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三日鷺~ミカサギ~  作者: 帝 真
第7章 秘密
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秘密・4

 「……はるめ? 誰よそれ」

 「どこのクラスの奴なの?」

 「ねぇ、雄二君は知ってる?」


 差出人の名前を確認するや否や、女子達は顔を寄せ合って情報をかき集めるも、該当者が見つけられなかったのか、雄二へと質問を投げかける。


 「……知らねぇよ。行く気もねぇし」


 雄二は外方を向くと、素っ気なく小さく答えた。


 だが心中は、そんな穏やかな筈もない。

 知らない訳がないのだ、春明を。

 果たして彼の目的は雄二か、それとも二つの三日鷺の欠片か。

 いや、この手紙の目的はおそらく――


 「お前ら、まさか体育館裏に行ったりしねぇよな?」

 「えっ」


 手紙一つで騒ぎ立てる女子達に、雄二は訊ねた。

 考えなくても分かる、この手紙は雄二ではなく彼女ら6人を誘っているのだ。

 そうすることで雄二から彼女らを引き離そうというのだろう。

 見え透いた魂胆だ。

 しかし――


 「まっまさか、行かないわよ」

 「そ、そうよ。雄二君が行かないんだもの、すぐに諦めるわよ、きっと」

 「……」


 明らかに目が泳いでいる6人に、雄二は怪訝な目で疑うよりなかった。

 そして。


 「やっぱりかよっ」


 昼休みになり周囲が賑やかになるが、雄二の席にあの6人は現れなかった。


 ――行くなって言ったのに、これかよ。でも、おかげで自由に動ける


 雄二はそう思うと、すぐさま気持ちを切り替え灯乃の方へ歩いていく。

 灯乃の方も意識していたのか、一瞬の目配りだけで前を通り過ぎていく彼にすぐ反応して、静かに席を立つと、教室を出ていく雄二を追って灯乃も教室を出ようとした。

 が。


 「一人で雄二を追う気?」


 既のところでみつりに腕を掴まれる灯乃。

 学校では一緒に行動するよう言われていたのだから当然だった。


 「違うよ、トイレだよ。すぐ戻ってくるから」


 見え透いた嘘だと灯乃も思うが、一人になる口実がそれしか思い浮かばず苦笑いで誤魔化す。


 ――やっと雄二が一人になってチャンスが出来たんだ。今を逃す訳にはいかない


 灯乃は少し強引に腕を振り払って言い切ると、みつりが口を開く前に教室を出て行った。

 しかしもちろんそれでみつりが納得する筈もなく、彼女の後を追おうと廊下に出ると、見張っていた楓の仲間達も隠れて一緒に動き出す。

 幸い、今は賑やかな昼休み。

 そう目立つこともなく、みつり達は灯乃を追った。


 ――雄二、どこへいったの?


 一方灯乃は少し出遅れたせいか、彼を見失ってしまい向かった方へ慌てて走る。

 すると分かれ道に差し掛かり迷っていると、突然横から出てきた手に腕を引っ張られた。


 「ひゃっ何っ!?」

 「灯乃、静かに」

 「雄二……!」


 探し人の手に身体を抱え込まれ、灯乃は驚きながらも一角に身を潜めて隠れるようにしていると、すぐさま追ってきたみつりが二人に気がつかず通り過ぎ、走っていくのが見えた。

 そしてそれと一緒に消え去っていく無数の異質な気配。


 「……どうやら撒いたようだな」


 近くに生徒も何人かいたのもあって、上手く紛れられたのだろう。


 「雄二、良かった。やっと話せる」

 「……。灯乃、こっちだ」


 ホッとしてにこやかに笑う灯乃を尻目に、雄二は彼女の手を引いてその場をあとにした。



 *



 その頃、体育館裏では。

 一人で待ち構えていた春明のもとへ、6人の女子生徒達が集まっていた。

 しかし、そんな彼女達は茫然としている。

 春明の美貌にあてられ、グウの音も言えないようになっていたのだ。


 「雄二君と二人きりでお話したかったのに、残念ね」

 「あっあんたが、はるめって奴なの?」

 「嘘……でしょ……」

 

 自分達が低レベルな容姿と称されても仕方ないくらい、目の前の女性とでは天と地の差があると女子達は実感してしまい、何とか絞り出した言葉も掠れるように小さいものでしかなかった。

 そんな彼女達に対して、春明は余裕でため息を漏らす。


 「困ったわねぇ。あなた達に用はないんだけど」


 とは言うものの、然程困った様子もなくその上少し見下したような目で見てくる春明に、カチンときたのか女子達がようやく声を張り上げる。


 「ゆっ雄二君は迷惑してるんだから、ちっちち近づかないでよね!」

 「そ、そうよそうよ! 興味ないって言ってたもの!」


 雄二の様子を思い出して強気な姿勢が戻ってきたのか、勢い付いて口々に罵声を浴びせ始める女子達だったが、もちろん春明が押し負ける筈もなく微笑を浮かべると、女子達の中の一人に近づき両手を頬に添えて目を覗き込んだ。

 その瞬間、女子の心臓がドクンと跳ね上がる。


 「でも、そんなこと関係ないわ。だって、あたしが彼に興味があるんだもの」

 「あっ……で、でも……」

 「それとも、彼以上にあたしを楽しませてくれるのかしら――あなた達が」

 「……!」


 春明は顔を上げて大きく両目を見開くと、残りの女子達にも目を合わせた。

 するとその途端、まるで恋焦がれるような切ない気持ちが溢れ出して、彼女達の頬を赤く染め上げる。

 それは逃げることのできない、思わず魅入ってしまう春明の瞳の力。


 「……楽しませてって……」

 「それじゃ……楽しませられたら、雄二君を、諦めてくれるの……?」

 「私達が、あなたを……?」

 「そう。あなた達が、あたしを――ね?」


 春明が呟くと、6人はうっとりとした視線を彼に向けながらも、覚束ない足取りで校内へと戻っていった。

 おそらくこれからどう楽しませようか、必死で考えるのだろう――春明のために。

 けれど彼にはそんなことなどどうでも良く、寧ろ醜いものを見るような冷めた眼差しで彼女達を見送った。


 「……くだらない」

 「春明様、これからどうなさいますか?」


 一部始終見ていたのか、春明のもとへ楓がそっと現れると、春明もまたそれを知っていたのか、平然と応える。


 「とりあえず、これで邪魔者は消したけど。朱飛は見つかったの?」

 「いいえ。姿を見た者はおりません」

 「あたしがいると出難いのかしら? 絶対灯乃ちゃんに接触してくると思ったんだけど」


 春明が首を傾げて考え直そうとすると、そこへ楓が問い掛ける。


 「灯乃様の護衛を増やしますか?」

 「今のままでいいわ。そう何人も校内へ送り込めないし、仁内にあの子を護る命令がかけられている限り、簡単にはあの子を襲えない筈よ」

 「なるほど、確かに」


 春明のその言葉で、楓はその命令の存在を亜樹から聞いていた中から思い出し納得する。


 「三日鷺の介入はあちらが不利ですし、斗真様にも知らせてしまうことにもなるのですから、ここへ灯乃様を誘き出した意味がなくなる、ということですね?」

 「えぇ。向こうとしては、まず避けてくる筈。だからお互い口で説得させる他ないわ。こちらは雄二君を、向こうは灯乃ちゃんを」

 「では、斗真様が春明様にお掛けになったご命令を解除なされば、こちらの勝ちですね?」


 比較的有利な状況を把握した楓は明るい表情を見せるが、春明の難しい顔は変わることなく色濃く残ったままだった。

 楓が不思議そうに眺める。


 「春明様、如何なさいました?」

 「朱飛がいないっていうのがどうも引っかかるのよねぇ。それに斗真君が命令を解除してくれるかも分からないし」

 「まさか。解除なさらない理由がありません。それに朱飛が現れないのは、春明様相手では部が悪いからでしょうし」

 「……」


 楓の言葉でもモヤモヤが消えないのか、春明は眉をひそめて考え込むと、そんな所へ一目散に走ってくるみつりが現れた。


 「みつりちゃん?」

 「一人なのか? 灯乃様はどうした?」

 「いなくなったのよっ。勝手に雄二の後を追って」

 「えっ!?」

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