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三日鷺~ミカサギ~  作者: 帝 真
第6章 恋心〜黒(からす)
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恋心~黒(からす)~・7

 携帯電話を握り締めながら、灯乃は戸惑った。

 雄二からの連絡、まさか掛けてくるなんて。

 でもやっぱり声が聞きたい。

 そう思うのは至極当然なことで、灯乃はゆっくりとそれを繋ぐ。


 「……もしもし……雄二?」

 「――灯乃、今一人か?」


 雄二の声だった。

 それだけで涙が出そうになる。

 灯乃はそれを堪えるようにグッと瞼を閉じると、一呼吸おいてからその声に聞き耳をたてる。


 「誰もいないよ。それより……早く帰ってきて」

 「……それは出来ない」

 「どうしてっ」

 「あいつは……主将は信用できない」


 雄二は僅かに怒りを潜めた声で、何とか静かに答えた。

 彼がそんな風に感じてしまうのは、灯乃にも理解できる。

 楓は雄二の家を放火し、そしてそれを認めているのだから。

 けれどその時の彼の辛そうな表情も、灯乃は覚えていた。


 「分かってる、雄二の家を燃やしたって。でも、きっと何か理由があるんじゃ……」

 「何だよ、その理由って?」

 「それは……分からないけど」


 灯乃は黙り込んだ。

 放火した理由が聞き出せていたなら、今雄二を説得できていたのかもしれない。

 けれどそれは、灯乃にも分からない。

 何も答えることができない歯痒さが彼女を襲っていると、そんな灯乃に痺れを切らした雄二が決心するように名前を呼んだ。


 「灯乃。そこにいると危険だ、俺と来い」

 「でも、それは……」

 「お前のこと、朱飛から聞いた。三日鷺に身体を乗っ取られようとしてるんだろ? でも――それから解放する方法はある」

 「え……?」



 *



 灯乃は思わず部屋を飛び出た。


 “聞いてないのか? やっぱりあいつらは信用できない”

 “どういうこと?”


 通話を切る前に、雄二は言った。

 三日鷺から解放し救い出す方法があると。


 “俺は明日学校に行く。だから灯乃、お前も明日出て来い。会ってゆっくり説明する”


 灯乃は途切れた携帯電話を握り締めて深く悩んだ。

 雄二は自身を救う為に迎えに来ると、考えていいのだろうか?

 少なくとも彼はそのつもりだ。

 でも朱飛は?

 灯乃を三日鷺から解放する手段を雄二に教えているというなら、彼女もそのつもりだと決めつけていいのだろうか?

 けれど、灯乃の家を燃やしたのは恐らく朱飛。

 雄二と同じで、自宅を放火した人物を信じることは灯乃にもできない。

 だいたい、解放する術が本当にあるのかも分からないのだ。


 「どうしたらいいんだろ……?」


 灯乃の足が、自然と動き出す。

 こんな風に迷った時、彼女の向かう所などいつも一つだ――それは斗真の部屋。

 彼に訊いて確かめてみればいいのだ。

 灯乃は当たり前のように廊下を突き進んでいった。


 それを影からみつりが見ていたことにも気づかないで。


 しかし灯乃の目に斗真の部屋が見えると、直前で足を止める。

 来てしまったものの、何と言って切り出せばいいのか分からなかったのだ。

 三日鷺から解放される方法があるのかと、率直に訊けばいいのだろうか?

 いや、それでは怪しまれる。

 第一、それでは雄二と連絡がとれたことを伝えなければならなくなる。

 そもそも伝えるべきなのだろうか? 隠すべき?

 それすら頭を抱えるべき事項だった。


 「どうしよう」


 別に斗真を疑っている訳ではない。

 けれど全て伝えてしまったら、何だが雄二を裏切ったような気になってしまうのだ。

 かといって、このまま何もしないで引き返す気にもなれない。

 灯乃は近くの柱にしがみつくようにして、斗真の部屋を恨めしそうに眺めていると、


 「……あ」


 突然襖が開き、半ば呆れたようにこちらを見る斗真と目が合った。


 「何をしてるんだ、お前」

 「えっと……」

 「いつまでそうしているつもりだ? 用があるなら、声くらい掛けろ」


 気配で既に気づいていたのか、斗真はそう言う。

 そういえば斗真に対してこっそり行動するなど不可能だったことを思い出し、灯乃は苦虫を踏み潰したような顔をするが、まだ心の準備ができていないせいか、一歩が踏み出せない。

 もたもたしている彼女に、斗真はようやく怪訝に眉を歪ませた。


 「どうした?」

 「え……いや、何でもない、んだけど……」


 何処か落ち着きなく目を泳がす灯乃に、斗真は少し考えてハァと溜息をこぼす。

 そして何を思ったのか、彼は部屋から出てくると、窓から庭の景色を眺め始めた。


 「今夜は来客が多いな」

 「え?」

 「みつりと何かあったのか?」


 彼女と同室になったことを考えてなのか、斗真が訊ねてくる。

 けれど灯乃のポカンとした様子からそうでないことを悟った彼は、考え直して言い換える。


 「……雄二のことか?」

 「……」


 その無言を肯定と捉えたようで、斗真はそうかと呟いた。

 やっぱりすぐに見抜かれてしまう。

 けれどどう言っていいのか未だ考えあぐねて、灯乃が戸惑っていると、


 「明日、あいつが来なければいいのにな」

 「……え?」


 斗真の声が小さく聞こえた。

 独り言のように呟かれたそれは、灯乃をきょとんとさせ、彼自身にも苦笑を浮かべさせる。

 本来なら雄二には登校してきて貰いたいところの筈、それなのに。

 複雑な表情を見せる灯乃に、斗真は続ける。


 「できるだけ、お前を危険な目には遭わせたくないんだ。本当は俺に同行させたかったんだが、お前の気持ちは変わらないんだろ?」

 「斗真……」


 彼の優しい本音を聞いて、灯乃は思わず目を逸らした。

 そうだった、いつだって斗真は周りのことばかり心配している。

 

 ――それなのに、私は……


 雄二のことを隠して、斗真を探ろうとしていた。

 それは彼に対しての裏切りのよう。

 自分はこんなにも彼に甘えているのに。

 と、そんな時、


 「……え?」 


 罪悪感に灯乃が襲われそうになっていると、斗真がそっと彼女にあるものを差し出してきた。

 それは彼にとって、とても大切で大事な、三日鷺の刀。


 「斗真……?」

 「本当は、これをお前に持たせるべきなのか迷っている」

 「え……っ」

 「これを持っていれば、お前は戦える。万一、本家からの刺客が現れたとしてもな。そうするべきなのかもしれないが、だが……」


 やはりそう易々と手放せるものではないのか、刀を持つ彼の手には抵抗の力が篭っていた。

 けれどそれでも、その言葉だけでも言って貰えただけで、彼の思いは十分灯乃に伝わる。


 自分の勝手な我儘なのに、斗真がここまで考えてくれていたとは。

 それを思い知った途端、あの夢の言葉が灯乃の頭の中に思い出された。


 “お前が知る温もりは――俺だけでいい”


 灯乃はその瞬間に紅潮した。

 心臓がドクドクと響き渡ってくる。

 あれはただの夢で、今は心配してくれているだけ。

 目の前の彼は、あの夢のように恋愛感情をもって接してはいない。

 あの言葉のように、縛ることなんて言わない。


 けれど――気持ちが変に期待し高ぶる。

 もし、恋愛感情をもっていてくれたなら?

 もし、我儘を聞き入れずに縛ってくれたなら? と。


 ――まったく、何を考えているんだろう、私


 「これは斗真が持っていて」

 「灯乃……」


 灯乃は刀の鍔に触れると、そっと斗真の方へ優しく押し返した。


 「これは斗真の大事なものだから、簡単に誰かに預けちゃ駄目だよ。私なら大丈夫だから」


 灯乃は顔を上げると、斗真をまっすぐ見つめた。

 本当なら彼の三日鷺である自分は、もっと縛られてもいい筈なのに、斗真はいつだって我儘を許してくれる、自由をくれる。

 そして――信じてくれる。


 「私は十分あなたに守られているから。力をたくさん貰ったから、だからもう大丈夫」


 迷うことなんてなかったことを灯乃は知る。


 ――斗真は私を信じてくれている。だから私も、斗真を信じてる。

 雄二のことは、自分で何とかしよう。

 だって、決めたじゃない。

 

 ――私が斗真を護るって


 灯乃は斗真に、満面の笑みを浮かべた。

 するとその瞬間、彼女の姿がじわじわと三日鷺へと変わる。

 刀に触れていたせいだろう。

 しかしその姿に、斗真は思わず息を呑む。

 いつもなら灯乃の髪は炎のように紅く伸びていくのに、まるでメッシュを入れたように所々黒味が混じりながら伸びていき、装束も以前よりも更に黒いような気がする。

 白に近づきつつあった彼女の姿とはうって変わり、それはまさに(からす)に突き進んでしまったであろう姿に変貌していた。


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