俺も最初は驚いた
太陽が中天に差し掛かった頃、モナルカは伝言で残した通りギルドハウスを訪れていた。
「お久しぶりですね、兄さん。元気そうで何よりです」
出迎えたカルマに笑顔で挨拶するモナルカ。
「お前もな。昨日はすまなかったな」
「いえいえ、私も事前に連絡しませんでしたので、仕方ありませんよ」
申し訳なさそうにするカルマに、首を振って答えるモナルカ。
「とりあえず俺の部屋に行こうか、今はギルマスが居ないから紹介出来ないし」
そう言うと2階にある自室へと歩き出すカルマと、そのあとに続くモナルカ。
「昼過ぎにはギルマスも帰ってくるだろうから、その時にみんなには紹介するよ」
背中越しにモナルカに語り掛けるカルマ。
「そうですか、分かりました」
それにこくりと頷くモナルカ。
そのまま少しの間無言で歩くと、カルマの部屋に到着した。
「到着っと、ここが俺の部屋だよ」
「結構広いんですね」
中に入ると、5、6人は余裕で入れそうな部屋に、感心したように驚くモナルカ。
「な、俺も最初は驚いたよ。寝る場所と荷物が置ける場所が少しはあればいいな。程度に思ってたからさ」
モナルカのその驚きに同意するカルマ。
「とりあえず適当に座っといて、飲み物持ってくるから…お茶でいいだろ」
「はい」
モナルカが頷いたのを確認すると、部屋を出ていくカルマ。
モナルカは直ぐ近くに有った椅子に腰かける。
「……兄さんにしては物がない。というか綺麗に片付いた部屋だな」
部屋を見回したモナルカは、そんな感想を抱く。
ちなみに、生家でのカルマの部屋は散らかってごちゃごちゃしていた。
「お待たせ」
暫くするとカルマがお茶が入ったポットとカップ2つを載せたトレーを持ってくる。
それをテーブルに置くと、モナルカの向かいの椅子に座る。
「ほい」
カルマはカップにお茶を注ぐと、それをモナルカの前に置く。
「ありがとうございます」
カルマは自分の分も注ぐとトレーをテーブルの端に置き、テーブルに元々置いてあった個別に包装された小さなお菓子らしきものが色々入った入れ物をテーブルの中央に置く。
「ん、茶菓子、好きに食べていいよ」
その入れ物から茶菓子を1つ取りながらカルマはモナルカに薦める。
「王都への道中別れてからどうした、何か収穫はあったか?」
茶菓子を食べながらモナルカにそう問うカルマ。
「そうですね、まぁ色々と。とりあえず狂化については片がつきましたよ」
「そうか、さすがだな。これで父さんも少しは浮かばれるだろうさ」
カルマはテーブルの上に視線を落とす。その瞳はテーブルではなく、過去の何かを見ているようで、その声音も寂しそうなものであった。
「……これが1つの区切りにはなるでしょうが、死者は死者でしかありません、思い出の中でしか生きられない存在、救われるのはいつも生者のみですよ」
モナルカはカップからお茶を一口飲むと、カップの中に映る自分を見つめてそう呟く。
「…相変わらずだな、お前は」
先ほどまでとは違ってどこか余所余所しい口調のカルマ。
「そうですかね、これでもこの5年程で結構変わったと思いますけど」
そう言ってわざとらしく肩をすくめてみせるモナルカ。
「5年…か、長かったような短かったような…」
そう言うと、カルマは遠い目をして虚空を見つめる。
その脳裏には、今から約5年前の出来事が思い浮かんでいた。…色々なものが変わってしまったあの日の出来事を。




