表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
三日鷺~ミカサギ~  作者: 帝 真
第6章 恋心〜黒(からす)
46/80

恋心~黒(からす)~・5

 「灯乃……その髪……!」


 戸惑いを含む彼の声に気づいて、灯乃はようやく自身の髪の色を知る。

 先程見た三日鷺の翼と同じ、燃えるような紅。


 「同化が進んでるんだね。……もうじき、乗っ取られちゃうのかも」

 「お前……やっぱりそこまで知ってたんだな?」

 「そりゃあ私のことだもん。仁ちゃんなんて、見ててすぐ分かっちゃうよ」


 そう言って灯乃は小さく笑った。

 だがそれが斗真には幸薄く映ったのか、悲しそうな表情を浮かべると、彼女は気遣うように続ける。


 「大丈夫、まだ大丈夫だよ。その為に斗真が私に命令してくれたんでしょ? じゃなきゃ、黒に近づくって分かっててしないもんね」


 灯乃は呟きながらも思う。

 やっぱり斗真に護られていたと。

 彼が私欲で命令なんて絶対しないことは分かっているが、少しくらい甘えてくれてもいいのにと、何処かで残念に感じる。

 斗真を護りたいと思っているのに、支えてあげたいと思っているのに、結局はあまり頼られもしないのだ。

 そう思うと、いつもの暗い感情が再び彼女を襲う。

 開いていた窓から弱々しい風が吹いた。

 灯乃の髪を揺らし、心を揺らし――

 けれどそんな時、ふと頭に三日鷺の言葉がよぎった。


 ――我と意を同じくする者よ


 彼女の目に紅色の髪が映り込み、その途端、全身にビリッと刺激が走った。

 それが何なのかは灯乃にも分からないが、ドクドクと自身の鼓動を感じ始め、生きているんだと知らせてくるかのように響いてくる。 


 ――もしかして三日鷺? 三日鷺が、私の意識の中に……


 何だろう、手に力が漲る。

 斗真の姿が目に飛び込むと、ぐだぐだと悩んでいる自分が急に馬鹿らしく思えてくる。

 彼は護るべき人、護りたい人。

 彼の為に、自分は今ここに存在している。

 それだけでいい、それさえ分かっていればいいではないか。


 ――私はあなただけの三日鷺


 「斗真、私はあなたを護りたい。護られてばかりは嫌だよ」

 「灯乃……」

 「強くなる。絶対強くなるから」


 そして共に星花を救い出そう。

 灯乃はそう改めて決意すると、どういう訳か無意識に――斗真の前に跪いた。

 その光景に斗真は勿論、灯乃自身でさえ驚く。


 「なっ……!?」

 「あれ? 私、何を……」


 初めて斗真と出会った時のように膝を折る灯乃に、斗真は酷く眉を歪ませて思わず彼女の腕を引っ張り、無理やり立ち上がらせた。

 原因には見当がついている、三日鷺の同化だ。

 それが瞬時に分かると、途端に血が上ってしまったのか、斗真は感情のまま彼女を抱きしめた。


 「え……斗真?」

 「やめろ。お前が俺に跪くな」


 酷く苦しそうな声が耳元に聞こえて灯乃は戸惑うが、斗真は構わず強く彼女を引き寄せたまま、言葉を紡ぐ。


 「俺はお前に散々酷いことをしているんだ。自由を奪い、母を奪い、帰る家も奪い、そして今なお命までも奪おうとしている。それなのに、俺のせいじゃないと言ってくれる優しいお前が、悪魔のような俺に屈しないでくれ」


 やはり引き摺っているのか、斗真は自身を卑下する言葉を口にした。

 彼が悪い訳ではないのにそう思うのは、優しい証拠。

 そんな斗真に罪悪感という傷をつけてしまった自身の方こそ悪魔だと、灯乃は思った。


 「優しいのは斗真の方だよ。斗真のせいじゃないのに、その罪悪感につけ込んで私は護られてばかり。その優しさにつけ込んで甘えてばかり。こんなどうしようもない私に、こんなにも優しい温もりをくれるのは、斗真くらいだよ」

 「……俺、くらいか……」

 「……?」


 すると斗真は何を思ったか、抱く腕から力を抜くと身体を離し、そっと灯乃の小さな唇を親指でなぞり始めた。

 そんな彼の指がとても熱くて、ぞくぞくして、思わず灯乃の頰が真っ赤に染まると、互いの視線がかち合い、彼の目が何かを求めているように熱く感じた。


 「えっと……斗真?」

 「そうだな。お前が知る温もりは――俺だけでいい」

 「……!」


 すると次の瞬間、おもむろに斗真の顔が近づいてきた。

 彼の唇が灯乃のそれに重なろうと、ゆっくり。


 「えっ、斗真っ、それってキ……っ! ちょっちょっと待って!」


 慌てふためきながら目を瞑り、両手を突き出す灯乃。

 だったが。





 ――――あれ?





 押し出した手が何にも触れることなく空を切り、目を開くと斗真の姿もなく、気づけばただ部屋の壁に寄りかかるようにして座る自身だけがいた。


 「え…………夢?」


 もしかして眠ってしまっていたのだろうか。

 彼女以外誰の気配もなく、時たま外から流れ込んでくる小鳥のさえずりを聞きながら、灯乃はただ茫然とし、伸ばした手をそっと引っ込めた。

 これから雄二を探しに行こうという中で、何とも緊張感のない。


 「……私、なんて夢を……」


 紅潮した顔を両手で覆い隠し、灯乃は大きく息を吐いた。


 “お前が知る温もりは――俺だけでいい”


 斗真がそんなことを言う筈がない、確かにあれは夢だ。

 彼に頼られたいという願望から見てしまったものなのだろうか?

 それにしたって、これは頼られるというより何というか……恥ずかしい。

 しばらく意識してしまいそうだ。


 そんなことを考えている灯乃だったが、これから斗真と別行動になることを思い出すと、やっぱり寂しく思う。

 そんな彼女の髪は紅色ではなく、元の栗色の髪に戻っていた。

 それもはたして本当に紅色に変わっていたのだろうか、それさえも夢だったのかもしれない。


 ――いったいいつから眠ってしまっていたのだろう?


 灯乃は悶々と頭を悩ませてながら思っていると、その時、部屋の外から複数の足音が聞こえ、振り返ると、襖の向こうから亜樹が顔を出した。

 そして続くようにその後で斗真が姿を現す。

 さっそく彼と顔を合わせてしまい、ドキッとするが、動揺する灯乃とは対照的に、斗真はそんな彼女の様子に首を傾げていた。

 その仕草にやはり夢だったのだと、理解する。


 「……何だ?」

 「ううん、何でもない」

 「……」

 「灯乃ちゃん。ちょっといいかしら?」


 そんな時、亜樹が様子を伺いながら口を開いた。


 「これからのことで、あなたにちょっとついてきてほしい所があるんだけど」

 「え?」


 ついてきてほしい所とは?

 思わず斗真の方を見てしまうと、彼は安心させるように大丈夫だと呟く。


 「俺も一緒だ。灯乃、ついてこい」


 半ば強制的に同意させられると、灯乃は二人の後について部屋を出て歩き出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ