元々魔物は謎だらけ
「おや、ステルさんそちらは終わったんですか?」
ステルがギルドハウスでの出来事を思い出して歩いていると、横合いからそんな声を掛けられる。
「ん?あぁ、こちらの探索は終わったよ。そっちはどうだ?」
ステルが声がした方を振り向くと、そこには同じギルドで、同じくこの依頼のメンバーに選ばれた新人コンビのカルマとミリの姿があった。
「こちらも先ほど終わったところです。今はイルカさんを待っているところで」
「あぁ、そういえばイルカさんもこの近くだったな」
ステルは今日の人員の配置を思い出す。
「ええ、色々助けてくれるので助かってます。魔物との戦闘にも大分慣れてきましたし」
「まぁ、いい経験になったって事だな。小型と中型の魔物だけだからまだ楽なものだし」
「話には聞いてるけど、大型の魔物ってそんなに強いんですか?」
ステルの言葉を受けて、ミリがそう質問する。
「あぁ、小型や中型と大型では文字通り桁違いに強さの差があるよ」
普段のどこかお気楽な雰囲気ではなく、真剣な顔つきで語るステルに、息を飲むカルマとミリ。
「ステルさんは大型の魔物との戦闘経験があるんですか?」
カルマの問いに頷くステル。
「今から8年程前に一度だけ、ファーブ遺跡でね」
その時の事を思い出したのか、自然と身体に力が入るステル。
「当時はまだ『夜天光』も結成して日が浅く、今ほど人が居なくてね。それでもオグンさんは既に委員会の9人の内の1人に選ばれていたほどの実力者だった。そんなオグンさんとイルカさん、それからパパンさんにマチルダさん、そして僕の5人でファーブ遺跡の調査隊の護衛の依頼を受けたんだ。そのファーブ遺跡の調査は、途中小型や中型の魔物との戦闘はあったが、問題なく終了した。だが、遺跡から出た時にヤツが居た。獅子に似た体に、人の様な顔をした、山の様に大きな魔物だった。僕達はみんな実力者揃いだったし、油断もしていなかった。だけど、ヤツとの戦闘でパパンさんとマチルダさんの2人は命を落とした。それだけの代償を支払っても何とかその魔物から逃げきるのが精一杯だった。護衛しながらだったとはいえ、あれは正真正銘の化け物だ、あんなのを倒すには実力者が2桁はいないと話にならないだろうさ」
そう話す途中から何かに耐える様に拳を握るステル。
「………」
そんなステルの様子に、大型の魔物の強さの一端を理解したカルマは言葉を発する事が出来ないでいた。
「…その魔物はその後どうなったんですか?」
ミリが硬い口調で質問する。
「さぁね。その後もたまに目撃情報はあったけど、…確か4年程前からだったかな、目撃情報が途絶えたまんまさ」
いつものお気楽な雰囲気に戻ったステルが、わざとらしく肩を竦める。
「そうなんですか、どこに行ったんでしょう?」
いつもの雰囲気に戻ったステルに、ミリもいつもの調子で話し掛ける。
「元々魔物は謎だらけで、解明されてない部分が多いからね。僕達が遭遇した時もいきなり現れたから、…あんなでかいのを見落とすはずはないし」
「基本的に魔物は遺跡から離れないっていうのも、今のこの状況では説得力もないですしね」
調子を取り戻したカルマがそう述べる。
「ほんとにな。まぁ、案外あの大型の魔物はどっかのギルドが倒してたりしてな」
冗談混じりにステルがそう言った時、イルカが到着し、3人に合流したのだった。




