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悪夢

 その日はとても寒い日だった。ヨール村に珍しく雪が降る程に寒かった。

 大人たちが家に引きこもるなか、子どもたちは、積りこそしなかったが、その珍しい雪にはしゃいでいた。

 そして、カルマたちが遊び疲れて帰宅した夕方、ヨール村では…いや、世界中で異変が起きた。

 後に狂化と呼ばれるその現象はこの日、世界中を恐怖と混乱の渦に貶めた。

 狂化自体はこの日より以前から存在が確認されていたが、一般にはほとんど知られてはいなかったのも原因であった。

 それはヨール村も例外ではなく、村人が突然暴れだした時には大変な騒ぎになったのは言うまでもない。

 カルマたち一家はその日もいつも通りに食卓を囲んでいた。

 始まりはカイトが急に立ち上がったことだった。

 何事かと視線を向けるカルマたち3人など気にせずにカイトは突然叫びだした。

『と、父さん!?』

『ッ!!』

『カイトさん?』

 突然の出来事に戸惑う3人、カイトは家族のそんな戸惑いに答えることなく、そのまま隣に座るトレーネに向けて魔力を纏わせて破壊力を増した右手を振り下ろす。

『えっ?』

 カイトの右手はトレーネの左肩辺りにぶつかり、そのままトレーネは後方に飛ばされ壁にぶつかる。

『きゃっ』

 何が起きたのか理解出来ないトレーネは、カイトの右手が当たった左肩に目を向ける。

『あ…え…?』

 そこには先ほどまであったはずの左肩から先が無く、大量の血が吹き出ていた。

 そのままトレーネは状況を理解出来ないまま気を失った。

『父さん!どうしたの!』

 カルマは父に向かって必死に呼び掛ける。

『………』

 そんなカルマに顔を向けたカイトは息をあらげ、目が血走り、カルマを自分の子どもとして認識出来ていなかった。

『ひっ』

 そんなカイトの様子にカルマは短く悲鳴を上げる。

『あ゛あ゛』

 カイトは目の前の料理が置かれているテーブルを殴り壊すと、そのままカルマに向けて先ほどトレーネの左腕を吹き飛ばした時と同じように魔力を拳に纏わせて襲いかかる。

『ッ』

 咄嗟にカルマは魔力で構築した防壁を目の前に張るも、カイトは気にせずその防壁ごとカルマを殴り飛ばす。

 カルマはそのまま後方にあった窓を突き破って外まで飛ばされる。

 カイトの攻撃はカルマの防壁を突き破っていたが、防壁のおかげで衝撃は大分軽減されていた。それでも地面に背中からぶつかった時は息が出来なかった。

『ウォォォ』

 カイトはカルマが突き破った窓に視線を向けたまま雄叫びを上げる、そんなカイトにふらつきながらもなんとか視線を向けたカルマはそこで息を呑む。

 視線の先では、雄叫びを上げるカイトの背後から、涙を流しながらも魔力を纏わせて刃物以上の鋭さを持った手刀をカイトの首筋目がけて振り下ろすモナルカの姿があった。

 モナルカの手刀が振り下ろされるとカイトの雄叫びが止み、大量の血液がカイトの首から吹き出る。

『父…さん?』

 そんな悪夢のような光景にカルマは頭が真っ白になる。この時によく壊れなかったものだとカルマは今でも思う。

『……ぁ…ぁ…』

 そんな悪夢の真っ只中にいるモナルカは、全身にカイトの血を浴びながらなにごとかを言おうと口を動かすが、その口から漏れる息は言葉にならず、茫然とカイトの首を刎ねて小刻みに震える右手と、目の前に倒れて首から血を流しているカイトとを見比べるように頭を動かす。その様子はまるで目の前の現実を拒んでいるようにも見えた。

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