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三日鷺~ミカサギ~  作者: 帝 真
第10章 変化
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変化・2

 客間にて。

 春明と女子達がキャハキャハと楽しそうに他愛ない会話を弾ませている中、対面で雄二が一人その光景を睨み付けていた。


 「どうしたの、雄二君。そんな怖い顔、しちゃって」


 白々しくも春明がそう訊ね、雄二の眉間に更にしわが寄る。


 「俺を呼んでどうする気だ?」

 「フフッ、どうもしないわ。ただ斗真君が帰って来るまで、ここにいてくれればいいの」

 「……」


 想像していた通りの返答が返ってきて、顔をしかめる雄二に春明が余裕振った笑みを浮かべた。

 雄二は間違いなく三日鷺の欠片を持ってきている。

 ならこのまま斗真を待てばいい、何もする必要は無い。

 それなのに――


 春明の心中は、なぜか表に反して穏やかではなかった。

 やっぱり感じる、妙な胸騒ぎ。

 すると。


 「斗真君って、春明様と仁内君の従兄弟なんでしょ?」


 斗真という名前に反応して女子の一人が話し出した。


 「知ってるぅ。超イケメンなんでしょ? さすが春明様の従兄弟!」

 「わぁあ、私会いたいっ」

 「私も!」


 女子達の間で斗真の話題になり、春明の表情はにこやかでありながらもどこか不穏な空気が立ちこめ始める。

 そんな時、失礼しますとタイミング良く襖の向こうから声がして、開いた襖から頭を下げる使用人が現れた。


 「お飲み物をお持ちしました」

 「ありがとう」

 

 春明はさりげなく使用人からジュースをのせたトレイを受け取ると、わざわざ一人ずつ丁寧にグラスを女子達に手渡していく。

 そんな少しの所作でも美しく見えるのか、6人はうっとりしながら嬉しそうにジュースを飲み干す一方で、使用人はさっさと襖を閉めて去っていく。

 しかしやはりというべきか、雄二はそのグラスに触れようともしなかった。

 当然だ、どんな仕掛けが施されているか分からないのだ。

 案の定、それを飲んだ女子達全員が急に眠気を覚え、フラッと倒れて寝息をたて始める。

 そんな彼女達を、春明は酷く穢らわしいものを見るような目で呟いた。


 「……気安く斗真君の名を口にしないで」


 もはや当たり前になっているのか、彼の手際の良さを見ても雄二は驚きすらしない。

 そのまま仏頂面で、そっと口を開いた。


 「灯乃は、学校か?」

 「えぇ。雄二君と二人きりでお話したかったし。いない方が話が弾むでしょ?」

 「……俺がこのまま何もしないでいると思うのか?」

 「何ができるの? 灯乃ちゃんはあたしに味方してくれてるのよ?」


 にこやかな表情を向けながら、春明は強気な口調で返す。

 すると、灯乃の名前を出されて挑発ととったのか、雄二の眉がいっきに吊り上がる。


 「灯乃は必ず助け出す。俺の目的は依代の挿げ替えだ」

 「なら何も問題ないじゃない。斗真君だってあの子を助けようとしているわ」

 「信用できねぇ」


 雄二の中で憎悪の念が湧き上がる。


 「あいつは手下を使って俺と灯乃の家を燃やしたんだ」

 「斗真君は関係ないって言ってるでしょ」

 「どうだか。あいつが言葉巧みにあいつらを操ったんじゃねぇのか?」

 「違うわ。斗真君はそんな人じゃない」

 

 斗真のこととなるとついムキになってしまうのか、春明も少しきつく言い返した。

 実際、そうなのだ。

 斗真の人柄は疑いようもない、それは春明を一番に支えているものだから。


 けれどそれを、雄二の呟きが崩しに掛かる。


 「……そんな奴じゃないなら、何で灯乃は黒装束なんかになってんだよ? 白に近づいてた筈なのに、何であんな……っ」

 「それは……」


 春明の中で、じわじわと歪みが生じる。

 斗真に対して抱いていた、唯一の違和感。

 珍しく言葉を濁す春明を見て、雄二がそっと囁いた。


 「もしかして……アンタも騙されてんじゃねぇのか?」

 「あり得ないわっ」

 「じゃあ斗真は灯乃に、いくつ、どんな命令をしたんだ?」


 ーーいくつ……?


 春明はその言葉を聞いて、ハッとした。

 どうして今までその考えに辿り着かなかったのだろう。

 そうだ、雄二が言うように黒装束に変わっていたというのなら、命令が一つの筈がない。


 ーー斗真君、あなたはあの子に何をしたの……?


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