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研究棟

 王都北東にある、飾り気のない暗い灰色をした無骨な外観の建物。オグンが研究棟と呼ぶその建物の中にモナルカたちは入っていく。

 建物の中の通路は狭く、通路には一定の間隔で頑丈そうな扉が幾重にもあり、各所に警備の者が配置されていた。

(研究棟というより、監獄ですね)

 そんな頑丈かつ警備の厳重な建物の様子に、モナルカはそんな感想を抱く。

「着いたよ、ここが私の妻が居る場所だ」

 幾つもの扉を通ってたどり着き、部屋の扉が開くと、オグンが皆にそう告げる。

 目的の部屋の中央にはベッドが置かれ、動けないように人がベッドごと何重にも縛られていた。

 そのベッドの周りや壁際には、色々な機械が並んでいた。

(ここだけ見れば研究棟ですね)

 オグンのあとについてベッドに近づくモナルカは、周囲の光景を視界に収めながらそんなことを思う。

「これが妻のプローレだ」

 ベッドに拘束されている女性を紹介するオグン。

 そこには全身にチューブを刺した、やつれた女性が眠っていた。

「今は薬で眠らせてはいるが、それも短時間しか効かない。薬が切れるとまた暴れだしてしまうんだ。お願いだ、彼女を、妻を治してくれないか、苦しむ妻の姿を見るのは辛いんだ」

 すがるようにそうモナルカに訴えるオグン。

「モナルカくん、私からもお願い。私のお母さんを助けて」

「私からもお願い申し上げます」

 一緒に来ていたモーリエとライテもモナルカに向かって深く頭を下げる。

「俺からも頼む」

 一緒に来ていたカルマもモナルカに向けて頭を下げていた。

「…そこまで頼まれなくても、引き受けると言ったからにはちゃんと治療はしますよ」

 4人に一斉に頼まれ、モナルカは少し気圧されたのか、そう素っ気なく答えると、ベッドに静かに近づき、プローレの額に手を当てる。

「………」

 モナルカが額に手を当てると、直ぐにプローレの全身を淡い光が包み込む。

「………」

 暫くすると、光はモナルカの手が触れている額に収束して消える。

「………」

 光が消えてから暫く経つと、モナルカはゆっくりと額から手を離す。

「治療は終わりました。あと4、5日したら目を覚ますでしょう」

 オグンたちを振り返ってそう告げるモナルカ。

「ほ、本当に治ったのか?」

 あっさりと治療を終えたモナルカに、さすがに簡単には信じられないのか、そう確認するオグン。

「ええ。ただ体力の消耗が激しいので、回復の補助はしましたが、先ほども言いました通り、目覚めるには4、5日は必要かと思います。満足に動けるようになるには、頑張り次第ですが、更に数ヶ月から、それこそ年単位で時間が必要になるかも知れません」

 モナルカの説明にオグンは首を左右に振ると、

「狂化が治って目を覚ましてくれるなら、私はそれだけで満足だ。そのあとのことは少しずつこちらで解決していくさ」

 オグンはモナルカの方を向き、モナルカの手を取って頭を下げると、「ありがとう」と心から感謝の言葉を口にする。

「プローレ様をお助けいただきありがとうございます」

 そう言ってライテもモナルカに深く頭を下げる。

 モーリエは、「よかった、よかったよ」と呟きながら涙を流していた。

 そんな中、

「なぁモナルカ。狂化ではないけど、精神系の魔法の治療なら他の症状でも出来るのか?」

 カルマはモナルカに向き合うと、そう訊いてくる。

「全て、とは言いませんが、大体は可能かと」

「1人診てもらいたい患者が居るんだ。医師の話しでは、確か北方の魔物の角が似た症状を引き起こすとかなんとか言っていた症状なんだけど」

 カルマのその言葉に、頭の中から何かしらの記憶を引っ張りだそうとするように顎に手を置くモナルカ。

「それってゼンイの…」

 カルマの言う患者が誰を指すのかに気づいたモーリエ達は、プローレからモナルカに視線を移す。

「おそらくそれはフェス遺跡の魔物の事でしょう」

「知ってるのか?」

「この前まで私は北方に居ましたからね、フェス遺跡にも立ち寄りましたし」

「それで、どうなんだ、治療は可能なのか?」

 モナルカの返答に、勢い込んでモナルカにそう問うカルマ。

「私の予想通りの魔物が原因なら可能ですよ」

「!、じゃあ直ぐに行こう!」

 モナルカの答えを聞くやモナルカの手を取って、そう勢いよく言うモーリエ。

「それは構いませんが…、一応言っておきますが、精神系の魔法の治療はかなり神経を使うので、普通は数日から数週間は間を置くものですよ」

 そんなモーリエに真顔で注意するモナルカ。

「あ、そ、そうだよね。ごめん」

 モナルカの手を力なく離すと、しょんぼりと落ち込むモーリエ。

「それで、その患者とやらは今居るところはどこですか?」

「え?大丈夫なの?」

「先ほど言いましたよ、構いません。と。私の場合は何件も一気にこなすことには慣れてますからね、先ほどの注意は他の方に頼む場合についてです」

 そう言うと、踵を返して入ってきた扉に向かうモナルカ。

「あっ、ちょっと待って」

 慌ててモナルカのあとを追いかけるモーリエたち。

「治療…してくれるの?」

 来た道を戻るモナルカに、横からおそるおそる聞くモーリエ。

「ええ、治療可能なら。ですが」

 目線だけモーリエに向けて答えるモナルカ。

「ありがとう!優しいんだね」

 そんなモナルカに嬉しそうに笑顔を向けるモーリエであった。


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