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三日鷺~ミカサギ~  作者: 帝 真
第7章 秘密
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秘密・7

 命令さえ解除しなければ有利に運べていた筈が、これで一気に形勢逆転されてしまった。

 こちらはまだできない実力行使に、朱飛らが出られるようになってしまったのだ。

 何てことだ。

 春明は灯乃を問い詰めたくて仕方なかった。

 そんな時、灯乃の口が動く。


 「だって、斗真が一人になっちゃうから」

 「…………は?」

 「仁ちゃんが私を護る為に戻って来ちゃったら、斗真を護る人がいなくなっちゃうから、だから……っ!」


 事の重大さに気づいてしまったとばかりに必死に伝えようとする灯乃に対して、春明は思わずキョトンとすると、次の瞬間に落胆したように大きく溜息を漏らした。


 ――眩暈がする。この子はあたしの話を聞いていなかったのだろうか


 「あの、春明さん?」

 「事情は何となく分かったわ。おそらくさっきの奴らに斗真君を奇襲するとでも言われたんでしょ。しかも、姿が見えないところからして――朱飛がそっち側にいるとか?」

 「え、うん」

 「はぁ……」


 何て分かりやすいんだ。

 春明の口から今一度溜息が漏れた。

 すると、楓が控えめに口を挟む。


 「斗真様に伝達致しましょうか?」

 「そうねぇ。でも待って、その前に幾つか気になることがあるの」


 春明が斗真への連絡を後回しすると、灯乃はホッと肩をなでおろした。

 斗真が知ってしまえば、きっと仁内を戻してくる。

 それでは命令を解除した意味がなくなるのだ。

 しかし、あからさまに安堵した表情を見せる灯乃に、春明は目くじらを立てる。


 「灯乃ちゃん、あなたに訊いておかなければならないことがあるんだけど」

 「私に?」

 「まず、仁内への命令解除はどうやったの?」

 「それは……うーん、何ていうか、念じたっていうのかな」

 「どうして解除できたって分かるの?」

 「それは、私の姿が急に三日鷺に変わって、黒装束から少し黒さが抜けていったから」

 「三日鷺の刀なしで、姿が変わったってこと?」


 灯乃の答えに、春明が口元に手を当てて考え込んだ。

 普通なら、刀なしで変身することはまずない筈。

 しかし紅蓮の三日鷺との同化が進行しているのなら、いつかは刀がなくとも変身することもあるのかもしれない。

 そう考えれば、特に不思議に思うことはないだろうが、問題はそこではない。


 「なら灯乃ちゃん。仁内がいないこの状況で、再びあいつに命令することは可能なのかしら?」

 「え? それはやってみなくちゃ分かんないけど」


 灯乃は自信なさげに言うが、何を思ったか春明の顔をじっと見る。


 「できるかもしれないけど、私はしないよ」

 「……斗真君が一人になるから?」

 「うん」


 こんな時だけはっきり言い切る灯乃。

 少しは周りの迷惑を考えてほしいものだと、以前誰かが言っていたことを春明は思い出す。

 一方でもう一つ、なるほどと春明は思ったことがある。

 それは灯乃が口走った、一番気になる言葉。


 「黒装束。あたしが知る限りでは、確かあなたは白に近かったと思ったんだけど?」

 「……!」

 「斗真君に何かを命じられたってことよね? ――何を命じられたの?」


 春明は灯乃を凝視しながら、強く訊ねた。

 雄二が斗真という名に酷く反発したのも、きっと彼女の黒装束を目の当たりにしたからだろう。

 斗真が自身の利益の為に、灯乃を黒にしてしまうと考えて。

 けれど春明は、斗真がそんな人間ではないことを知っている。

 だからこそ、なぜ今灯乃に命令したのか、何を命じたのかとても気になった。

 だがその質問になると、途端に彼女は口を閉ざす。


 ――言えない、言いたくない。


 あの命令は、灯乃にとって特別な命令。

 苦しくなった時、唯一無条件で斗真に縋りつくことのできるたった一つの魔法の言葉だから。


 ――誰にも踏み込んで欲しくない。この命令だけは、私と斗真だけの秘密にしておきたい


 そう思うと灯乃は、キュッと胸を締めつけられるような切ない気持ちに襲われた。

 それを抑えるように手を押し当てると、灯乃は申し訳なさそうにそっと唇を動かす。


 「ごめんなさい、春明さん。その命令は、そっとしておいてほしいの」

 「どういうこと?」

 「それは――」


 ――キーンコーンカーンコーン!

 

 その時、灯乃の言葉を遮るように予鈴のチャイムが鳴り響いた。

 もうすぐ昼休みが終わる。


 「私、教室に戻らなきゃ」

 「あ、ちょっと!」


 春明が制止しようとするも、灯乃は聞こえないフリをして、逃げるように教室へと走っていった。

 授業が始まれば、使用している場所以外は静寂に戻る。

 同時にひと気もなくなる為、場所によっては動きやすくはなるが、今の春明に動き回る気などおこる筈もなくただ立ち尽くした。

 そんな不機嫌に顔を歪ます彼に、楓は言いにくそうに呟く。


 「私も戻らなければなりませんので、これで」

 「む」


 そそくさと遠退く楓に、春明はぷっくりと頬を赤く膨らませた。


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