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三日鷺~ミカサギ~  作者: 帝 真
第1章 紅蓮の三日鷺
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紅蓮の三日鷺・5

 「いつの間に!?」


 既に侵入されていたことなど誰も気づかず、その思いがけない敵襲に皆目を見開いた。

 黒紅の影が散らばり、それぞれを狙う。

 手傷を負っている雄二に飛び掛かる影を春明が薙刀で弾き返し、眠る灯乃を庇う斗真には仁内が援護し、攻撃を受け流した。


 「ここはもう駄目だ。春明、命令だ――雄二を守れ!」

 「御意」

 

 斗真の命令に春明は応えると、雄二を連れて外に飛び出す。

 斗真も灯乃を抱き上げ、仁内と共に攻撃を回避しながら外の庭へと出ると、黒紅の群衆も放たれた矢のように素早く追ってきた。

 

 「くっ……!」

 

 逃げきれない。

 その言葉が頭を過ぎり、春明は背を向けて走ることが出来ず、振り返り際に薙刀を振り下ろすが、簡単に躱されてしまう。

 その大振りの隙をつかれて、敵の手甲鈎(てこうかぎ)が彼の右脇を狙うが、春明もその動きを読んでいたのか、石突で何とか突き防いだ。

 しかしそれだけで動きを封じられる筈もなく、更には他の影も彼らに迫ってくる。

 それは斗真たちにも同じで、仁内が戦斧で応戦するが、なかなか止められなかった。


 ――どうしてこんなに強い?


 周りの戦闘を見ながら、雄二は思った。

 春明も仁内も三日鷺の力で戦っているのに、何故ここまで手こずる……?


 そんな時、雄二の眼前に小さな缶状のものが飛んできて、地面に転がった瞬間、濃い煙が一気に噴き出した。

 発煙弾だったようで、真っ白に広がった煙幕が周辺を覆い隠すように満たすと、雄二は突然後ろから誰かに身体を引っ張られる。

 

 「うわっ……お前は!」

 「静かに。紅蓮の三日鷺に、あなたの事も命じられています。こちらへ」


 朱飛が声のトーンを一つ落として、雄二を岩影へと導く。

 側には春明もいて、朱飛の言葉を信じるように頷くと、二人で彼女を追った。


 「あいつら何なんだよ? お前らの仲間じゃないのか?」

 「……」


 朱飛が雄二の問いかけに無言を決め込んでいると、煙幕が薄れていき、徐々に辺りが見えるようになってきた。

 三人が身を小さくしてしゃがみ込んだその岩影には、灯乃の母親――トキ子が寄りかかって眠っている。

 庭に目を向けると、黒紅の集団がキョロキョロと見渡し、やがて標的を求めて消えていく。

 どうやら斗真たちも上手く乗じて身を隠すことが出来たらしい。

 春明がホッと安堵すると、雄二に向かって口を開いた。


 「ひとまず大丈夫よ、雄二君。でも気をつけて。あいつら皆、三日鷺よ」

 「……なんだって?」


 *


 「なんで三日鷺なんだよ?」


 暗い夜道を走り抜ける斗真に、仁内が困惑した顔で言った。

 家を出てすぐは田畑が広がり、舗装されていない田舎道が続く。

 元々住宅街から離れていて電灯もほとんど立っていない為、闇夜に紛れるのは容易かったが、建物が少ない分隠れる場所が限られてしまっていた。

 今のところ追っ手は来ていないようだが、見つかればまず逃げきれない。

 斗真は灯乃を抱きかかえたまま辺りを注意深く見回すと、仁内と共にただ走った。


 「斗真、刀はテメェがずっと持ってる筈だろ? それともあれは三日鷺の力じゃねぇってのか?」

 「いや、三日鷺だ。……一度、奪われているからな」

 「……マジかよ」


 いつの間に?と言わんばかりに仁内が眉を歪ませる。

 しかし彼の中で合点がいったようで、余程の驚きはなかった。


 「ったく、テメェが本家から春明と出てきた原因はそれか。誰にやられた?」

 「お前に言うと思うか?」

 「テメェ……」


 至極当たり前のような顔で軽く躱され、仁内の機嫌は更に悪くなる。

 しかしここで揉めても仕方ないことは彼も重々承知していて、苛々しながらも舌打ちだけで何とか(とど)めた。


 「これからどうすんだよ?」

 「春明たちと合流する。何とか連絡をつけたいが……」


 斗真が言いかけたその時、仁内の左頬を何か冷たい物が掠って、一瞬で前方の暗闇へと消えていった。

 垣間見えたのは六方手裏剣、一筋の血が頬を伝い流れた。


 「くそっ、もうかよ」


 二人は背後に集中すると、闇の中から目を光らせ、黒紅の影たちが疾走してくるのが見えた。

 どうやら随分夜目が利くらしい。

 スピードを上げ二人は必死で逃げるが、影たちとの距離がどんどん狭まってきている。


 ――どうする……!?


 灯乃を抱える斗真の手に力が篭った。


 *


 「とにかく斗真君たちを見つけなきゃ」


 春明はそう言って立ち上がるが、雄二が腕を掴み、それを止める。


 「今出て行ったら、奴らに見つかるかもしれねぇ。戦闘じゃ勝ち目ねぇだろ?」

 「そうだけど……」

 「ではとりあえず、雄二(あなた)は帰られますか?」

 「え?」


 雄二と春明が揉めていると、朱飛がポツリと口を挟み、二人を振り向かせる。


 「相手が三日鷺なら、出会(でくわ)したとしても標的以外の者を執拗に狙ってきたりはしないでしょう。あなたを送り届ける分には問題ないかと」

 「いや、大アリだろ。俺だけ逃げ延びても仕様がねぇよ」


 呆れた声で雄二は言うが、朱飛は真剣な面持ちのまま彼を見据える。


 「それはつまり、あなたも巻き込まれて良いということですか?」

 「えっ?」

 「関わりたくなければ、ここは従うべきところ。それを拒むということは、自らはもう部外者ではないと?」

 「それは……」

 「唯朝 灯乃――彼女をあなたは守りたいらしいですが、それは三日鷺に関わるということです。たとえ巻き込まれ危険な目に遭ったとしても構わないと、そういうことになりますが?」


 朱飛に指摘されて、雄二はハッとした。

 今の灯乃を普通の女の子として連れ帰り、守っていくことは出来ない。

 もうただの幼馴染みではないのだ。

 それを改めて感じ、雄二は口を閉ざす。

 するとそんな彼を見て、春明が幻滅したように溜息をついた。


 「こうしている間にも三人は襲われてるかもしれない――灯乃ちゃんを、助けに行かないのね?」


 初めて見る春明の冷ややかな視線が、雄二の痛いところに突き刺さった。


 ――助けに行かない訳じゃない。けれど……


 あれだけ灯乃を守ると啖呵を切って強引に入り込んだのに、身体が動かない。


 ――灯乃より自分の身を心配してるっていうのか? 俺が?


 返す言葉もなく沈黙が訪れようとするその時、朱飛が再び口を開いた。


 「言っておきますが、あなたのことは命じられてはいますが、それは送り届けることではありません」

 「え?」

 「あなたが我々に関わることを望むか否か――それによってあなたが望む方に従えと」

 「……なんだと……?」


 雄二はショックを受けた。

 守りたい者を捨てて安全である方を選ぶか、危険であっても守りたい者を守る方を選ぶか。

 三日鷺は彼に選択を委ねるというのだ。

 当惑の眉を(しか)める雄二の姿をじっと見定めながら、朱飛は命令された時のことを思い浮かべる。


 “あの男、我のこの欠片によって命を受けておる。灯乃を守れ、と。だが、縛られておるという意識はないだろう。なんせ刃に斬られた訳ではない、欠片を持たなければ我の力も宿らぬ。朱飛よ、あやつの言葉は命令からきたものなのか、それとも本人の意志か。どちらと思う?”


 三日鷺の問いかけを思い起こし、朱飛は雄二に手を差し伸べた。


 ――唯朝 陽子が選んだ男。少しは見込みがあるのだとしたら……


 「もしあなたが関わらず帰りたいと言うなら、言う通りに送り届けましょう。その時は、三日鷺のことは誰にも口外しないと約束して貰います。しかし、もしそうでないのなら――あなたが唯朝 灯乃を守りたいのであれば、あなたにコレを渡すようにと」


 そう言って朱飛が出した手の中には、これまで雄二がずっと持っていた三日鷺の欠片があった。


 「これ……!」

 「これはあなたの力となる。けれど、受け取ればあなたも三日鷺から逃れられない」

 

 朱飛の一言に、雄二の心臓がドクンと跳ねた。

 石は、陽子の形見。陽子が彼を選んで委ねた物。

 本当は、危険がなければ持っていてあげたいのに。

 グッと堪えるような目で石を見つめ、雄二は考える。

 

 ――どうしたらいい? 答えが出ない……


 と、その時。


 「雄二君、危ない!」


 春明の叫び声と同時に、手裏剣が彼を狙って飛んできた。

 咄嗟に春明が薙刀で庇ってくれたおかげで当たりはしなかったが、それでも窮地に立たされていることを知る。

 黒紅の影たちに見つかり囲まれてしまっていたのだ。


 「……まずいわね。悩んでる余裕はなさそうよ?」


 雄二を間に、春明と朱飛が前後で身構え嫌な汗をかく。

 もはや絶体絶命の言葉に相応しく、せめてもの悪あがきで春明が雄二に言った。


 「ここは私たちで何とかくい止めるから、その隙におばさまを連れて逃げて」

 「え、でも……!」

 「行くわよ!」


 雄二の返答も聞かずに、春明と朱飛が影たちの中へ突っ込んでいき、その瞬間一斉に二人へ攻撃の刃が飛び交った。

その間に僅かな隙が出来て、雄二は苦渋な思いでトキ子を抱き上げ突破口へ走る。

 朱飛の言った通り、初めこそ攻撃されたものの、二人から離れるにつれ段々意識されなくなり、拍子抜けする程あっさり窮地を抜け出すことが出来た。


 ――眼中にないんだ、俺たちは関係ないから。


 そう思うと何だか虚しくなって、門を飛び出し少し走ったところでふと振り返る。


 ――結局、逃げ出してしまった。何も考えずに、何も出来ずに。……良いのか? これで……


 雄二は無意識に彼女に問いかけた。


 灯乃……


 *


 誰かに呼ばれた気がして、灯乃はゆっくり瞼を開く。

 そこは彼女の夢の中か、それとも……

 正面によく知る紅蓮の鳥が現れ、彼女をその焔の翼で包み込んだ。


 「三日鷺……」


 温かい――灯乃はそう思い、身体を委ねる。

 しかしそんな彼女を、三日鷺は悲しそうな瞳で見る。


 “灯乃――そなたは我が分身。しかしその身は、ただの娘。やがて全てを我が焔に燃やされよう”

 「え……?」


 ――何を、言ってるの……?


 三日鷺の焔が急に熱く燃え上がった。

 灯乃は熱さと痛みを覚え、すかさず身体を引き離す。


 “我はそなたに同化する。我となるのだ、灯乃”

 「どういう意味……?」

 “さすれば焔はそなたの力と変わる。その力をもって、我が望みを叶えよ”

 「望み、って?」

 

 その瞬間、三日鷺が大きく翼を広げて羽ばたいた。

 紅い熱風が灯乃を飲み込み、視界を閉ざす。


 「くっ……!」


 ――望みって? 私はどうしたら良いの?


 熱い息苦しさの中で、灯乃は必死に目を開いた。

 すると――


 「灯乃……!? 起きたのか?」


 気づくと、斗真に抱えられている状態が映った。

 真っ暗な夜道で仁内が何か黒い者達と戦っている。


 「え? ……何?」


 どうしてこうなってるの?と訊く間もなく、彼の戦斧をすり抜け、手裏剣がこちらに飛んできた。

 

 「しまった!」

 危ない――!


 灯乃は衝動的に三日鷺を抜き、手裏剣を弾いていた。

 命令された訳でもないのに。


 「灯乃……!?」

 

 三日鷺でない状態で反応したことに斗真も仁内も驚愕する中、刀から炎が噴き出し、灯乃は再び紅蓮の三日鷺となる。


 ――たくさんの三日鷺の気配。攻撃してくるこいつらは、敵。


 直感というより、知っているような感覚だった。

 三日鷺と同化――断片的ではあるが、記憶が共有されているように思えた。

 灯乃は立ち上がると、刀を構える。


 「斗真、私に命令を」

 「灯乃、なのか?」


 斗真が疑う程、今の灯乃の雰囲気が三日鷺に似ていた。

 けれど、斗真と呼ぶのは間違いなく灯乃。


 「灯乃、命令だ。――奴らを斬れ」

 「御意」


 まるで言わされたように斗真は命じ、灯乃は何の躊躇いもなく走っていった。

 そして仁内を押しのけるように刀を振り、見事に影たちを斬っていく。

 今までの苦戦は何だったのか、圧倒的な力だった。

 しかしそれでも何人かは反撃を起こし、彼女に手甲鈎を振り上げる。

 すると。


 “来い、仁内”

 「……え?」


 彼女の翡翠の瞳が一瞬紅く光り、その途端、先程まで以上の速さと力で仁内が動き、敵の攻撃を崩した。

 命じられていないのに、呼ばれた気がして身体を動かされる。彼自身も呆気にとられた。

 そして更に。


 「装束が……!?」


 灯乃の装束が、斬った瞬間だけ淡い桜色に変わった。

 それは炎の色と白鷺の白が混ざったような。


 「どういうことだ……? これが三日鷺の望み、なのか?」


 けれど、何が望みなのか分からない。

 斗真は困惑したまま、その戦闘を見ていた。


 *


 「うぐっ!」


 その頃。

 遠く離れた場所で、春明が影の攻撃を受け、押し除けられて後ろへ吹き飛んだ。

 ただでさえ足に重傷を負っている上、雄二が離れたことで三日鷺の力が消えかかっているのだ。

 朱飛は彼の眼前に立ち、クナイを放った。

 それは影をとらえ、僅かだが数を減らす。


 「私が抑えます。あなたはお逃げ下さい」

 「冗談やめてよ。あんた一人でなんて無理に決まってんでしょ?」

 「しかし春明様……」

 「やめてって、言ってるでしょ!」


 春明は疲弊した身体を無理やり起き上がらせると、重く感じる薙刀を構える。

 さすがに朱飛一人で複数の三日鷺を相手するのは、最悪を覚悟せざるを得ない。

 二人はそう思っていると。


 「このヤロー!」


 塀の上から雄二が影たち目掛けて落ちてきた。

 

 「え……!?」

 「雄二君、どうしてっ!」


 突然の乱入に、影たちの攻撃が彼に集中する。

 すると春明の身体が素早く反応し、彼を守りに入った。

 春明に三日鷺の力が戻る。


 「言っただろ、灯乃を守るって。あれだけ大見栄きったんだ、逃げられるかよ」

 「雄二君……」

 「それに女二人残して逃げるなんて、情けねぇし」

 「……」

 「ゴホン」

 

 雄二の一言を二人は複雑に思いながらも、襲い来る敵に刃を構えた。

 そして――


 「それではあなたに、これを」


 朱飛が雄二に向かって三日鷺の欠片を投げ渡した。

 雄二の手の中で、欠片が淡紅の光を放つ。


 “雄二、君に命ずる。――灯乃を守って”


 何処かで陽子の声が聞こえた。

 懐かしく、切ない声。そしてもう一つ。


 “紅蓮の三日鷺の名において命ずる。雄二――我の欠片を守れ”


 「……!」


 別の声を聞いて、雄二は目を見開いた。

 おそらく三日鷺が手にした時に、あらかじめ込めていたのだろう。

命令は二つだった。

 灯乃を守ることと、この三日鷺の欠片を守ること。


 「御意」


 雄二は欠片をチェーンにつけると、ふぅと息を吐き、空手の型を構えた。


 命令一覧


 灯乃

 ・斗真を守れ 《解除》

 ・仁内を斬れ 《完了》

 ・斗真の許可なく、春明の別宅から一歩たりとも出るな

 ・朱飛を斬れ 《完了》

 ・三日鷺集団を斬れ


 春明

 ・仁内一派をなぎ払え

 ・仁内には手を出すな

 ・雄二を春明の別宅から追い出せ、二度とここへ近づけさせるな 《解除》

 ・雄二を守れ


 仁内

 ・斗真の盾になれ

 ・春明の別宅の周りを30周走れ(+追加分) 《完了》

 ・朱飛一派を追い払え 《解除》


 朱飛

 ・斗真の盾になれ 《トキ子を送り届ける命令が優先》

 ・トキ子を送り届けよ 

 ・雄二を送り届けよ。または、雄二に三日鷺の石を渡せ 《完了》


 雄二(三日鷺の石を身につけている場合のみ)

 ・灯乃を守れ

 ・三日鷺の石を守れ


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