最初は大変
雪の実の収穫はとても簡単だった。
雪の実を少し捻るだけで簡単に採れたのだから。
カルマは採ることに決めた5つの実を収穫すると、樹を慎重に降りてイルカに報告した。
イルカはカルマが採ってきた5つの実を確認すると、予め野宿の用意をしていた場所で休み、翌朝来た道を戻り始めた。
カシワミの森を出たのはその4日後のことだった。
「行き4日、探索1日に帰り4日で合計9日か…なんか長かったな、森の中に1ヶ月ぐらいいた気分」
雪の実で多少癒され、帰り道は行きよりも大分緊張は和らいでいたとはいえ、カシワミの森はカルマにとって肉体的にはともかく、精神的にはきつかったようで、森の出口が見えた時は目を輝かせて森の外へ駆けていた。
「はは、カルマ君にはまだカシワミの森は早かったようですね」
「むむむ…」
子ども扱いされたようで何か言い返したいが、カシワミの森は精神的にではあるがきつかったのは事実なので言い返せないカルマは、言葉の代わりに短く唸ることでイルカに抗議する。
「そう拗ねない。カルマ君は雪の実採取で活躍したじゃないか。あとはその雪の実を規定数ギルド本部に届ければ任務完了だから、最後まで頑張ろう」
カルマに優しく微笑むイルカ。
「はい…そうですね、頑張ります」
そんなイルカをみていたら、自分の子どもっぽさが急に恥ずかしくなり少しだけ顔を羞恥で赤く染めるカルマ。
「まぁ、何事も経験と慣れさ。それでも油断は禁物だがね」
どこか懐かしむような響きのある声音でカルマにそう語るイルカ。
「慣れと経験…」
カルマはイルカの言葉を口の中で反芻すると、遠くを見つめ何事かを考え始める。
『大抵のものは最初は大変ですよ。右も左も分からない初めて尽くしで何をすればいいのかも分からないのですから不安にもなります。でも、それが好きなこと、興味が持てることなら同じぐらい…いや、それ以上に楽しみでもある。あとは1つ1つ学んでいけばいい。何事も1歩1歩進むしかないのですから。それに、ずっと歩いていると経験から慣れというものを修得出来ます。成長に慣れは必要なことですが、危険なことでもあります。ですから──』
(そこから先は覚えてないな。そもそもいつの事だったかも思い出せないや。なんの話だったかはあまり覚えていないけど、確か旅の話を聞いてたんだっけ?モナルカからその話を聞いたのも随分昔の事のような気がするな…)
懐かしくもあり、それでいて弟が先を歩いていている事を改めて知って悔しいような、そんな少し複雑な気持ちになるカルマだった。




