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礼を言われるのが苦手

 次の日の昼頃、モナルカは再度『夜天光』のギルドハウスを訪れていた。

「いらっしゃいませ、お待ちしておりました」

 一礼して玄関でモナルカを出迎えるライテ。

「オグン様が書斎でお待ちです。こちらにどうぞ」

 そう言うと、モナルカを先導して静かに歩き出すライテ。

「先日はありがとうございました」

 モナルカがライテの後について歩いていると、ふいにライテは立ち止まりモナルカの方へと振り返ると、そう言って頭を下げる。

「礼を言われるほどのことはしてませんよ」

 モナルカは直ぐにライテが昨日のトレーネとゼンイの治療について謝辞を述べていることに気づくと、首を振ってそう言葉を続ける。

 モナルカにとって謙遜でもなんでもなく2人の治療は本当にたいした事ではなかった。トレーネについては自分の中での狂化の幕引きとして、ゼンイに関しては完全についでであったので、その事でお礼を言われても正直困ってしまうだけなのだが、ライテたちにとっては八方手を尽くしても解決せず、失望し絶望したなかで射した光のようなものであり、感謝してもしきれない出来事のようであった。

「あんなに苦しそうに暴れていたトレーネ様は、あれから薬を使わずとも安らかな寝顔で静かに眠っておられます。ゼンイ様も正常に魔力が巡りだしたと、お医者様も驚かれていました。気がかりだったお二方が治ってオグン様も大変晴れやかなお顔になり、モーリエ様も久しぶりに、本当に久しぶりに心からの笑顔をみせられるようになりました。何もかもがみなモナルカさまがトレーネ様とゼンイ様を治療してくださったおかげでございます」

 ライテはそう言うと、深く頭を下げて感謝の言葉を口にする。

「…まぁ、誰かの助けになったのならなによりです」

 返答に困ったモナルカは、そう当たり障りのない答えを返す。

 今まで沢山の狂化などの病気を治療してきたモナルカは、沢山のお礼の言葉を聞いてきた。

 正直、モナルカはお礼を言われるのが苦手だ。彼は自分がしたいことを勝手にしただけなのだから、そんな大層な言葉は本当に相手のことを思って行動した人に向けられるべきだ。そう考えてしまうからだ。

 だから、狂化の治療をした後に『あんたがもっと早く来てればこんな事には』とか、『お前が元凶なんだろう』などと、嫌味や悪意に満ちた言葉を言われた方がまだ対処は楽だったのを覚えている。

「…貴女は何故、そこまで感謝するのですか?」

 ライテの我が事のように喜ぶ姿に疑問を覚えるモナルカ。たしか彼女は『夜天光』の一員でメイドだと聞いている。

 モナルカの問いにライテは一度首を傾げるも、意味を理解したのだろう、軽く頷いて答えた。

「オグン様は今でこそ委員会の一員という肩書きが有名なギルドマスターですが、元々あの方は貴族なのです。私の家はそのオグン様の家に代々仕えてきた家柄で、私も先祖同様に幼少の頃よりオグン様にお仕えしています。ですから、こんな言い方は畏れ多いのですが、私にとってオグン様一家は家族同然だと思っております。家族を救って頂いた事に感謝するのは当たり前の事ではありませんか?」

「……それは、頭では理解出来ます。…不躾な質問にお答え頂きありがとうございました」

 そう言うとモナルカはライテに頭を下げる。もうこの話は終わったというかのように。

「…それでは、オグン様がお待ちですので、参りましょうか」

 何か言おうと口を開いたライテだったが、直ぐに思い直すとモナルカに背を向けて歩き始める。

 モナルカはそんなライテの気遣いに心の中で感謝しつつも、静かについていくのだった。


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