わざとらしい笑顔
「あれ?モナルカじゃないか」
カルマが食堂に来ると、食堂の隅で静かに座っているモナルカを見つけて声をかける。
声をかけられた方に顔だけを向けるモナルカ。
「おや、兄さんも食事ですか?」
「あぁ、お前もか。…1人か?」
周囲を見回すように首を左右に振るカルマ。
「はい、先ほどまでライテさんも居たのですが」
「ライテさんが!…っていうか、今日は何してたんだ?ギルマスと話をしただけじゃないのか?」
「しましたよ、そのあとにギルドハウスを案内してもらってました。兄さんはギルドハウスで見かけませんでしたが、どちらへ?」
「今日はこっちに居るミリと街に出てた」
隣で様子を伺っていたミリを指差すカルマ。
「あぁ、貴女がミリさんですか。初めまして、兄さん…カルマの弟でモナルカと言います」
椅子から立ち上がると、ミリに頭を下げるモナルカ。
「あ、初めまして、カルマとコンビを組んでいるミリです。私を知っているんですか?」
モナルカにつられて慌てて頭を下げるミリ。
「ええ、ミリさんのご家族とはちょっとした縁で面識があったもので、その時にお話を聞きました。昨日もエドワードさんとサラさんにお会いしたさいに王都に居るという話を伺ってましたが、まさか兄と同じギルドでコンビを組んでいらっしゃったとは、驚きました」
「そうだったんですか!それは凄い偶然ですね」
目を丸くして驚くミリ。
「何でミリの家族と面識が?」
「長い間旅をしてれば色々な出会いがあるものですよ」
カルマの問いに、そう曖昧な答えを返すモナルカ。
「とりあえず座りませんか?」
カルマとミリに近くの席を進めるモナルカ。
「そうだな、その前にご飯取ってくるよ。モナルカはどうするの?」
「私はライテさんが持ってきてくださるらしいので、お構いなく」
「そ、そうか」
ライテの名前に僅かに緊張をみせながらも、ミリと食堂のカウンターに料理を取りに行くカルマ。
ここの食堂では、昼時はギルドメンバー各自が自前のお弁当を食べる空間の提供以外にも、食堂専用の出入り口が解放されて、一般の人も利用出来る様にカウンターで料理を注文して、それを受け取って食事をする事が出来るようになっていた。そして、食べ終わった後の膳は、自分で返却口に持っていくようになっている。夜になると食堂から酒場にもなるのだが、それはまた別の話。
カルマ達が料理を注文しに行っている間、静かに席に座っているモナルカ。
「どうぞ、お待たせしました」
横合いから料理が乗った膳をモナルカの目の前に置いたライテは、モナルカの隣に自分の分の膳を置く。
「隣、よろしいですか?」
わざとらしい笑顔を浮かべてそう訊いてくるライテに、
「どうぞ、私の隣でよろしければ」
少し芝居がかった口調で返事を寄越すモナルカ。
「ありがとうございます」
そんなモナルカの反応にライテはおかしそうに笑うと、礼を言って隣に座る。
「あぁ、そういえば先ほど兄さんとミリさんにお会いしましたので、相席になるかと」
先ほどの事を思い出して、そう話しかけるモナルカ。
「そうですか、分かりました」
ライテはにこりと微笑むと、カウンターの方へと目を向ける。
「注文は終えているようですね。それでは、少し待ちましょうか」
「ライテさんがそれでいいのならば、それで」
その言葉通りに、静かにカルマ達を待つモナルカとライテ。
そう待たずにカルマとミリが戻ってくる。
「ら、ライテさん、わざわざ待っていてもらってすいません」
料理に手をつけずに静かに座っている2人に、状況を理解したカルマは恐縮しながらモナルカの向かいの席に腰を下ろす。
ミリはカルマの隣の席についた。
「それでは食べましょうか」
ライテがそう言うと、手を合わせて4人は食事を始めた。
「お口に合いますか?」
食事を始めて少しして、ライテはモナルカが食べていた物を呑み込んだ瞬間を見計らってそう尋ねてくる。
「はい、とても美味しいです」
ライテの問いに穏やかな笑みを浮かべるモナルカ。
「それはよかった」
安堵の表情を浮かべるライテ。そんな2人の様子に、
「お2人は仲がいいですね」
笑顔を向けて話しかけてくるミリ。その笑顔には、からかうような趣があった。
「今日1日ギルドハウスを案内していただきましたからね、親しくもなるかと」
「そうですね、色々お話させていただきましたからね」
そんなミリを気にすることもなく答えるモナルカとライテ。
「…なるほど、そうですか」
悔しそうに答えるミリ。からかいがいがないと悟ったようであった。
それから食事を終えるまでは誰もしゃべらず静かに過ぎていった。




