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世界は大きく変わった

 その日以来変わらないと信じていたカルマの世界は大きく変わった。

 ヨール村では死者が7人も出た。内3人はカイトを含む狂化した患者だった。

 あの日以来村中の雰囲気は暗く、当時は狂化について誰も知らなかったので、疑心暗鬼な状態が続き、村を出ていく者もいた。

 そんな中でも特に酷かったのが、狂化したとはいえ、同じ村人を手にかけた人たちとその家族だった。

 直接的な暴力はなかったが、村中の人が距離を置き、露骨な嫌がらせが相次いだ。結果、カイト以外の2人を殺した者たちとその家族も村を去っていった。

 モナルカも例外ではなく、無視や遠巻きに観察されたり、陰口を叩かれたりと色々なことをされた。それはモナルカほどでなかったが、カルマやトレーネにも飛び火した。

 それでもまだそれは耐えることが出来た。

 あの日、死にかけたトレーネは一命をとりとめたが、左腕を失った。そして、精神を病んでしまった。

 トレーネにとってあの日以降もカイトは狂化せずに生きているようで、カルマはトレーネが楽しそうに誰も居ない空間に話しかけている姿を何度も目撃した。

 トレーネは片腕でもちゃんと料理が出来るようで、いつものように食事を作りテーブルに置く。テーブルに置かれる料理は3人分、置かれている場所はトレーネ、カイト、カルマが座っていた位置だった。

 あの日以降トレーネにとって自分の子どもは1人になった。

 モナルカが椅子に座る分には視界に入らないようだが、料理に触れようとすると、突然他人が現れたような反応をして、必要以上に怯えだす。

 トレーネのその反応はモナルカをいたく傷つけたようで、トレーネを見て何かに耐えるような苦しそうな表情をすると、自分の部屋へと戻っていった。

 それ以来モナルカはどこかへと何日も出かけることが増えていった。

 ある日、珍しく家に帰っていたモナルカに話しかけたことがあった。

『いつもどこに出かけてるの?』

『遺跡とか色々です』

 そうカルマの問いに答えたモナルカだったが、その口調はどこまでも平坦で、カルマに向けた顔はゾッとするほどに無表情で、目に光がなかった。

 それを見たカルマは、恐怖よりもただただ悲しかった。誰よりもよく笑っていたモナルカはもうどこにも居ないんだと、あの幸せだった時間はもう戻っては来ないんだと思い知らされたから、理解してしまったから。

 あの日から5年後の冬、急激に寒くなってきた頃に、母トレーネは亡くなった。結局トレーネは最後まで再度モナルカを自分の子どもとして見ることはなかった。

 今にして思えばあの日、もしかしたら母さんは父さんが死ぬ瞬間を見ていたのかも知れない。


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