弟なんて生意気なもの
あれからしばらく経ち、モーリエが落ち着いた頃に二人は話を再開した。
「ごめん、取り乱して。もう大丈夫だから。それと…泣いたことはみんなには秘密にしてね」
気まずい雰囲気に目線を泳がせながらも、カルマにそう頼むモーリエ。
「それはもちろん約束するよ。今回は俺も悪かったし」
モーリエの言葉に気落ちした声で答えるカルマに、
「そ、それにしてもモナルカ君…だっけ?あんなの造るなんてスゴい技術だね」
わざとらしく声のトーンを上げるモーリエ。
「うん、昔からあいつはすごかったからね。恥ずかしいけど俺の記憶が正しければ、俺は今までに1度も弟に勝ったことがないからね」
そう言うと、ふっと寂しそうに笑うカルマ。
「ま、まぁ弟なんて生意気なものだからね!ゼンイだって結構やんちゃだったんだから」
そんなカルマを見ていると、調子が狂うモーリエは必死に言葉を探す。
「ゼンイ君か、まだ目が覚めないんだよね?」
「うん、まだ寝たまま。お医者さんもゼンイが回復するのを待つしかないみたい。…お母さんみたいにずっと回復しないのかな…」
消え入りそうな声になるモーリエ。
「お母さん?」
「うん、狂化って知ってる?突然暴れだすやつ。お母さんね、1年ぐらい前にあれになっちゃって、今もまだ王都の端にある隔離施設で拘束されて監禁されてるの。お父さんのおかげで今はまだなんとかなってるけど、それもいつまで保つか分からないんだ。治療の方もあまり芳しくないらしいし…」
耐えるように拳を握るモーリエ。
そんなモーリエを見ていると、ふいにモナルカの言葉を思い出すカルマ。
『狂化の治療には成功しました。あとは元凶を見つけるだけです』
(そうだ、モナルカは狂化の治療が出来たはず!)
「モ――」
その話を思い出し、モーリエに伝えようとするも、肝心のモナルカの居場所が分からないことに気づき、固まるカルマ。
「…どうしたの?」
何かを言おうと口を開いたまま固まったカルマを不思議そうに眺めるモーリエ。
「あっと、その、昔ね、モナルカが狂化の治療に成功したって言ってて、それでもしかしたら、って思ったんだけど…、そういえばモナルカの今居る場所が分からないことに気づいてね…」
わたわたと変な手ぶりを交え、そうぎこちなく説明するカルマだったが、モーリエはそんなことは気にせず、
「お母さん、治せるの?」
驚きに目を見開き、手で口を隠すと、その事実に泣きそうになるモーリエ。
「多分ね、モナルカさえ捕まえられればだけど」
断言しきれず声が小さくなるカルマ。
「そっか、治るんだ」
そんなカルマは視界に入ってないのか、夢見るようにそう呟くモーリエだった。




