしら?と思いはしたが、現在の状況を考えると、どうしても手を借りる必要があると判断したルーは、意を決してモナルカに声をかける。

「あの、すいません。モナルカさんですよね?」

 まるで先程まで声をかけてきていた男達のようだな…。と、ルーは心の中のもう一人の自分が、そう感想を漏らしたのが聞こえた気がした。

 モナルカは振り返ると、ルーを覚えていたのだろう、あー、とでも言いそうな顔をする。

「確か、ルーさんでしたよね、お久しぶりです。こんなところでどうかされましたか?」

 首をかしげるモナルカに、

「お久しぶりです。覚えていてくださいましたか、良かったです。私は今ギルド本部で用がありまして、今はその休憩中でして」

「そういえば、ルーさんは委員会の方でしたね」

 納得したように頷くモナルカ。

「はい、それでですね、モナルカさんにお願いがあるのですが、聞いてもらえませんか?」

 真剣な眼差しでモナルカを見つめるルー。

「なんでしょうか?私に出来る事なら良いのですが」

「はい、あのですね…」

 そこでルーは気にするようにティトルの方に目線を送る。

「あぁ、彼女の事ならお気になさらずに。彼女はティトルと言いまして、私の旅の手助けをしてくれている方です」

 ティトルが軽く頭を下げると、ルーも慌てて頭を下げる。

「はじめまして、私はルーと言います」

 少し早口気味にそう名乗ると、気を取り直すように小さく息を吐き出すと、モナルカに正対する。

「では、率直に言いまして、魔物退場に貴方の力を貸してくださいませんか?」

 ルーの言葉に、モナルカは迷わず頷くと、

「分かりました、詳しいお話をお聞かせください」

 モナルカのその迷いのなさに、ルーは一瞬意外そうな顔をするも、すぐに気を取り戻して言葉を続ける。

「…では、ギルド本部で詳しい説明をしますので、ついてきてください」

「分かりました」

 モナルカが頷くのを確認すると、ルーはギルド本部へと歩きだす。

 モナルカとティトルの二人は、静かにルーの後についていった。


「どうぞ、中に入ってください」

 ギルド本部に到着すると、そのままギルド本部内の一室へと案内される。

「ここは?」

 そこは散らかってこそいなかったものの、明らかに誰かが使っている部屋であった。

「ここはギルド本部での私の部屋です。今はまだ個人的な依頼の段階で、他の部屋が使えないので。…散らかってはいますが、そこは我慢していただければと」

 申し訳なさそうにしながら、椅子を二脚用意するルー。

「どうぞ、使ってください」

 そう言うと、ルーは別の部屋へと移動する。

 しばらくすると、資料だろう紙の束を抱えて戻ってくる。

「それでは、説明しますね」

 ルーは持ってきた紙の束から何枚か取ると、モナルカとティトルに差し出す。

「事の発端は、おそらく以前にあった王都方面への魔物の移動だと思われます。モナルカさん達はその件についてはご存知ですか?」

 ルーの問いに、二人は頷く。

「それは良かった。それでですね、その件の後は魔物の移動は確認されていなかったのですが、先程渡しました資料に書いてあります通り、現在、王都方面への魔物の移動が可愛く思えるぐらいに、大量の魔物が移動を開始しています。報告によりますと、大型の魔物が確認されている一群も複数あり、その魔物達の対処の為に、私達委員会がギルド本部に招集されている状態です」

「そして、私達にそれの退治を依頼したいと?」

 モナルカの問いに、頷くルー。

「どうでしょうか?」

「それは構いませんが…」

 ぱらぱらと手元の資料をめくりながら、資料に落としていた視線を、ルーに向けるモナルカ。

「街の防衛を優先して、動きが鈍いですね…」

「ええ、そうなんです。ただでさえ人手不足なのに、移動先の街や村の防衛を優先しているから、守勢に回って中々思うように魔物の数を減らせてないのです」

「もういっそのこと、この大型が来た時の対処の避難指示を、予測進路上に在る全ての村や街にすれば良いですのに」

 ティトルが面倒くさそうに呟く。

「その後の事を考えると、現状守勢に回っているとはいえ、なんとかなってるだけに、そう簡単にはいかないのですよ」

 ルーが首を左右に緩く振る。

「相変わらず人は面倒な事が好きですね」

 フッと皮肉めいた笑みを浮かべるティトル。

「…この資料にある魔物達の目的地は、ノーア荒野というのは確かですか?」

 モナルカは一枚の資料をルーに向ける。

「ええ、まだ予測の段階ではありますが、ほぼ間違いないかと」

「そうですか…」

 ルーの答えを聞くと、モナルカは顎に手を置いて、何事かを考えはじめる。

「何か気になる事でも?」

 モナルカのその様子に、首をかしげるルー。

「そうですね、ルーさんには一応話しておいた方がいいかもしれませんね」

 モナルカはティトルに目線を向ける。

「モナルカ様のお好きなように」

 ティトルの答えにモナルカは一度頷くと、ルーに向き直る。

「信じてもらえないかも知れませんが…」

 そう前置きをすると、モナルカは、世界を消滅させる者についての要点だけをルーに説明する。

「…世界が幾度も滅んだなど、にわかには信じられない話ですが…。しかし、現状、魔物は移動をしていますし、私達にはその理由が未だに説明出来ないのもまた事実です。それに、モナルカさんがそんな嘘をつくとは思えませんので、…信じるしかないですね」

 困惑した口調で答えるルー。

「ですから、魔物退治は私達も協力致しますが、もしもの時は、付近の人々とギルド関係者を避難させる事も考えていてください」

「それは分かりますが、しかし、避難とはどこに?それに、そんな化け物を放っておく訳には…」

「避難は神殿や遺跡に、あそこはほとんどに神の加護があるので、世界を消滅させる者でも簡単にどうこう出来る場所ではないので」

 ティトルがいつもの淡々とした口調でそう告げる。

「世界を消滅させる者の相手は私がしますので、大丈夫ですよ」

 安心させる為だろう、穏やかな声で語りかけるモナルカ。

「神殿や遺跡の数は限られてますし、規模も小さいのが多く、全ての人間は入りきらないでしょうし、そこまで強くはないとはいえ、場所によっては魔物だっています。それに、世界を消滅させる程の存在相手に、いくらモナルカさんでも無理があります」

「入りきらない人間は、モナルカ様が世界を消滅させる者に勝つ事を祈るしかないですね」

「そんな事――」

「モナルカ様は今代の救世主様です、世界を消滅させる者と対をなす救世主様が勝てないようなら、他の者ではいくら束になろうとも絶対に勝てません。それに、他の方が近くに居ると、モナルカ様の足を引っ張る事になりますので」

 ティトルは変わらず淡々とした口調で話すが、最後の方には、その口調にわずかに鋭さが混ざったような気がした。

「わ、わかりました。では、その時は避難を優先しましょう。ですが、近くにモナルカさんが居ない場合は、私達も戦いますので」

 ティトルの言葉に、少し気圧されたルーだったが、すぐに気を取り直して反論する。

「それで良いかと、多少の時間稼ぎぐらいにはなるでしょうから」

 何かを思い出したのか、冷めた目をルーに向けるティトル。

 その後、各ギルドの動きを確認して、モナルカとティトルはギルド本部を後にする。


「せっかくギルド本部に入れましたのに、オグンさんという方に会わなくても良かったのですか?」

「…知りたい情報は手に入れましたから、その必要はないかと」

 ティトルの言葉に、抑揚の少ない声で答えるモナルカ。

「それならば良いのですが」

 モナルカは城門に向けて歩みを進める。

 モナルカとティトルの二人の担当は、大型の魔物が確認されている一群だった。

「魔物を倒していけば、世界を消滅させる者の力を多少は弱める事が出来ますかね?」

「僅かかも知れませんが、影響はあるかと。理想としましては、残した魔物で世界を消滅させる者がギリギリこの世界に顕れるだけの魔力がある状態ですね」

「…余剰魔力は吸収されるんでしたね」

「はい、吸収された魔力は、その分世界を消滅させる者を強化してしまいますから」

 はぁ、と、モナルカは面倒くさそうにため息を吐く。

「それじゃまぁ、頑張りますか」

 モナルカは城門を出ると、全然やる気を感じない声音で、そう気合いを入れた。

 二人はとりあえず、予定通りに行動する事にした。

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