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魔物

「魔物が移動している?」

 ギルド本部のとある一室、そこに集まった九人の内、一番若い男が驚きの声をあげる。

「オグンさんそりゃ、この前の話じゃないんですか?」

 その問いに、オグンは首を左右に振る。

「ロンくんの疑問も分かるが、この前のとは別件だよ…いや、もしかしたらこの前の続きの可能性もあるが…」

「続きですか?」

「ああ、推測でしかないが、もしかしたら今回の移動も、この前の移動と同じなのではないかと思ってな」

「どういう――」

「魔物逹に明確な目的地があると?」

 ロンの言葉を遮って、長髪の男がオグンに質問する。

「ああ、ミリュンくんの指摘通りだ。こちらもまだ明確な情報が有る訳では無いから断言は出来ないが、王都南東に位置する周辺、ノヒンの南方に広がるノーア荒野が目的地だと思われる」

「ノーア荒野と〜、一口に言っても〜、広すぎるんですけど〜」

 やる気無さそうに座っていた赤髪の女が、手を上げながら間延びした声をだす。

「マミくんの意見も当然だが、特定は情報が無い今の段階では難しい」

 手元の資料や報告書に目を落としてため息を吐くオグン。

「この報告書以上の情報は無いのですか?」

 配られた報告書に目を通していた、目元の涼しい生真面目そうな女性がオグンに質問する。

 オグンは申し訳なさそうに首を左右に振ると、

「ルーくんの期待に答えたいところだが、その報告書以上の情報は今のところないな。新しい情報も入ってきてはいないのでね」

「そうですか」

 軽く頭を下げて礼をするルー。

「結局、魔物が移動している以外には分からないという事かの。まぁ目的地の大まかな推測は出来たようだがの」

 白髪に白髭の老人が髭を撫でながら声をだす。

「そう言いますな、トレーシー殿。大きな被害がでてないというのは善き事ではないですか。それに、ノーア荒野に集結するかも知れないと分かっただけでも意味がありますよ。今回の委員会の会議の議題は、魔物の移動についての情報の共有と、その対処についてどうするか、なんですから」

 トレーシーの隣に座っているファンが、穏やかな口調でたしなめる。

「むぅ、では、どう対処すれば善いのですかの?移動している魔物を一群ずつ叩きますかいの?」

「それも一案だけど、時間がかかるね。というか、魔物の数が多すぎて人手が足りないよ。それに、報告書によれば大型が確認されてる一群もあるらしいし」

 そう言うと、無精髭の男は肩をすくめる。

「カールの言い分も分かるが、地道に潰すんじゃないなら合流させて叩くのか?それはそれで大変だぞ」

 隻眼の男は、鋭い視線をカールに向ける。

「ハハッ、何言ってんですかヨーキさん。一群ずつ地道に潰してても、時間かかりすぎて結局合流されますよ。それに、大まかに、とはいえ魔物達の目的地が分かってるんですから、そこに罠を仕掛けとくって手もありますよ」

 カールは手招きするように手を振ると、気軽に答える。

「我らがやれる事はそう多くはない」

「ルーの言う通りですね、我らのやれる事は魔物を叩くか、魔物が集結するのを見守るかぐらいでしょう。見守ると言っても、人々に危害がでないように気をつけて、ですが」

「ミリュンさんは見守るのも有りだと?」

「それも選択肢の中にはある。という話ですよ、ロン君」

「叩くにしても~、ちまちまやって~、集まった~、残りを~、叩くしか~、ないみたいな~」

 部屋の中を沈黙が包み込む。

 しばらくして、オグンが疲れたように発言する。

「では、今まででた案を検討してみますか」

「とりあえず、魔物を叩くのか、叩かないのかかの?」

「トレーシー翁、見守るという選択肢は最初からないかと」

「まぁ、ルーの言うとおりじゃの。では、どうやって叩こうかの?」

「そっちは意見全部試せばいいんじゃないですか?まず個別に叩いて、集まったら集まったの叩いて、ついでにノーア荒野にも罠仕掛けといてって感じで」

「ロンくんの意見通りですね。後は確認されてる大型にどう対処するか、だが…」

 そこまで言ってオグンは困ったように黙り込む。

「今のところ大型は多くて一群にニ体ですか。…まぁ、それでも十分厳しいのですが」

 報告書を読みながらファンが呟く。

「ここに居る全員でかかっても大型ニ体同時は厳しいぞ」

 ヨーキの発言に、委員会の九人に緊張を帯びた沈黙が訪れる。

「この中で大型を倒した経験がある方は…」

 ロンがおそるおそる質問する。

「ワシ以外にファン殿、オグン殿、ルーにヨーキに…カールもだったかの?」

「ええ、一体だけですが昔に。というか、この中で大型を倒した経験ないのはロンだけでは?」

「え?そうなんですか!…では、一体ずつならなんとかなりませんか?」

「一体ずつならまだ可能性は高いが、それでも犠牲は結構でるぞ」

 ロンの言葉に、ヨーキが鋭い視線を送る。

「そうですか…」

 しょんぼりとするロン。

「………」

 そんなやりとりを聞きがら、ルーは一人の少年の事を思い出す。

(確か名をモナルカと言いましたか)

 とある遺跡を調査した際にたまたま出会ったその少年は、遺跡の外に突然現れた大型の魔物を鎧袖一触、ルーが何をしたのかすら理解出来ない程簡単に倒してしまった。

(彼に…モナルカさんに協力の依頼が出来ればいいのですが)

 その一度会っただけで、今どこに居るのかも分からないその少年に想いを馳せて、小さくため息を吐くルー。

 結局、大型を後回しにして各個撃破していく事に決まり、今回の委員会の会議は終わったのであった。







 ざわざわと街の入り口が賑わっていた。

 人だかりが出来たその光景に、イスカとクイナの兄妹は見覚えがあった。

「あれは…兄様がお帰りになられたのかしら!」

「あの人だかりは多分そういうことだと思うよ。ぼく達も行こうか」

 イスカとクイナは嬉しそうに顔を見合わせると、人だかりに向けて走りだした。

「すいません、今日は少し寄っただけですから、また今度にでも――」

 イスカとクイナが人だかりに近づくと、モナルカの困ったような、嬉しいような、人だかりを解散させる時のいつもの声に、今回は申し訳なさそうな声音が混じった声が聞こえてくる。

 二人は、逸る気持ちを抑えて何とか人だかりをかき分けると、人だかりの中心へとたどり着く。

「兄ちゃん!」

「兄様!」

 視界に入り込んだモナルカに向けて、大声で呼び掛けるイスカとクイナ。

 その声に反応して二人の方へ顔を向けるモナルカの後ろに、少し距離を取ってモナルカ達を見守るように立っている、もの凄く美しい女性が視界に入る。まさに絶世の美女という言葉を体現しているようであった。

 人だかりを作っている人々もちらちらと目線を送り、その美人さんの周りだけ不自然に人々が距離を取ってるところから、皆も気にしているのは間違いなかった。

「おや、イスカとクイナは買い物ですか?」

 そんななか、美人さんになど気にも止めずにイスカとクイナに話しかけてくるモナルカ。そんな態度もあって、美人さんがモナルカの連れなのだろうと予想したイスカとクイナ。

「はい、夕御飯の材料を…えっと、兄様、そちらの綺麗な女性はどちら様ですか?」

 戸惑いながらも視線をモナルカの後方に向けるクイナ。

 その問いに、モナルカは確認するように後方に視線を向けて、

「あぁ、彼女はティトル。旅の連れですが、気にしなくていいですよ」

 そう何でもない事のように話すと、モナルカは再度人だかりを散らそうと奮戦する。

 気にしなくていい。と言われても、物凄く気になるイスカとクイナは、とりあえず人だかりを解消させようとしているモナルカを手伝う事にする。

 しばらく三人で奮闘すると、やっと人々が散って、先程よりも静かになる。

「ありがとうございます、イスカ、クイナ。助かりました」

 イスカとクイナの二人に軽く頭を下げるモナルカ。

「いえ、それよりも兄様。兄様が旅に誰かを連れていくなど珍しいですが、急にどうしたのですか?」

「んー、ちょっと大きい獲物と戦う予定が出来ましてね、それの案内役に彼女が必要なのですよ」

「そうなんだ、ぼくは兄ちゃんの恋人かと思ったぞ」

「ハハッ、違いますよ」

 イスカの言葉にモナルカは軽く笑うと、肩をすくめる。

「さて、私たちは武器庫に用がありますのでこれで。今回は一泊だけしていくので、夕御飯一人分追加でお願いします」

 モナルカの言葉に、首をかしげるイスカとクイナ。

「二人分ではなく一人分でいいんですか?」

「ええ、ティトルは食事をしませんので、寝る場所さえあればそれで大丈夫ですよ」

 モナルカの言葉に、再度首をかしげるイスカとクイナ。

「食事をしないってどういう事だ兄ちゃん、腹減ってないって事か?」

「いえ、彼女は人ではないので食事が不要なだけです」

 モナルカがさらりと話すせいで、二人は一瞬それを聞き逃してしまう。

「人ではないとは?」

 確かにこの世のものとは思えない美貌をしていると思うが、だからといって人ではないと言われても、はいそうですか。と納得は出来なかった。

「彼女は魔法人形でして、要は人の形をした魔力の塊です」

 そうモナルカが改めてティトルを紹介すると、軽く頭を下げるティトル。

「魔法人形?そんなこと…」

 あまりに常識から逸脱したその存在に、何と言えばいいか分からなくなるイスカとクイナ。

「まぁとにかく、そういう訳ですから夕御飯の追加は一人分でお願いします。それでは、私たちは武器庫へ行きますのでこれで」

 モナルカは二人に軽く頭を下げると、武器庫へ向けて歩きだす。

「モナルカ様は人気者ですね」

 モナルカの後をついてきたティトルがそう話しかける。

「この街でだけですよ。他の街ではそんな事ないですから」

 ティトルの問いに、肩をすくめてそう答えるモナルカ。

「いえ、例えこの街だけだろうと、人気者なのには変わりありませんし、それは十分に凄いことだと思いますよ」

 どこか事務的な口調で淡々と話すティトルに、モナルカは苦笑いを浮かべるのであった。

「着きましたよ」

 モナルカは一件の小さな家の前で立ち止まる。

「ここが、武器庫ですか?」

 どこからどうみても武器庫というより民家な外観に、首をかしげるティトル。

「ええ、この家の中に武器庫への入り口があるんですよ」

「あぁ、なるほど」

 その言葉に納得するティトル。

 中に入ると、やはり普通の民家で、誰かが生活しているらしかった。

「実はここ、私の自宅なんです。普段は先程の二人が住んでいるんですけど」

 そう話すモナルカは、家の床の端の一ヶ所に触ると、慣れた手つきでそこの木の板を外す。

 木の板の下には、蓋のような扉があった。

 その扉を持ち上げるようにして開くと、中から地下へと続く階段が現れる。

「それでは、行きましょうか」

 モナルカは躊躇なくその階段を降りはじめる。ティトルもその後に続いた。

 モナルカが魔法で出した光源を頼りに、薄暗い視界の中、回るように地下へと続いている階段を降りていくと、階段が終わり、頑丈そうな扉が現れる。

 モナルカは、どこからともなく取り出した不思議な形をした鍵を使い、扉を開く。

 扉の先には小さな部屋があり、そこには沢山の武器や防具が並んでいた。

「これは全てモナルカ様が?」

 ティトルは、部屋に並ぶそれらを見て驚嘆の声を出す。

「ええ。まぁニ、三程自作ではないのが交ざってますが、概ね私の作品です」

 部屋に並ぶ品々を一つ一つ手にとって、丁寧に確認しているモナルカ。

「これ程の出来の品は今まで見たことがないですね。さすがはあの意思のある剣を造ったお方です」

 ティトルのいつもの淡々とした口調に、僅かに興奮の色がみえ、本気で称賛している事が窺えた。

「それでもやはり、貴女のような存在は、今の私には創れませんがね」

 そう言って肩をすくめるモナルカは、どこか悔しそうであった。

 武器庫の点検が全て終わり、扉の鍵を掛けると、来るときに降りてきた階段を、今度は昇りはじめる。

「さて、装備は大丈夫としましても、あの装備で勝てるかどうかですが…」

 ちらりと、後をついてきているティトルを見るモナルカ。

「前回までの世界を消滅させる者ならば、先程の装備で勝てたでしょうが…」

 そこで一瞬口ごもるティトル。

「今回は分かりません。世界を消滅させる者は、回を重ねる毎に強くなってますので…」

 ティトルは首を左右に振ると、言いにくそうにそう言葉を紡ぐ。

「強く、ですか…」

「はい、世界を消滅させる者は、吸収した力で魔物を生み出すだけではなく自身の強化も行うので、回を重ねる毎に強くなっていくのです。ですが…」

 ティトルはそこで言葉を切ると、じっとモナルカを見つめる。

「世界を消滅させる者の強さに比例して救世主様の力も回を重ねる毎に強くなっているようですので、まだ希望はあります」

「ですが、まだ一度も勝ててないのが現状、…なんですよね」

 ティトルの視線を正面から受けて、モナルカは普段の抑揚のない声で答える。

「いえ、今代の救世主様は今までの救世主様と違うようなので、わたしはとても期待していますよ」

 そこで不意ににこりと微笑むティトル。

「……はぁ、まぁ期待を裏切らないように努力しますよ」

 僅かに視線を逸らすと、力なく答えるモナルカ。

「ええ、期待しています」

 それに嬉しそうに微笑み続けるティトルであった。

「ただいま〜」

「ただいま戻りました」

 モナルカが地下への扉の上に木の板を戻し終えた時、ちょうどイスカとクイナが買い物から帰ってくる。

「おかえりイスカ、クイナ」

 二人を迎え入れるモナルカ。

 二人はそのまま夕御飯の仕度を開始する。

 モナルカとティトルはそれを静かに見守る。

 程無くして夕御飯が出来上がると、ティトル以外の三人は食卓を囲む。

 その間ティトルは、席にはつかず、部屋の隅で置物のように静かに座っていた。

 その後も、大人しく座っているティトルに、イスカとクイナは上手く馴染めないまま夜が明けてしまったのだった。


「それでは、行ってきます」

 翌日、モナルカとティトルはイスカとクイナに見送られてアーヘルを後にする。

「次はどちらへ?」

 アーヘルを出てすぐに、ティトルがモナルカにそう訊いてくる。

「ああ、そういえば、訊きそびれてましたが、世界を消滅させる者の出現場所や、出現時期は分からないので?」

 モナルカはティトルの方を向くと、思い出したようにそう問いかける。

「どちらも不明ですが、わたしが目覚めたということは、近いうちに出現すると思われます。出現場所についてですが…、今までの経験から、魔力が極端に強くなっている場所や、魔物が集まっている場所に出現する可能性が高いと思われます」

 ティトルの言葉に、怪訝な表情になるモナルカ。

「何故、世界を消滅させる者の出現場所に魔物が集まるのですか?」

「魔物が自主的に集まるというより、世界を消滅させる者が魔物を呼び寄せている。と、言えば良いでしょうか。世界を消滅させる者がこの世界に顕れるのには魔力が必要で、魔物はその必要な魔力の為であり、世界を消滅させる者が顕れる際に消耗した自らの魔力の補充に取り込む為だと思われますが、詳しくは分かりません。わたしとは生みの神が違うので、まだ完全には理解出来ていないのです」

 申し訳なさそうに首を左右に振るティトル。

「世界を消滅させる者は自身を出現させるのに魔力が必要なのですか…。ふむ、確か少し前に魔物の移動騒動がありましたね、ということは…」

「厳密に言えば違うのでですが、世界を消滅させる者とわたしは同じ魔力体ですので、一度姿を崩した後に、再度実体化するには身体を形成する為の魔力が必要になります。それも、世界を消滅させる者程の存在を実体化させるのですから、かなりの量が必要です。なので、魔力が高まっている場所か、足りない、もしくは無い場合は魔物を集めて魔力に戻す事で、その場の魔力量を強制的に上げるのです。元々、世界を消滅させる者が吸収した存在をわざわざ魔物という存在に作り替える理由の一つがそれですから。つまり、おそらくその魔物の移動は世界を消滅させる者の出現が近い為かと。それならばすぐにまた、魔物の移動が確認されていると思うのですけれど…」

「……一度王都に立ち寄ってみますか、もしかしたら有力な情報が得られるかも知れませんので。それと、もしその移動している魔物を全て倒せれば、世界を消滅させる者は実体化出来ずに終わるんですかね?」

 首をかしげるモナルカ。

「最初に言いましたが、現在の世界は拾七回目の世界です。世界が終わる度に魔物は増えていきますので、現在の魔物の総数はかなりのものになっていると予測出来ます。ですから、いくらモナルカ様でも全ての魔物を倒すのはほぼ不可能かと」

「ほぼ、なんですね」

 僅かに驚くような、呆れるような表情になるモナルカ。

「ええ、やり方次第では可能かも知れませんから。しかし、よしんば魔物の殲滅に成功しても、相手は『破壊』の神が世界を消滅させる為に自ら産み出した存在、魔物を殲滅しただけで阻止出来るとは到底思えません。おそらく、実体化する為の他の方法が存在するはずです」

「…ですよね、さすがにそう簡単にはいきませんか。まぁとりあえず、次の目的地は王都で決まりですかね」

 モナルカは王都に向けて歩みを進める。ティトルはその後に続きながら、

「王都とは、どのような場所なのですか?」

 今の世界に詳しくないティトルは、モナルカにそう問いかける。

「そうですね…」

 モナルカは顎に手を置き、どう説明しようかと考える。

「昔の呼び方は知りませんが、現在ペドゥール大陸と呼ばれているこの大陸は、ラソル王国という一国が統治しています。そのラソル王国の首都が、今から行く予定の王都サピオで、世界の中心と呼ばれる程に人も店も何もかもが賑わっている場所です。特に、首都の名前の元にもなった王城サピオや、ギルド本部などが有名ですね。観光なら王城、困り事ならギルドへ。という感じで、ギルドが盛んな場所ですから」

「一国が統治…ですか、それは凄いですね。…しかし、ギルドはいつの世界にも在るんですね」

 少し可笑しそうにするティトル。

「そうなんですか、いつの世界も助けを求める人が後を絶たない。という事ですかね」

「賊に魔物、争いに失せ物…と、人の悩みは幅広いですから」

 やれやれと言わんばかりに軽く首を左右に振るティトル。

「まぁ…、わたしはそんな人間を理解したいと思っているのですがね」

 どこか寂しげな輝きがティトルの瞳に映る。

「なるほど、だから貴女は傍観者なんですね」

「傍観者、ですか?」

 モナルカの呟きに、不思議そうに目を丸くすると、首をかしげるティトル。

「ええ、今の貴女は観る側の存在のように見受けられます」

「観る側………。なるほど、もしかしたらそうなのかも知れませんね。自分ではそんなつもりはないのですが」

 困ったように目を伏せるティトル。

「ティトルさんは長く生きてらっしゃるようですから」

 そんなティトルに穏やかに微笑みかけるモナルカ。そうやって微笑みかけるモナルカが、何故だかティトルにはとても遠くの存在に感じられた。

(貴方は一体何者で、何を知り、何を思っているのでしょうか……)

 だからだろうか、この時初めてティトルは人間ではなく、一個人に強い興味を抱いたのだった。

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