もう少しで王都だな~
「それではここで」
王都まであと一日程のところにある分かれ道でモナルカはカルマに別れを告げる。
「じゃな、たまには会いに来いよ」
北に向けて歩き出した弟の背中にそう声を掛け、カルマは王都へと歩みを進めた。
モナルカは調べものをしに北へ向かうので特定の場所には留まらないからと、王都に居を構える予定のカルマの許にたまに顔を見せに来ると言う約束をしているのであった。
移動に魔法や乗り物を使わないのはモナルカはついでに調査をするため、カルマは今まで村から出たことがなかったため外の世界の空気を感じたいからと言う理由から。
「もう少しで王都だな~」
鼻歌でも歌いそうなほど足取り軽く王都を目指すカルマだったが、王都が見えて来た頃、
「たすけて」
近くの森から少女のものらしき声が聞こえた気がした。
「………」
あまりに微かで気のせいかと思い一瞬逡巡するも、カルマは声が聞こえたと思しき方向に走り出した。
「たすけて」
森に入って直ぐ、今度ははっきりと聞こえた声にカルマは魔法も使い駆けつける。
声がしたところに到着するとそこには、年の頃はカルマと同じぐらいの少女が足下に倒れている少年を抱え、怯えた眼差しで五人の男を睨みつけていた。
「ハッ、いくら呼んでも助けは来ないぜ」
へへへと下卑た笑いを浮かべ、他の仲間と視線を交わし、五人は少女を囲む様に動く。
「いや、来ないで」
少女はなんとか後じさろうとするも、しゃがんで少年を抱えている状態では思うように動けず、少女の顔は一層怯えの色が濃くなる。
「とりあえず」
カルマは五人の男を魔法で縛り、動きを止める。
「ん?!」
急に身体が動かなくなり驚きと焦りの色を浮かべる男たち。
「そして」
カルマは一本の大きな鎌を顕現させると、それで男たちをひとりひとり刈っていく。
刈られた男たちは真っ二つに……ならず、かわりに意識を失っていく。
それを確認するとカルマは男たちを縛っていた魔法を解き、倒れた時に頭を打たないように衝撃を吸収する魔法をかける。
「いや~さすがモナルカ作の武器だけあってすごいな」
戦果に改めて驚き、モナルカが念のためにとくれた大鎌に目をやる。
「あ、あの」
恐る恐る声をかけてくる少女の声にカルマは大鎌にむいていた意識を少女と少年にむける。
相変わらず少年は倒れていて遠くからでは意識があるのかないのかよくわからなかった。
「大丈夫?」
カルマがそう声をかけると、
「は、はい大丈夫です」
警戒しながらも、怯えのない声で答える少女。
「えっと……」
なにから聞けばいいものかと考えていたからか、
「俺はカルマだ、ここでなにを?」
という漠然とした質問になってしまった。
「私はモーリエ、この子はゼンイ、私の弟よ。ここには木の実を採りに来たのだけど、山賊に襲われて……」
先ほどの事を思い出したのか微かに震えると、
「でもこんな王都に近い場所に山賊なんていなかったはずなんですが…」
倒れている山賊を見ながら不思議そうにそう言うと、何事か考えるように視線を彷徨わせるモーリエ。
「その辺はよくわからないけど、とりあえず王都に戻るか衛兵でも呼ばないか?」
カルマの言葉に思考を巡らしていた意識をカルマに戻すと、うなずきブレスレットについた小さな長方形の箱をいじりると、その箱に向かって何事か喋り終えるとこちらの方を向く。
「もうすぐ衛兵が来ると思うわ」
よくわからないが衛兵が来るらしい、その事実に安堵したのかぎこちないながらもモーリエは笑顔を浮かべたのだった。