つい興奮してしまって
「へ~」
あの後直ぐに衛兵が駆けつけて来て山賊は捕縛され、ゼンイは医療施設に搬送された。
カルマとモーリエは衛兵の屯所で事情聴取のようなものを受けた(カルマは王都の住民ではなっかたのでその辺りも一緒に訊かれた)帰り、ゼンイの見舞いにいく道中カルマがモーリエのブレスレットについて質問し、説明をうけているところであった。
「王都ではそんな通信機器があるんだ」
モーリエの話によると、ブレスレットについている縦6cm、横3cm、厚さ5mmほどの長方形の物体にボタンらしきものが三つついているそれは簡易式の通信機ということらしい。
「簡易式ねぇ」
その通信機を見ながらつぶやくカルマに、
「うん、登録した三か所しか連絡出来ないからね。各ボタンに一つずつ登録してあって、迅速に、簡単にがモットーらしいわよ」
「なるほどね」
「それにしても、さっきの魔法すごかったわね!」
思い出したのか驚きのまざった声で訊いてくるモーリエ。
「そう?」
対するカルマはいまいち実感のない声音で答える。
「ええ、人をあんなに簡単に縛っちゃうなんて並みの魔力じゃできないわ」
「そうなの?あんまりよくわからないけど…」
申し訳なさそうに頭をかくカルマ。
「人に干渉する魔法は難しいものが多いのよ、少なくとも相手より多くの魔力か、相手の隙をつく様な技術が必要だわ」
「へー、モーリエは物知りだね」
驚きの顔をするカルマに不思議そうな顔をするモーリエ。
「これぐらいは魔法学の初歩だけど…、それに学ばなくても経験で分かるものじゃない?」
「う~ん、俺がいた村には学校なんてなかったからな。それにあんまり難しいと感じたことはないな」
「そっか、地方と王都じゃその辺の事情も違うからね。それにあれだけの魔力があればそうかもね」
納得といった顔になるモーリエ。しかしそれも一瞬のことで、すぐに目を輝かせる。
「あとあの鎌!あれはどうしたの?あんな武器はじめてみたわ!」
話している内に興奮してきたのか、声が少し大きくなっている。
「鎌は弟に貰ったんだ、お守り代わりにって」
「そうなんだ!カルマの弟さんは魔工師なの?」
モーリエが目を輝かせながら近づいてくる。
「い、いや違うよ、あいつは魔工師というより……学者、かな…多分」
はっきりとしないという意味で答えにくい質問に声が少し小さくなる。
モーリエの宝石の様に透き通った赤色の瞳に見つめられ、心を見透かされそうな錯覚を覚えながらもなんとかそう答えると、
「そっか、じゃああれは弟さんが作ったものじゃないの?」
残念そうにうつむくモーリエ。
「いや、あれは弟が作ったものだよ」
カルマの答えに再び顔を上げると、
「そうなの!すごいよねあ…ッ」
そこでカルマとの距離に気付いたモーリエはハッとして離れる。
その顔ははずかしさで赤くなっていた。
「ご、ごめんなさい。私魔工師志望だからつい興奮してしまって」
言葉も尻すぼみになり、そのまま無言になる。
「えっと、ゼンイ大丈夫かな?」
むずがゆい沈黙に耐えられずカルマはモーリエにそう問いかける。
「うん、気を失ってるだけって話だったし、たぶん大丈夫だと思う」
屯所で気を失っているだけで命に別状はない。と教えてもらっているとは言え心配なものは心配なのだろう、モーリエの顔が暗くなる。
(こんな時に気のきいた事でも言えればいいんだけど)
屯所を出てから今まであえてこの話題には触れなっかったんだろうな。と気付くと、カルマはまいったというように頭をかく。
ふたりは無言のままゼンイのいる施設に向かうのだった。