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三日鷺~ミカサギ~  作者: 帝 真
第6章 恋心〜黒(からす)
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恋心~黒(からす)~・3

 灯乃はみつりが寝かされていた部屋へ向かうと、ちょうど別の使用人が空の丸盆を持って部屋から出ていくところが見えて走る足をゆるめた。

 部屋の中は思っていたよりもずっと静かで、灯乃は拍子抜けしながらこそっと襖を開けて覗くと、そこには落ち着いて湯呑を啜るみつりと、同じような様子で亜樹と春明が対面して座っているのが見えた。


 「どう? 少しは落ち着いたかしら?」

 「えぇ、まぁ。暴れたってどうにもならないでしょうし」


 どうやら亜樹たちが上手く対応してくれたようだ。

 納得はしていないものの、状況的に冷静にならなければいけないことを察したのだろう。

 みつりは初めこそ取り乱しはしたが、今は無駄な言動は避けて亜樹から出された茶で喉を潤していた。


 「――さて、これから如何いたしましょう?」

 「えっ!?」


 そんな時、まるで灯乃の思考を読み取ったかのような台詞が側から聞こえ、彼女はビクッとする。

 近くに主将が控えていたことに気づいて、灯乃は驚いた胸を撫でおろしながらもみつりに目を向けるが、いったいどうすればいいのか見当もつかない。

 みつりは無関係の人間、急いで駆けつけてはみたもののどう接していいのかさえ、灯乃には分からなかったのだ。


 「あいつの頭の固さは、俺も知っています。その上、雄二が絡んでいるとなると、一筋縄ではいかないかと。どうなさいますか、灯乃様」

 「……その前に。先輩にそう呼ばれるのは、ちょっと違和感です」

 「慣れて下さい」


 渋面になりながら灯乃が呟くと、彼は目を細めて静かに笑った。

 たまに雄二の付き添いで空手部を見学していた灯乃にとっては、主将である彼に畏まった態度をとられるのは複雑なのだ。

 それを知ってか彼も苦笑を浮かべるが、そこへ仁内がだらっとした足取りでやって来る。


 「全くだぜ。あんだけコケにしやがって」

 「申し訳ございません。一度手合わせしてみたいと常々思っておりましたので、つい」

 「……ちっ……」


 主将がそう言って頭を下げると、仁内は顰めっ面をしつつもどことなく嬉しそうな様子で舌打ちした。

 手合わせしてみたい――力を認められていたのだ。

 そんな時、バンッと勢い良く襖が開かれ、痺れを切らせた様子の春明が灯乃たちに声をかける。


 「アンタたち、いつになったら入ってくるの?」


 どうやら声がもれていたようで、中にいるみつりや亜樹もこちらを眺めている。

 みつりに至っては不機嫌なまでに睨みをきかせていて、灯乃はとても入り難そうに顔を歪めるが、そんな時にふと春明と目が合い、彼が口の端をつり上げ含み笑いするのを見て、ポッと頬を赤く染めた。

 途端にあの時のやり取りが思い出される。

 

 「灯乃ちゃん、入って」


 いつにも増して春明が優しく彼女に手を差し出すと、灯乃はドキドキしながらもつられるようにその手を取ろうとするが、それを遮るように仁内がわざわざ間に割り込んで代わりに彼女の手を取った。


 「もたもたすんな、灯乃」

 「えっ、うっうん」


 突然のことで、灯乃は引っ張られるまま中に入るが、仁内はしっかりと春明に睨み、春明もまた彼を睨み返す。

 そんなギスギスした様子に亜樹は密かに目を見張るが、ふいに襖の方を向くと主将も中に招き入れた。


 「あなたも無関係ではないのだから、お入りなさい」

 「……それでは、失礼致します」


 彼は控えめに中へ入ると、灯乃たちの背後になる隅にその大きな身体を竦ませて正座する。

 するとみつりの目が険しく更につり上がった。


 「いったい何者なの? 雄二は? もうすぐ大会だっていうのに、どうするつもりなんですか?」

 「それは俺が判断することじゃない」


 主将がそう答えると、みつりの矛先はあっけなく灯乃へ傾く。

 元々彼女を目の敵にしていたのか、他に向ける視線とは全く違って一番厳しい。


 「やっぱりアンタのせいだった。雄二に何かある時はたいていアンタのせい。いつもいつも雄二の邪魔ばかりして、何様なのよ」

 「そっそれは……」

 「お姫様なんじゃない?」


 灯乃が何も言い返せず苦しそうに俯いていると、反射的に春明が茶化して答え、肯定するように亜樹もそうねと微笑んだ。


 「雄二君は差詰め灯乃ちゃんのナイトってところかしら。彼女を護るのが彼の役目だし」

 「護るのが役目? ふざけないでよ。こんな奴、護ったって何にもならないじゃない」


 みつりのその言葉に、幾人かがピクリと不愉快に眉を動かした。


 「お姫様? 冗談じゃない。何でこんな奴の為に、雄二が振り回されなくちゃいけないのよっ。雄二は何処に行ったのよ!」

 「おい、みつり」


 そんな時、仁内が恐ろしい程に冷たい口調で彼女を呼んだ。


 「口の利き方には気をつけろよ――ぶっ潰すぞ」

 「……っ!」


 彼の双眸が怒りを宿して鋭く見開き、みつりは一瞬たじろいだ。

 周りの空気も彼女に対して冷たい気がする。

 みつりはそれをすぐに察すると、奥歯を噛み締めて勢いを(こら)えた。


 「……何なのよ、仁内君まで。何でこんな奴を……っ」


 みつりがブツブツと不満を脹らませ、より灯乃への反発心を上げる。

 そんな彼女の様子に灯乃は心を痛めていると、亜樹がやって来た一つの気配に気づいて口を開いた。


 「彼女をどうなさるの? 斗真さん」


 遅れて姿を現した斗真に一同が視線を向け、彼は言葉を紡ぐ。


 「現状で三日鷺(コレ)を使うわけにはいかない。何とか黙認して貰う他ないと考えている」

 「斗真……ってあの……?」


 主将から斗真の噂を聞いているみつりは、彼が現れた途端に目を見開いた。

 聞いた話ではたった一人で大勢を倒したと。

 だからなのか、勝手に巨漢だと思い込んでいたのだが、実際現れた彼は細身で端正な顔立ちの男だった。

 確かに女子たちの噂で、緋鷺家は美男美女揃いだと耳にしたことはあったがあまりに予想外だった。

 みつりは思わず絶句するが、そんな中仁内が声を上げる。


 「無理だろ、どう考えたって」

 「だが、話し合いで解決するしかないだろ。なるべく手荒なことは避けたい」

 「はぁっ?」


 灯乃が《こんな奴》呼ばわりされて尚、みつりに手厚い配慮を考えている斗真の言葉に、仁内は納得できないと眉間に皺を寄せるが、斗真が灯乃の頭に軽くポンと手を乗せ、彼女の落ち込んだ表情に気づかせると、仁内はそういうことかと溜息を吐いた。

 みつりに手荒な真似をしようものなら、傷つくのは灯乃だ。

 彼女の様子から、みつりを巻き込んだのは自身だと思っているのは明白であり、まず真っ先に自責の念に駆られ、彼女が思い悩むだろうことは容易に想像がついた。

 みつりに優しくする気はないが、それでも灯乃のことを想うと雑に扱うこともできないのだ。


 「話し合いって言っても、事情を全て彼女に教える気なの?」

 「それは彼女次第だ」


 春明の問いかけに、斗真はそう答えた。

 流石に洗いざらいみつりに話す訳にはいかないが、彼女を説得できるくらいの情報は話しておかなければならないだろう。

 だが可能な限り、関わらせたくない。

 斗真はみつりに向き直ると、灯乃のこともあってか、少し冷ややかな目で話しかけた。


 「事情の全てを知れば、お前も危険な立場に立たされる。できることなら穏便に済ませたい。一切詮索せず、先程見たものも全部忘れて普段の生活に戻ることを推めるが?」

 「雄二も一緒に帰るなら文句はないわ。けど――彼には大会があるの、優勝がかかってるのよ。その妨げになるようなら、マネージャーとしてそれを放っておく訳にはいかないんだけど?」

 「……雄二くん、大会なんてどうでもいいって言ってたけどね」


 春明がボソッと口に出すが、それが聞こえているのかどうなのか、みつりは振り払うように眉をつり上げ春明に声を放った。


 「雄二は何処っ!」

 「雄二君は今、朱飛っていう子について行っちゃってて、あたしたちと敵対してるような関係になっちゃってるのよねぇ」

 「何ですって!?」

 「あいつは騙されてんだよ。まんまと朱飛に取り込まれやがって」


 仁内が吐き出すように愚痴をこぼす。

 するとみつりは、更に機嫌悪く顔を引きつらせて、バンッと畳を叩いた。


 「それじゃ一緒に帰れないじゃない!! そんなことで私が黙って引き下がるとでも思ってんの!?」

 「俺が知るかっ!」


 自分勝手に文句ばかりを言うみつりに、仁内は今にも堪忍袋の緒が切れそうな勢いで言い返す。

 一方で考え悩む斗真に春明が目を見張る。


 「どうするの?」

 「ある程度欠片を回収した後、本家へ乗り込もうと思っていたんだが」

 「星を取り戻すってこと?」

 「……」


 春明の一言に、斗真は口を閉ざした。

 まだ灯乃と星花のどちらかを選び切れていない。

 とりあえず星花を救出した後で考えようと都合よく思っていたのだが、みつりの一件で予定が狂い、悠長に構えている場合ではないのかもしれないと、頭によぎった。

 すると、そんな斗真の心情を読んでか、亜樹が口を挟む。


 「欠片については、幾つか私が知っているわ。あなたが動くのであれば、入手も然程難しくはないでしょう。けれどみつりさんのことを踏まえると、朱飛を探す方が優先になるのかしら?」

 「あまり時間を割く余裕はないと思うけど?」

 

 亜樹の言葉に春明が付け加えるようにそう言うと、斗真は少し悩んだ後、顔を上げてみつりに改めて問い質した。


 「雄二が戻ればいいんだな?」

 「そうよ。何なら、大会の邪魔をしないって約束もしてくれるのなら、忘れてあげてもいいわ」


 どうやら何かを決心したようで、斗真の目に力が篭る。


 「――二手に分かれるぞ」


 彼の口から答えが導き出された。


 「二手?」

 「あぁ、みつりといったな? 雄二を連れ戻したいなら、奴の説得に協力して貰う。それに必要なだけの状況説明なら、こちらもする」

 「いいの? 斗真くん」


 斗真の選択に春明が確かめる。

 雄二の説得に必要な情報は、かなり多いだろう。

 それをみつりに伝えてもいいのだろうか。


 「仕方がない。春明、お前も一緒に行け。お前にかけた命令が役に立つかもしれない」

 「……斗真くんは?」

 「俺は他の欠片を入手してから合流する。灯乃、仁内、お前たちは俺と来い」

 「ああ!」


 春明が灯乃と別行動になると知って、仁内は内心ヨシッ!と思い、つい返事に気合が入った。

 流石斗真、とさえ思う。

 彼も懸念していたのだろう。

 春明がしたことを伝えていて良かったと、仁内は思った。


 ――のだが。



 「待って。私――雄二を探しに行っちゃ、駄目?」



 今まで黙りを決め込んでいた灯乃が、口を開いた。

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