ただただ呆れるしかない
魔工具、それは魔力を付加した道具の事で、正確には“魔法工具”と言うが、一般的にはそれを略して魔工具または魔具と呼ばれている。
その魔工具を造る者を魔工師、正式には“魔法工具技術師”と言い、こちらも一般的には略して魔工師或いは魔工技師と呼ばれている。
魔工具は言ってしまえば道具に魔力を付加させるだけなので種類は多岐にわたるが、大別すると2つに別れる。
武具か日用品、分かりやすく言えば人を傷つけるか、助けるかである。
現在のペドゥール大陸は昔にラソル王国が統一した事で単一国家の統治が実現し、長きに渡る平和な時代が続いているので武具より日用品の方が需要がある。そんな平和な世界であっても武具には変わらず一定の需要があった。
「初めに断っておくと、モナルカの魔工具についてと言っても、俺はそこまで詳しくは知らない。だけど、モナルカは魔工具、とりわけ武器に関しては割りとよく造っていたっけ。色々な武器を造ってはやり直してを繰り返していたから数はそれほど多くはなかったけど。ある日、武器を最初から自力で造ると言い出してな、村の外れに工房を造り始めたんだ。製造法は旅先で学んだとかなんとか言ってたっけ。素人の俺には詳しくは分からなかったけど、とにかく本格的っぽくて、俺なんか危ないからって工房に入れてもらえなくてさ。それでも工房から聞こえてくる音で頑張ってるんだなって思ったものさ。そして、その工房で出来た自作の武器に魔力を組み込んで正真正銘の自作の魔工具を完成させていた。モーリエと初めて会った時に使ったあの大鎌もモナルカ自身が大鎌から自作した武器なんだ。魔力を付加する時に『せっかく鎌の形にしたんだから意識でも刈り取るような魔工具にでもしようかな』って言ってたっけ」
懐かしそうに微笑みながら語るカルマのその言葉にモーリエは唖然とする。
魔工具を道具の段階から造り始める魔工師は存在するし、多くはないとはいえ珍しくはない。魔工師に限らず、何かを作ることをしたことがある者ならば、仕上げだけではなく最初から、1から自分の力で作りたいと誰しもが考えるからだ。
だけど、だ。普通の魔法ですら他人に干渉するのは難しいというのに、意識を刈り取るなんて魔力付加がどれだけ馬鹿げたことで、その難易度がどれだけ高いのか目の前のこの男は理解しているのかと問い詰めたくなるほど簡単に語るカルマと、その馬鹿げたことを実際に成し遂げてしまっているその弟の化け物じみた力量に驚きを通り越してただただ呆れるしかないモーリエだった。




